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第64回管理組合オンラインセミナー採録/理事長22年間で得た提言(田村 新講師)

一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は6月25日にvimeoで公開した第64回セミナー「理事長22年間で得た提言~管理組合は自立すべき~」です。 なお、これまでのセミナーはvimeoにより動画配信を行っています。全建文庫電子版でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。
詳しくは9ページ『全建Library サブスクのご案内』をご覧ください。


ライオンズプラザ上野毛管理組合 元理事長  田村  新 築29年・RC6階建て・63戸 理事長在任期間 (1999年~ 2021年)

管理組合は自立をするべきだ
本日は、理事長職22年間で、いろいろな経験をしたことを映像に残させていただきたいと思っております。
 やはり22年、理事長をやって一番重要に感じたのは、管理組合は自立をするべきだということです。
 理事長就任当初の4、5年は管理会社に頼りっきり、何かあったら全て管理会社に相談してましたし、管理会社の提案をほぼ100%受けてました。
 管理会社を頼って、いろいろな問題を解決していたんですが、あるとき一つ問題が起こり、それで管理会社に対する不信感が生まれました。
 給水ポンプが壊れたんです。
 マンションが建ってから8年目のことでした。なんで壊れたのか、管理会社の担当者に聞いたところ、「2週間ぐらい前に検査したんですが、壊れてませんでしたよ」というふうな変な答えが返ってきたんですね。
 「その2週間前の検査でわからなかったの?」と聞き直して、検査をした会社の人間も呼んで、どういう検査をしたのか、具体的に聞きました。
 そうしたら、検査は打音検査と目視検査だっていうんですよ。
それで給水ポンプの故障がわかるのかってことです。
 「じゃあ、お金かかりますけど、ポンプ自体の分解もやりますか」って管理会社が言ったので、次の年から検査は一切やめました。
 この検査費用34万円かかるんですよ。1回の検査でそんなものはお支払いできません。
故障することが事前にわからない検査は無駄でしょ?それからマンションの検査リストを全部出してもらいました。
 それでリストに×印を書いて管理会社に突き返しました。「これらの検査はやらない」と。もちろん法定検査だけは残しました。各検査を管理会社から組合独自に業者選定すると、なんと半額から3分の2になりました。
 管理会社の言う通りにしていると、いろいろな費用が無駄にかかってくるものなんだな、と感じたきっかけです。

タンクの水漏れから直結システムへ
 次に、水道局の検査でタンクから水が漏れてることがわかりました。検査員に聞くと「これはどうも施工が悪かったんじゃないんですか」というのです。
 これはどういうことかとまた管理会社の担当者を呼んで、水道局と論戦してもらいながら、欠陥なんじゃないかと全部調べたところ、管理会社が負けたんですよ。
 「全部やり直します」ということで、タンク全部、無料やり直しをしてもらいました。
 それはデベロッパーの保証期間内だったので0円でできたということが後で分かりましたけれど、そのときは、こちらは勝ち誇ったような理事会発表でしたね。
 さらに、水道局の人と話をしてたら、今はタンクを使わなくても給水できるようなシステムがあると言われました。タンクに水を貯めないで水道管から直接水を給水できるようなシステムがあるというのです。
 直結型にすることで、タンクの維持費もかからないのです。
タンクは地下にあるので、衛生的な問題はまったくないんですけれども、直結型のポンプをつけてくれる会社を探しました。
 あの時は10社ぐらい見つけて、その10社に全部見積もりをもらって、その時はお安いところにしました。
 私たちは「安かろう、悪かろう」を望んでいません。なので、精査をしていく必要があります。だからそこはやはり、専門家を交えて、専門家の意見をもらった上で、適正な価格を管理組合が判断をしたのです。
 専門家を入れてやっていくっていうことも、これからの管理には重要だと思っています。

鍵の交換でも管理会社に利益!?
その次に、鍵の問題です。管理会社から「もうそろそろ鍵の交換をしてください」という提案が来たんです。
 「鍵は壊れていません。交換は必要ないです」というと、「ストックがなくなってきたので、今から取り替える準備をしておきたい」というのです。
 実はこのマンションでしか使えない鍵が付いてたんですね。
 鍵業者の担当者に話を聞いて、今後は鍵交換がスムーズにできるようなものにしました。鍵は「安心」を買うものですので、予算組みをして、全戸の鍵を全部取り替えました。
 とはいえ、マンション特有に作らせて、「ストックがなくなりますよ」ってありえます?管理会社には絶対に騙されてはいけません。
 管理会社とは一線を引く。全てそこからですね。

居住価値をまず考えましょう
 それからは管理会社の言う通りには絶対にしない。言ってきたら全部管理組合で精査をしていくことにしました。ここが重要だと思いますね。
 ただし私も、そんなに知識があったわけじゃないので、知識を得るためにいろいろなセミナーに出ました。もう土日はほぼなかったですね。どこかのセミナーに顔を出していました。
 その中で私が感銘を受けたのは、「マンションの管理というものは資産価値を上げるためにやってはいけません」ということです。
 どこのセミナー行っても資産価値上げましょう、上げましょうって言ってるのに?
 そのセミナーでは、「資産価値を上げずに居住価値をまず考えましょう」と言っていました。「居住価値を上げられれば、資産価値がそれについてきますよ」と。
 資産価値ばっかり追い詰めてると、まあ電灯を消しまくるんですね。真っ黒マンションになるんですね。電気代がもったいないと言って全部消しているんです。真っ暗なんです。
 居住価値を上げるためには、必要な電気はつけて、そうじゃないところを消しましょう、あとは電球を蛍光灯からLEDに変えていきましょうと。そういうことがちょうど分かってきた時期ですね。
 そのLEDの研究がどんどん進み、価格もどんどん安くなってきたので、共用部分の電灯は全てLEDに変えました。
 そしたらなんと電気代は3の1分に落ちました。真っ暗なマンションにしたくはなかったので、夜は電気つけっぱなしです。

自販機、携帯電波、防犯カメラ…
 私のマンションは駅前で立地がよかったものですから、人通りが多いことを利用できないかと考えて、飲料水の自販機をつけてもらったんですけど、全然売れないんですよ。
 その頃、1本が130円ぐらいの時代です。収益になると思って期待してたんですけど、売れない。情報を集めると、今の主流は100円自販機に移ってるらしい。そういうことなら、と100円自販機の2社とお話をいたしました。
 それで条件の良い方と契約をさせていただいて、自販機を置いただけで1本も売れなくても、毎月固定費をくれることになりました。固定費プラス売上げが、管理組合に毎月入ってくるわけです。
 携帯電話の電波については、複数の携帯電話会社に「ちょっと強い電波にしてくれませんか」といったら、一社だけが応じてくれて、その一社に電波増強の装置を付けてもらいました。0円です。向こうから「つけさせてください」と。
 ただし、この電波増強装置を付けることによって、居住者に対してCMをやってもいいですかっていうことで、掲示板のチラシ貼り、ポスティングを許可しました。
 あと、昨今はひどい強盗が多発してます。防犯カメラは重要ですが、その防犯カメラも夜になったら誰が写ってるのか分からないような防犯カメラつけても仕方ありません。
 顔がちゃんと写るもの。車のナンバーも夜でも読みとれるもの。これも業者選定をして付けさせていただきました。
 先ほどの鍵の時にインターホンも交換しました。画像が映らない声だけのインターホンがついてたんですね。
 今すごいですね。画像付きのインターホンが、無線で取り付けることができました。特にお年を召していらっしゃる居住者の方は、喜んでました。いちいちドア開けなくてもいいとかね。
そのような弱者に対しても優しい取り組みを管理組合はどんどん進めていくべきだと思います。
 マンション内にあったシンボルツリーが問題になったことがありました。
 大規模修繕工事で足場を組んだ時に、なんとスズメバチの巣が見つかったんです。
 この木があることで居住者に迷惑をかけてはいけない、いつかは倒れる可能性がある、近隣の人たちにも迷惑がかかる、ということで伐採しました。
 その時も5社の見積もりを取りました。一番高いところで1本300万円という見積もりもありました。最終的には、その木の伐採とスズメバチの駆除、土地の整地含めて40万円でする
ことができました。

いろいろな業者からの情報収集を

 一つの業者を信用するのではなく、いろんな業者から情報を集めて協議をしていくことが重要だと思います。
 ただし、金額に振り回されるのではなくて、この金額が適正かどうかというものを管理組合で判断していくことが重要です。
 そういうことをもし管理組合でできないようでしたら、専門家を呼んでいろいろな協議に加わっていただくということが重要かもしれません。
 あとですね。私が理事長をやっているときには、管理会社からの提案よりも、業者からのダイレクトの提案が多くありました。
 このような話というのは、いろいろなセミナーに出席をして、いろんな人たちとつながりを持つことで来る話です。ただし、いろいろな話が来ますけれども、ほとんど関係のない話ばかりです。ですからそこをご自分で精査していくのも重要だと思います。
 業者選定は、管理組合にとっては一つのポイントです。
 管理組合は常に自立するために、あらゆるところの情報を得て、それで検討をはじめていくことが重要だと思います。
 管理組合として居住価値が上がり、それを維持していくためにも、どんどん情報を得た上で皆さんに判断していただく、というのが重要だと思っております。

大規模修繕工事新聞 163号