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第59回管理組合オンラインセミナー採録/「マンション負担増大、駐車場平面化へ、その現状と対策」

 ついに申込者2,000人超!一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例オンラインセミナーへの申込者が2,000人を超えました。一管理組合の平均参加者は1.1人で、単純計算で1,900管理組合以上の管理組合に配信していることになります。
 このページでは8月28日にYou Tubeで公開した第59回管理組合オンラインセミナー「マンション負担増大、駐車場平面化へ、その現状と対策」について、一部を採録します。
 なお、これまでのセミナーはYou Tubeにより動画配信を行っています。全建情報図書館でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。全建センターのホームページから検索してください。

老朽化による不具合の事例

 機械式駐車場は、5年に一度、発錆による腐食を防ぐため、塗装工事が必要となります。ただ、この定期補修を怠ると、例えば上段の発錆部より、雨水が下段の車に落下して、もらい錆が起き、損害賠償問題などに発展する場合があります。
 老朽化するほど経年による機械の故障が増え、利用者の通勤に支障をきたすことが頻繁に起き、これが利用者が減っていく悪循環につながります。
 機械式駐車場の市場は、ピーク時10万台強であったのですがが、現在では3万台程度まで減っております。かつて多くあった参入企業が、次々と撤退し、現状では大手3社が8割シェアを占めている状況です。
 そうなると、撤退したメーカーの機械については、補修部品の供給ができなるので、20 ~ 25年に一度の更新費用が割高になってしまうということになってきます。
 利用者が少なくなり、故障による修繕費が嵩むため、修理す
るのをやめて地上部分だけを使用しているケースがあります。
 修理をせず、昇降をやめて、地上部だけを使っていても、下段の老朽化は進んでいます。車台パレットの落下事故につながる例もあるのでたいへん危険です。
 2021年3月までの5年間で、マンションの機械式駐車場パレットの落下事故が15件発生しています。2017年~ 2019年に起きた3件の事故では、いずれも部品の交換を推奨されていたのですが、それを見送っていたことが原因とみられています。
 さらに2007年~ 2016年6月までの間で、32件の死亡・重傷事故が発生。そのうち12件は死亡事故に至りました。
 定期点検や補修をやめて、パレットを溶接し、固定化するケースがあります。機械式駐車場の使用をやめ、支出を抑えようとするものですが、パレットの隙間を塞ぐことになり、地下空間に湿気が溜りやすくなり、錆の進行が早まり、カビ・害虫発生のリスクが高まることにつながっています。

空き問題の解決策
 まず駐車場の空きによって、赤字が蓄積し続ける現状というものがあります。
 これは、リセールバリューの価値低下ということになってきますが、価値を低下させないためには「適正な台数」の駐車場にする必要があります。
 この問題を解決するには、減築しかない―すなわち修繕費用のかかる機械式駐車場の台数を減らすことしかないことになります。
 では、「適正な台数」とは何かと考えますと、現状の必要台数なのか、将来的な空きを想定した必要台数なのかといった問題になります。
 敷地に余裕があれば、自走式に変更ということも考えられますが、広大な敷地面積や膨大な建築費が必要なことから、多くのマンションではあまり現実的ではありません。
 解決策としては、減築しかないことにつきると考えられます。

機械式駐車場の解体決断へ
 機械式駐車場というのは管理組合の財産ですから、それを減築(解体)することは財産の喪失に当たります。
 そのために事前の準備として、例えば住民アンケート(マンション駐車場あるいは外部駐車場の利用状況、使用料の相場、解体し平置き化した後の希望する用途=駐輪場の増設や倉庫の新設など)をとることが必要になってきます。
 また、空き状況については、10年、20年遡って、どういった推移をしていったかをわかりやすく見える化して、将来的な予測を見立てる推移表というものを用意することも大切です。

 上記のマンションにおいて、設置されている機械式駐車場をこのまま使用した場合を、平均額をもとにシミュレーションしたいと思います。
 まず、定期点検費と修繕費用の15台分合計が年間144万円かかります。15年目は年間144万円に加え、部品交換・修繕費用300万円で、444万円の支出になります。
 収入は1台当たり月額1.2万円なので、全15台のうち9台分の年間129.6万円が計上されています。使用料129.6万円から定期点検費等の144万円を差し引くと、それだけで毎年14.4万円の赤字です。空き6台分の使用料が入ってこないことが赤字の原因です。
 来年が15年目なので保守・点検会社からの最低限の部品交換に300万円必要だと提示されています。
 このままでは築30年目で累計約560万円の赤字、これに25年目の新規更新費として115.0万円/台×15台分=1,725万円を加えれば、築40年時では累計約2,716万円の赤字になる計算に見込みです。

15年目に機械式を一部平面化
 次に15年目に機械式駐車場を一部解体し、平面化するとどうなるかといったシミュレーションをします。
 15年目の部品交換・修繕費用は6台分のみの150万円とし、5基のうち3基分の機械式を解体して平面化し、3台分とする工事に400万円計上します。
 駐車場は機械式6台、平面3台の計9台に変更となり、今後は定期点検費と修繕費用が機械式6台分(年間57.6万円)の支出でいいことになります。
 とはいえ、また空きが出ることを予測し、シミュレーションでは30年目の契約台数を2台減らした7台としました。ですが、年間に支出が6台分57.6万円に減っているので、契約台数7台分の使用料100.8万円-57.6万円=年間43.2万円が黒字として計上されていきます。
 このため、築40年時に6台分の新規更新費をかけても、累計で315万円の黒字になります。赤字を避けた状態が続くことになります。

最後に~合理的な駐車場の管理方法へ

 駐車場を平面化した後、そのスペースを新たな用途に変更し、有効活用している事例マンションもあります。 駐車場に限った収入と支出の将来的な流れを把握し、駐車場の減築、駐車場使用料の増額を含め、色々な場合分けにより、合理的な駐車場の管理方法を見つける必要があります。
 空き状況が常に3割以上ある場合、常時赤字が蓄積している可能性がありますので、早急に解体の検討が必要です。
 長期修繕計画が、実情に合わない稼働台数で設定されていないかについても確認してください。
 住民アンケート等で、現状の利用状況や将来的に車利用をするかどうか、空間利用のニーズなどを把握する必要もあるでしょう。
 故障を放置して地上部分だけを使用している場合や、上段パレットの発錆を放置して、メンテナンスをしていない場合などは、大事故につながる恐れがあります。事故につながる前に対応が必要です。これは管理組合の責任を追及されることになります。

大規模修繕工事新聞 22-10-154号