一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催しているオンラインセミナー。今回はYou Tubeで公開した第58回管理組合オンラインセミナーについて、一部を採録します。なお、これまでのセミナーはYou Tubeにより動画配信を行っています。全建情報図書館でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。
マンション給湯銅管の特徴
給湯銅管はほとんど専有部分の中にあります。給湯器からお風呂、台所等にお湯を送っている配管だとご理解下さい。
給湯銅管の専門的な名称は「外面被覆銅管」といい、JIS規格になっています。合金番号はC1120で、銅(Cu)が99.90%以上で構成されている配管です。
外面被覆とは、直接管に触ると熱いとか、熱を逃がすということになるので、外面に被覆をしています。被覆材はポリエチレン(P)または塩ビ(V)で、たいていはポリエチレン(P)を使っています。
銅管自体の肉厚は、JISの規格でKタイプ=1.65mm、Lタイプ=1.14mm、Mタイプ=0.81mmの3種類がありまして、マンションでは口径20AでたいていMが使われています。
ポリエチレンの被覆材は耐熱120℃以下、銅自体は200℃でも300℃でも持つと思いますが、基本的には200℃以下で使用となっています。この特性から、マンションで給湯管は銅管がメインで使われているということになります。
銅管は非常に薄い肉(0.81mm)なので、継手の接合方法は、いわゆる「ろう付け接合」といい、ガスバーナーを用いて450℃の高温でろうを溶かし、管と継手の中にろうを流し込む方法で、ろうが冷えたら抜けなくなる、止水もするという接合方法です。「はんだ付け」とは違います。
緑青(ろくしょう)については正しい知識が必要です。緑青とは「銅の錆」とよく言われます。錆と聞くと、鉄の印象が強く、良くないもの、という印象ですが、鉄のように腐食していつかぼろぼろにならず、古来の仏像など何百年経っても同じ形を保っているも
のが多くあります。
そもそも錆とは、金属の表面の不安定な金属原子が環境中の酸素や水分などと酸化還元反応(腐食)を起こして生成される腐食物です。
緑青も表面腐食物ですが、鉄錆とはずいぶん性質が違います。緑青の性質は、銅管の表面に不動態皮膜を作って内部の腐食を防ぐ効果や、抗菌効果があると謳っています。緑青は鉄と違い、腐食を防ぐ効果等があるため、日本の硬貨(10円玉、5円玉)でも銅をメインにして作られてきたということになります。
よく聞く話で、銅管に穴があくピンホール現象があります。針で穴をあけたような現象です。当然、穴があくと漏水が発生します。
ピンホールが発生する原因は、3つです。
(1) 水(お湯)は、ずっと止まった状態だとピンホールは発生しません。水を張った桶に銅を入れてもピンホールは発生しません。水。お湯が動くからです。流れるから発生するということになります。
(2) 銅管20Aの肉厚が薄い(Mタイプ肉厚0.81mm)からです。薄いからピンホールができやすいということです。
(3) 水(お湯)の中に穴をあける成分があるということです。
どういうところで発生するかというと、圧倒的にエルボ/チーズ継手付近です。水の流れが速いところで発生しやすいというデータがあります。
水の中に含まれている、穴をあける成分とは何か。これは、水の中にシリカ(ケイ素)が含まれているから発生することになります。これが影響しています。シリカ(ケイ素)が水の中に含まれ、ガラス状の結晶状物になるから、銅管に穴があくということになります。
水の流れと、ガラスの結晶状物が管に当たってピンホールができると、こういうふうになります。肉厚が厚ければ、ピンホールになりにくく。薄ければ、ピンホール現象になります。
銅管は専有部分の中しかありませんので、しかもエルボの付近で流速が速くなるところに穴があくピンホール現象が発生するので、どういうと
ころに発生するのかというと例えば台所付近や洗面化粧台付近の立ち上がりのエルボなどの部位に発生するのが多くの事例でよくみられております。
ピンホールで漏水をするとどうなるかという写真を3枚載せます。いずれも実際に私が調査に行った現場ですが、カーペットや押入れがずぶ濡れでした。
銅管は専有部分の中しかありませんので、しかもエルボの付近で流速が速くなるところに穴があくピンホール現象が発生するので、どういうところに発生するのかというと例えば台所付近や洗面化粧台付近の立ち上がりのエルボなどの部位に発生するのが多くの事例でよくみられております。
ピンホールで漏水をするとどうなるかという写真を3枚載せます。いずれも実際に私が調査に行った現場ですが、カーペットや押入れがずぶ濡
れでした。
漏水は自分の住戸だけの被害で済めばいいんですが、間違いなく漏水被害は下の階の専有部分に及びます。階下住戸に行って天井をあけると漏水が起きている、押入れを開けると家財がずぶ濡れになっているというような被害が必ず起きています。
マンションからの漏水で非常に被害が大きくなるというのが給湯銅管の漏水であります。
長期修繕計画における給湯管の位置づけ
国土交通省が2021年9月に発表した長期修繕計画作成ガイドラインで、給湯管の記述はまったくありません。当然、給湯管は専有部分で区分所有者の資産のため、長期修繕計画では扱わないことになっています。
漏水被害が一番多いのに長期修繕計画に立てていない形になっているのです。こういう形になっているから、世の中、給湯管の漏水問題が解決しないのでしょう。
結論は、①まず国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインに従っていても、給湯管漏水問題は何も解決しません。②管理会社は専有部分の資産ということで、解決案を何も持っていません。③結局は管理組合で解決方法を考えるしかないのです。
漏水による被害は管理組合の保険で対応しているが、原因個所の修繕はあくまでも専有部分扱いで、各戸任せとなっているケースが多いといえます。
漏水が発生した住戸はこれまで、個別で修繕するしかないといった決まりでした。
一方、管理組合事業として長期修繕計画に給湯管工事を盛り込み、各戸の取り替え工事をしようという管理組合もあります。
同時に管理規約を改正し、専有部分の工事に対し修繕積立金の取り崩しを可能にする対応をとっている管理組合もあります。
原資となる修繕積立金の値上げも検討する必要があるでしょう。
もともとの長期修繕計画に給湯銅管の修繕計画は一切ないので、修繕積立金を値上げして対応するしかありません。
つまり、管理組合事業で修繕積立金を取り崩して専有部分の配管工事をやることは簡単にはいかないということです。専有部分の部屋の中に入って、床を剥がす、壁を剥がす、設備機器を取り外す…いろいろな内装工事が発生し、非常に高額な費用がかかってしまいます。
給湯管を取り替えようと管理組合でほぼまとまったときに必ず発生するのが、「どうせ専有部分に入って床も壁も壊すのなら給水管も同時にやりましょう」「排水管も同時にやりましょう」ということになってしまう、これが一番良くない傾向です。
これが余計な工事を生んで、結果、修繕積立金不足、値上げというふうになってしまいます。これでは問題解決しているのかどうなのか、よくわからなくなります。
長期修繕計画に給湯管の項目作成を
長期修繕計画はこの際、現在給水管の修繕項目ある「更生」を廃止し、「異種金属接合部のみの修繕」に変更してください。
これで費用はガクンと下がります。次に「(更生後)取替」は「30~ 40年」、「(更生なし)取替」は「28 ~ 32年」とありますが、「更新」「40 ~ 50年」に変更してください。そうするとスパンが長くなって、月当たりの費用が下がります。
排水管は更生工事のみにして、更新(取替)工事は除外してください。更生工事で十分です。
大規模修繕工事の鉄部塗装と同じ考え方で、塗装すれば何十年も使えます。この見直しによって、既存の長期修繕計画から給湯管の修繕原資をねん出します。
ねん出した費用で、専有部給湯管更生工事を実施します。ピンホール漏水の説明を先ほどしましたけれども、調査をしてもわかりません。針の穴を見つけることは調査ではできません。
このため、「ピンホールは発生するものだ」という前提で、予防工事を実施してください。これで一番安く上がるのが給湯管の更生工事です。銅管の内部に樹脂を塗るという工事です。
樹脂を塗ると、シリカの結晶の発生が抑制されます。さらに肉厚ができて、穴があきにくくなるということで、これが一番単純で安上がりな給湯管の更生工法です。全戸で実施できます。
築20年経ち、ピンホールが心配だという管理組合には専有部給湯管更生工事をおすすめします。ぜひ検討してください。肉厚ができて、穴があきにくくなるということで、これが一番単純で安上がりな給湯管の更生工法です。全戸で実施できます。
築20年経ち、ピンホールが心配だという管理組合には専有部給湯管更生工事をおすすめします。ぜひ検討してください。
ただし、すでにピンホールだらけで、もはや更生工事では間に合わないという高経年マンションでは、ねん出した費用を使って、専有部給湯管更新工事(樹脂管に取り替え)をやるしかありません。
ですが、ついでに給水管も、排水管もやろうとなってはいけません。あくまでも「給湯管」のみを取り替えるのがミソです。
あれもやろうこれもやろうでは、結局戸当たり100万円以上かかるとか、150万円になるとかという話になってしまいます。給湯管の更新工事を選択したら、給湯管だけを行うと、これが絶対的なミソなのです。
大規模修繕工事新聞152号