一般社団法人日本マンション学会は4月22日、23日、京都市左京区の京都工芸繊維大学で4年ぶりに通常の対面式にて京都大会を開きました。
22日のメインシンポジウムのテーマは「社会的資産としてのマンション再生・長寿命化への道すじ」。社会資産となりうるようなマンション像を視野に入れ、地域社会との共生やコミュニティづくりといった課題も含めた「再生」「長寿命化」に向けての処方策について議論が行われました。
大会趣旨説明(要約)
会長 鈴木克彦・京都橘大学教授
2021年9月に公表されたマンション管理適正化指針において、マンションを「社会的資産」と位置づけているのは、マンションという居住形態が区分所有者等自らの居住環境の質確保だけにとどまらず、周辺の住環境や都市環境にも影響を与えるものであり、都市景観の形成や地域コミュニティの醸成、地域防災性能の向上といった役割をも担っていることを意味している。
「社会的資産としての資産価値」を保全するためのマンションの再生・長寿命化を視野に入れた取り組みが大切であることをあらためて認識する必要がある。
メインシンポジウムでは、単なる資産保全のための再生・長寿命化論だけでなく、「社会的資産」となりうるようなマンション像を視野に入れ、地域社会との共生やコミュニティの再生といった多様な課題を包摂した持続型社会に向けての「再生」「長寿命化」について幅広く議論したい。
「再生」の手法については、建替え・敷地売却だけにとどまらずに、スケルトン状態での解消や用途変更といった課題も視野に入れた議論に期待する。
メインシンポジウム概要
1.「 マンションの長寿命化に向けた取り組み(ビデオ上映)」/故小林秀樹・千葉大学名誉教授
2.「 旧耐震基準の区分所有マンションの耐震改修に向けて」/西澤英和・関西大学名誉教授
3.「 京都市におけるマンション管理の適正化に向けた取り組み―管理不全対策と管理状況が評価される環境整備」/神谷宗宏・京都市都市住宅政策課企画担当課長
4.「 マンション再生に向けた法制度の経緯と展望」/折田泰宏・弁護士
5.「 高経年マンションの流通におけるファイナンスの影響力―京町家のファイナンスの経験を踏まえて」/西村孝平・株式会社八清取締役会長
メインシンポジウムまとめ
鎌野邦樹・早稲田大学法科大学院教授
マンションの住戸の管理は各区分所有者が行い、共用部分や敷地等の管理は管理組合が団体的に行う。その限りではマンションは「社会的資産」ではない。
ただ、マンションは、区分所有者の「生活基盤」であり、「最も重要な財産」であるとともに、「都市ないし地域の重要な構成要素」である。
区分所有者の利益の維持が、地域の利益につながり、その規模からしてマンションの「適正管理」「適正改修(変更)」「適正建替え」「適正解消」は、地域社会に大きな影響を及ぼすから、地域にとってもこれらが強く求められる。
もちろんマンションが「社会的資産」になることが望ましい。だから、どうやって「社会的資産」にすべきかという問題だと思う。
最終的にはやはりコミュニティなしには、実際には合意形成が難しい。建て替え、解消だけではなく、管理や変更でもコミュニティが基盤になる。
実は、コミュニティをどうやって作り上げていくかは、区分所有法改正では限界があり、できない。せいぜい「区分所有者の責務」を設けるぐらいしか法はできない。
マンションのメインルートは、適正管理、適正変更、災害などがあった場合には適正復旧、そして長寿命化を得て、最後は適正解消となろう。
そして、サブルートで「1棟リノベーション」または「建替え」の選択肢がある。
現在、審議が進行している区分所有法改正においても、このような流れの中で各制度が円滑に機能することが求められる。
左京区高野地区マンション見学会
23日は旧日本住宅公団が1980年前後に、工場跡地に分譲した企画型の分譲集合住宅を見学しました。
1.北大路高野住宅(京都市左京区高野上竹屋町)
低中層高密化・企画型住宅
①建築年:1980年
②住戸数:RC造・2階建て・120戸
③分譲会社:旧日本住宅公団
新たな住宅モデルとして、タウンハウスと戸建てからなる集合住宅により、管理組合を構成。街路樹のある風致地区内の工場跡地で、団地は沿道型配置、中庭はコモンガーデンとし、近隣コミュニティ形成に配慮されている。タウンハウスは周辺の戸建てと調和する勾配屋根や専用庭など、立地に応じたデザインを追求した。
・高野第3住宅
①建築年:1981年
②住戸数:RC造・3、5、7階建て・654戸
③分譲会社:旧日本住宅公団
④管理会社:東急コミュニティー
2.東大路高野住宅(京都市左京区高野東開町、西開町)
景観配慮・企画型住宅
・高野第1住宅
①建築年:1979年
②住戸数:RC造・3、5、7階建て・92戸
③分譲会社:旧日本住宅公団
④管理会社:JS日本総合住生活
・高野第2住宅
①建築年:1980年
②住戸数:RC造・3、5、7階建て・330戸
③分譲会社:旧日本住宅公団
④管理会社:JS日本総合住生活
「住宅地にパチンコ店はいらない!」
―まちを守り育む地区計画を
策定させた高野地区住民の10年―
2012年8月、突如現れた大型パチンコ店計画。この地に住む建築家、大学関係者、弁護士等をはじめ、近隣住民によって反対運動が組織化された。
パチンコ店計画事業者との協議が進む中で、地区計画上の問題点が明らかになり、司法判断まで進んだ結果、住民の主張が認められ、2016年9月にパチンコ店計画が中止された。
平行して検討してきたまちづくり憲章、地区計画づくりも進展。京都市などへの要請を繰り返したことから2019年12月、パチンコ、麻雀、カラオケボックス等を建築してはならないとした地区計画が成就した。現在、大型パチンコ店計画跡地にはショッピングセンター(洛北阪急スクエア)が建ち、地域をつなぐ交流拠点となっている。
パチンコ店への反対運動は、図らずも高野東開・西開地区の魅力を再確認し、共にまちの将来像を考えていく素地となった。
これにより「まちづくり高野赤れんが憲章」を策定。まちづくり活動の中心となる「高野赤れんがまちづくり協議会」は地域の6管理組合、2町内会等で構成されている。
(大規模修繕工事新聞 162号)
北大路高野住宅の外観
集会所・管理事務所は旧鐘紡株式会社京都工場の建物を利用
第3住宅高層棟の屋上から各住棟を撮影。給水塔は現在モニュメントとして残している
高野第3住宅管理組合・堀口由貴男
理事長から管理組合の組織体制につ
いて説明を受けた