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第63回管理組合オンラインセミナー採録 管理組合による最新の弁護士活用方法を 伝授します!【後編】

第63回管理組合オンラインセミナー採録、管理組合による最新の弁護士活用方法を伝授します!【後編】
一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は4月24日にvimeoで公開した第63回セミナー「管理組合による最新の弁護士活用方法を伝授します!」の【後編】です。
 なお、これまでのセミナーはvimeoにより動画配信を行っています。全建文庫電子版でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。
 詳しくは9ページ『全建Library サブスクのご案内』をご覧ください。

第三者管理はデメリットあり、監視体制に弁護士活用を

佐藤成幸 全建センター筆頭理事
山村行弘弁護士(全建センター理事)

佐藤:それでは、新しい弁護士の活用方法について、ということでセミナー後半を続けてまいりたいと思います。
 ここからは第三者管理方式について、弁護士の先生方をどう活用していくのか。リゾートマンションや都心の小さいマンション、あるいは高経年マンション等におきまして、理事や住民による管理が十分に行き届かない、管理不全マンションの救済法ともいわれている第三者管理方式と、弁護士との関わり方について提言いただきたいと思います。
山村:第三者管理方式は理事のなり手不足が深刻な問題である現状において、区分所有者の負担を軽減できます。
また、専門的な知見が豊富な担当者に依頼できるため、管理業務の効率化や合理化が可能となるでしょう。
 しかし、他方でデメリットもあります。
 管理費が高額になる、利益相反のリスクがある、管理組合における運営ノウハウが蓄積していかない、一度変更すると従来の管理方式に戻しにくいなどといったものがあります。
 特に利益相反の問題は、大きな金額が絡む大規模修繕工事などにおいて問題となりやすく、これが起きないような仕組みや監視体制を構築していく必要があります。
 このような監視体制の構築において弁護士を入れることを検討されてはいかがかと思います。
東妻:外部専門家を活用する場合、管理組合の中で、どのようなパターンが適しているかに関しては十分に議論をなさっていただきたいというふうに思います。
 外部専門家を導入する際には、管理規約の変更が必要となるというケースも少なくありません。最終的には総会で導入決議をしていただくということになります。
 一度外部専門家を活用したけれども、うまくいかないから軌道修正をしようにも、総会で特別決議が必要になるということになると、非常に労力が必要になってしまいます。
 このため、コンセンサスを取る段階で、十分に見極めをしていただきたいと思います。
山村:現在、管理会社による第三者管理が話題になっています。
 区分所有者の高齢化や賃貸化の増加等による役員のなり手不足は深刻な問題になりつつあります。また、マンションの高経年化や新築マンションの大型・高層化が進み、マンションの管理運営には専門的な知識が必要となっています。
 このような状況において、いわば素人の集まりである理事会で管理運営を行うよりも、管理会社等の専門家にそれを委ねる方が合理的なことも多いでしょう。
 しかし、理事会を廃止する理事会外部管理者総会監督型の場合、年に数回しか開かれない総会が外部管理者を監督しなければなりません。区分所有者から監事を選任して外部管理者を監視することも義務づけられていますが、これもどれくらい機能するのか分からない部分もあります。
それに加え、一度理事会を廃止したら、その後理事会を復活させるためには手続上、非常に高いハードルがあります。
 管理会社による第三者管理方式を導入するには、このようなメリット・デメリットを十分に理解した上で判断する必要があります。

佐藤:利益相反等、デメリットの部分には、法的あるいは知見も含めた弁護士のようなプロの目線を入れることによって、その副作用を緩和できるものにする。弁護士を外部専門家として監事に設置するといった方策も視野に入れて、第三者管理を考えてもいい時代に来たのではないかなと思います。

大規模修繕工事の不具合、施工会社への働きかけも有効

佐藤:管理組合の代理人として弁護士が権利関係の対外折衝を行うことも可能ではないかという点で、話を聞きたいと思います。
 例えば、大規模修繕工事を実施した後は、各種工事で一定期間の保証期間というものが設けられます。屋上防水であれば10年、外壁塗装であれば5年や7年という保証期間で、施工会社やメーカーが保証書を発行し、管理組合に引き渡されます。
 ただ、保証契約に基づく不具合が発生したとしても、なかなか履行をスムーズに行わない施工会社もいるわけです。こうした場合、実際に管理組合が施工会社に直接話しても埒が明かないといったケースがあります。
 こうした事例に対して、弁護士の先生方はどのような活躍をしていただけるのでしょうか。
山村:実際に不具合が起きた場合、それが保証の範囲内であれば、当然に修補などの保証を行ってもらわなければなりません。
 保証の範囲内であるにも関わらず修補を行わなかったり、保証の範囲外であることを主張して修補を拒否するという施工会社に対しては、管理組合として不具合が起きたこと、それが保証の範囲内であることを主張して修補などを求めていくわけですけれども、場合によっては裁判などになりかねない問題ですので、早い段階から弁護士に相談して弁護士から施工会社に働きかけてもらうようにしていくことも有効といえるでしょう。

東妻陽一弁護士(全建センター理事)

東妻:大規模修繕工事の契約については、「民間(七会)連合協定/マンション修繕工事請負契約約款契約書」を用いることがあると思います。
 この中で、先ほどの契約不適合責任、要するに工事に何か問題があった際に請負者の責任を追及するといった場合に、約款では期間の制限が「引渡しから2年」と非常に短く設定されています。
 契約内容が約款のままという場合、何か問題があるということを気づかないまま引渡しから2年を経過してしまうと、もはや契約不適合責任の追及ができなくなってしまうということになります。
 このため、引渡しを受ける際に、第三者に問題がないかチェックをしてもらうことも考えたほうがよいかと思います。

多方面に及ぶマンション問題、トラブル発生後でも前でも弁護士活用を

佐藤:時代や社会的な背景が複雑化し、管理組合が対面しなければならない問題も多方面に及び、なおかつ増加しています。
 もはや従来通りの管理会社やコンサルタントの知見や能力だけに頼っておいては解決できない問題も発生しつつあるといえます。
 新しい問題の解決には、従来にはない新しい仕組みの担い手が必要と考えており、全建センターでは弁護士がこの新しい仕組みの主要プレーヤーであるとこのように考えております。

山村:理事のなり手不足が深刻な現在において、せっかく理事になっていただいたかたが、トラブル解決などのためにストレスを抱えなければならないのは、理事のなり手不足をさらに加速させることになってしまいます。
 何かトラブルが起きたとき、またはトラブルが起きる前でも、どうぞお気軽に弁護士に相談していただければと思います。

東妻:理事の皆様におかれましては、お仕事とあるいはご家庭のそういったものと両立をさせながら、半ばボランティアのような形で役員としての業務に携わっておられる方も少なくないと思います。大変な負担を感じ取られる方もいらっしゃるかもしれません。
 専門家の活用にはコストの発生ということは避けられないものではありますけれども、特定の理事の方に負担が重くのしかかるということがないように、ぜひ外部の専門家、特に弁護士を積極的に活用していただければと考えております。

(大規模修繕工事新聞 162号)



参考図書:全建文庫No.40
「管理組合による最新の弁護士活用法」
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大規模修繕工事新聞 162号