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第62回管理組合オンラインセミナー/公開!2022年相談ランキングベストテン

 一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は2月26日にYou Tubeで公開した第62回セミナー「公開! 2022年相談ランキングベストテン」を掲載します。
 なお、これまでのセミナーはYou Tubeにより動画配信を行っています。全建情報図書館でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。全建センターのホームページから検索してください。

佐藤理事 大規模修繕工事の18年周期は当センターのセミナーでも最も多く取り扱っています。実例も踏まえて何度も何度も発信をしています。問い合わせが1番多かったということからも、やっぱり大きな反響をいただいてるんですね。
 18年周期の大規模修繕工事を実現化するために必要なことは、実は“意識の変革”です。
 国土交通省のマンション再生マニュアルにあった「12年」を超えて13年、14年、15年で、漏水がもう雨が降るたびに頻発して外壁がボロボロ剥がれ落ちてるマンションがあるでしょうか。
 それでも「18年にして大丈夫なのか?」と思っている人が多い。
変えなきゃならないのは工事のやり方ではなく、実は皆さんの意識なんです。
 何か問題があったら責任は理事がとる、という発想があれば、マンションで大きな方針を決めるなんてことなんてできません。みんなが同じように責任を共有するんだと。その上でどうやって過ごしていくのか決めましょうと。誰にも責任を転加しないという意識を持たないとダメです。
 大規模修繕工事のロングスパンは、もう本当にどこのマンションでも手の届くところに来ています。

 

佐藤理事 コロナ禍となり、ストレス社会がより一層加速し、ちょっとしたことで何かトラブルになることが増えています。
 弁護士に頼むなんてと敬遠される方が多いですが、弁護士イコール裁判でもないですからね。心の抵抗感を取っていただきたいというふうに思います。
 マンション内のトラブルの処置が適切じゃないと、エスカレートして非難合戦のようになるケースがあります。
早いうちに法的な部分を含めて責任の所在がどこにあるのか、その責任の所在の程度がどの程度なのか、特に理事会においては、それをきちっと把握するために弁護士のアドバイスを受けるということが非常に有効な手段だと考えられます。
 また各種契約においても、弁護士にあらかじめ契約の中身についてリーガルチェックを依頼しているケースが増えています。
 第三者の法的な立場の目線が入ることで、緊張感のある信頼関係が築きやすいというメリットもあります。


佐藤理事 国土交通省の全国マンション総合調査によると、日本のマンションの7割は50歳以上の人が住んでるというのが実情で、バリバリ働いてこれから給料が上がる30歳代はたった7.1パーセントしかいないんです。
 もう少子高齢化、ここに極まれり!ということがマンションの年齢構成を見てわかります。この問題に踏み込まない限りは日本のマンションスラム化しますよ。
 マンションの財産価値を図るんだっていう話で、現役としての収入もなく、年金だけの人で決められていく。資産価値という言葉がどれぐらいほど響くでしょうか。
 どう暮らしたいか、どう暮らしたら幸せか―この突き詰めをピシッと管理組合としてやるべきだという風に思います。この突き詰めをやることによってコミュニケーションが取れてくる。ここが大事で、コミュニティの醸成にもつながります。
 そして、同じ方向性が持てるようになれば、建物をどうするのかという方向性も決まってくるんです。

水島理事 役員が60歳代、70歳代だと、例えばペーパーレスにしようとかって言ってもなかなかできない。パソコンでメールのやりとりができないので、いまだに掲示物をフロント担当に持っていかないといけないとか、非効率な部分につながってしまう恐れもあるんです。
 先ほど佐藤理事の話にもあったとおり、どういうマンションにしていくかという、きちんとしたビジョン作りが重要だと思います。

木村理事 そのマンションにとってどのような方法が適切なのかをきちっと考えて方法を決めることが大事だと思います。
 基本的には更新工事を行いますが、部分的にはどうしても延命工法や更生工法しかできない部分も給排水管の中にはあります。
 日常生活を営む中で限られた制限断水、排水制限を行う場合、それぞれのマンションの特性に適した工法を選んでいく、ということが大事なわけです。
佐藤理事 率直にお聞きしたいんですが、お金の部分も大きいと思います。例えば築40年くらいのときって、3回目の大規模修繕、エレベーターや機械式駐車場、開口部の更新なども重なる時期ですよね?
木村理事 たとえば、現在は排水管の問い合わせが非常に多いんですけど、排水管の改修工事については、ライニング工事の方が圧倒的に安いってこと、実はそうでもありません。
 配管のある位置とかでライニング工事の方が高いこともあるんです。
 逆に更新工事のほうが4倍も高い場合もあります。だからどの工法がいいってわけじゃないんです、やっぱり。
 長いスパンで考えた時に、その時期にどの工法を当てはめるのがよいのか。全体を見て決めていくっていうことですね。

佐藤理事 当センターではトータルマネジメント(TM)方式を5年ほど前に提言・発信させていただきました。
 TM方式は、設計監理方式とは別物です。設計監理方式と同じように工事全体の管理などを求められても、全然違うものということになります。
 管理組合の中で工事会社選定の合意が取れている必要があります。すなわち施工の担い手の姿が見えている管理組合に対して最も適してます。
 工事会社から見積もりを取って競争さして、プレゼンを受けてという一連の過程のサポートにお金を払う必要はありません。
 管理組合が特定の工事会社を決めて、それを当センターが適切な会社か、適切な工事内容か、適切な工事金額かをジャッジするのがTM方式なのです。
 費用は設計監理方式よりはるかに安いです。
なぜかというと、設計、監理、検査は工事会社がやることになるからです。
 TM方式とは、信頼関係で工事が成立するのをお手伝いすることだと理解していただける管理組合であれば有効だといえます。

水島理事  管理組合から相談を受ける際、修繕積立金が実際ショートしてしまうマンションがほとんどです。ひとつ言えるのは、まずは長期修繕計画をきちんと作りましょうということです。
 国土交通省の修繕積立金ガイドラインに当てはめると、今の積立金では足りないということになってくると思います。ガイドラインの数字がダメというわけではなく、現実の話と乖離している部分が多い。
 ですので長期修繕計画をきちんとできてるかどうかを見直していただくことがスタートです。
 修繕積立金の用途は大規模修繕工事をはじめとして、共用部分が対象で、それが30年間のうち、いつどういった工事が必要なのか、グロスでどのくらいかかるのか。その把握が一番大事なのです。

 


木村理事 最近よく相談受けるのは、専有部分の給水管、給湯管、排水管の取替えについて基本的に長期修繕計画に入っていないということです。
 専有部分の配管改修を共用部分と一体的にやった方がおそらくコスト的には抑えれると思います。
 しかし、修繕積立金では一体的工事ができないケースが圧倒的に多いわけです。貯まっている資金でやれる管理組合はほとんどないんじゃないかと思います。
水島理事 有名なあるマンションで長期修繕計画どおりにきちんと工事を行うと、1戸当たり2,000万円かかるレベルだそうです。まずはやはりきちんと自分たちのマンションの長期修繕計画の見直しですね。そこがスタートです。

木村理事 先ほどもお話した通り、近年はお部屋の中に入る工事が多いですから、100世帯あったら100世帯の工事パターンがあって。その工事をきちっと監理して、助言して、いい工事を残していくというより、居住者の皆さん、管理組合さんを全体的にサポートできるコンサルタントが必要ということになると思います。
 これをできる人は実際問題、なかなかいません。給排水管改修で専有部分に入る工事について、どれだけ景観を持っているコンサルタントなのかということが非常に大切な要件です。
佐藤理事 すなわち工事を成功に導くには、技術的なサポートだけではなく、ソフトパワーみたいなことも含めて知恵袋を持ったコンサルタントじゃないとトラブルになる可能性があるということですね。
木村理事 例えばトイレ回りの改修で、最低2日間トイレが使えないとなると、住民の高齢化の問題と相まって、玄関の外に出なくてもトイレができるような仕組みがやっぱり必要になってくると思います。
 仮設工事費も今後は膨らんでくると思います。お客様の要望がどこまであるのかって工事会社側はわからない。
その情報を得られるのがコンサルタントの要件となってきます。

木村理事 直近の給排水管改修の実情ということですけども、様々な社会情勢がありまして、ポンプや給湯器、エアコンなど主に機械類の納期が決まらないという問題があります。
 また、築30年、40年の室内に入って給排水管を取り替えなければならない、内装工事が伴う場合、お住まいの中で床や壁や天井を壊して戻すことができる職人さんが非常に少なくなっています。
 この状況は、2024年までもまだ続いていくと感じてます。
 工事をやりたくても、良好な職人さんが確保できない。そういうことになりますので、早め早めの相談をいただいて計画を立てていかないと、材料が入らないとか、職人がいないということになります。

 


佐藤理事 職人不足について、例えば多能工、1人2役、3役できる人がいれば解決できる問題ではないのですか?
木村理事 配管屋さんは割と器用で、小規模な内装工事くらいならできる人はいますが、内装屋、大工が給排水をやるっていうことはまずないですね。
佐藤理事 多能工は理想ですが、日本の建設業界が垂直分業なんですね。各種の専門分野で成り立っている。1つの分野で見習いから1人前になってという具合です。1人前の仕事ができるには年季がいる、という考え方が日本の建設業界にあるのです。
水島理事 前回のセミナーでも再三申し上げましたが、管理会社変更というのは結局、「目的を持ってやりましょう」ということです。
 単に今のフロント担当者と相性が悪いからとか、今の管理員がしっかりしていないとか。そういった感情的な部分ではなく、やはり、将来的に自分たちの住んでるマンションがどういう風になっていきたいのか、どういう風にしていこうかなど、管理組合としてきちんとしたビジョンを持って取り組むべきじゃないのかと思います。
 管理会社では現在、収益の取れない物件に関して契約更新をしないという大手の管理会社があります。今、人件費の高騰であったり、管理会社を取り巻く環境は非常に厳しくなってきているので、以前は「大手だからいいだろう」ということもありましたが、今は管理組合側の方がパートナーとして今の管理会社がふさわしいかどうかきちんと検証してから、管理会社変更に取りかかっていただきないなと思っています。
佐藤理事 管理会社を変更しようと思うと、一般的にどのくらいの期間を見ておいたらいいのでしょうか?契約更新のときに管理自体が途切れてはいけないので。
水島理事 基本的には半年ぐらいかかる作業になります。契約期間の終わりから逆算で進めていくので、まず、管理組合の年度と委託契約の期間は別なので、そこを確認にしてください。
 現実的に理事会が中心になるものの、やっぱり水先案内人として管理会社変更のためのコンサルタントがいたほうがスケジュール管理も安心です。
 管理組合側で詳しい方がいれば、その方が率先してやっていただいてもいいんですけど、いわゆるプロ同士で話したほうが実務的に早い部分があるというのはあります。


水島理事 第三者管理方式が進んだポイントは標準管理規約の改正(平成28年)です。35条の役員選任の要件について、「外部専門家を理事として選任できることとする場合」が可能となりました。
 この場合の専門家としては、マンション管理士のほか弁護士、建築士など一定の専門家が想定されています。
 ただし、この第三者管理方式は、すべてのマンションに当てはまるわけではないと、私個人としては考えています。しっかりとしたコミュニティがあってきちんとした管理組合運営がなされてるマンションには当てはまらないかもしれません。
 一方、住民が高齢化しているマンションや区分所有者がほとんど外部にいる投資用マンション、リゾートマンションに関しては当てはまるケースもあるといえます。
 現在の理事会方式では理事長が管理者ですが、一区分所有者にそこまでの責任を負わせるのかという部分もあり、権限が大きすぎるというのもちょっと問題があるかなと思います。
 今、大手の管理会社から管理組合に対する提案が出てきていますけれど、まだ私自身も良い悪いの判断はちょっとまだできないのが現状でございます。
佐藤理事 管理会社は管理者としての役割について、「プロフェッショナルとしての役割はプロに任したらどうか」という発想です。
 ただし、実例が少なく、フィードバックされた問題点が表に出ていません。現実的なフィードバックによりメリット、デメリットがわかれば、またこうしたセミナー等で解説していただけると思います。

大規模修繕工事新聞2023-03-159号


今回のセミナーの詳細は全建文庫No.39「管理組合の悩みに全て答えます!
2022年相談ベストテン」をお読みください。
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