【事案の概要】
共用部分の瑕疵のために賃貸借契約が解除され、その後も賃借人が現れないことから管理組合法人の工作物責任に基づく損害賠償が認められた事案。
【当事者】
原告… 本件5階建てマンション・5階住戸部分の区分所有者A
被告…本件マンション管理組合法人X
【前提事実】
・ 本件マンションは昭和60年竣工(平成28年時点で築31年)。
本件住戸は平成19年9月から賃借人Bに賃貸されていた。
・ 区分所有者Aは平成26年12月、本件住戸の区分所有権所を取得し、賃貸人の地位を承継した。
・ 平成28年9月以降、本件住戸から漏水が発生。居室の天井、壁、フローリング等が破損した。
・ 漏水が原因で賃借人Bは平成29年10月に賃貸借契約を解約し、本件住戸から退去。
・ 平成31年4月、管理組合法人Xは共用部分である屋上の漏水対策工事を実施したが、令和元年9月の台風15号で再び漏水が確認された。
【原告の主張】
・ 本件漏水は共用部分である屋上の設置又は保存に関する瑕疵により生じたものであるのだから、管理組合法人Xは民法717条(工作物責任)を免れない。
・ 賃借人Bが平成29年10月に退去したため、平成29年11月~令和元年12月(26カ月分)の賃料収入(月額10万円)が得られなかった。
・ 原告の損害は本件訴訟の口頭弁論終結時まで、賃貸不能月数の賃料相当額260万円、漏水による破損個所の修繕費用、弁護士費用を含む合計約460万円である。
【被告の主張】
・ 漏水が本件マンションの共用部分に起因して生じたことを否認する。
・ 平成31年の本件対策工事後の漏水は別原因の可能性がある。
【裁判所の判断】
本件漏水は、共用部分である屋上部分の瑕疵によるものと認められる。対策工事にも不備があり、漏水の原因はなお解消されていない。
これにより区分所有者Aは賃借人Bに対し、損害賠償債務が認められ、賃借人Bの退去後、本件住戸は空室のままであった。
以上の認定事実を踏まえ、管理組合法人Xに対し、区分所有者Aの損害額約380万円の支払いを命じた。
【コメント】
本件は、マンションの最上階の居室を所有している区分所有者(原告)が、マンションの共用部分である屋上部分の瑕疵のため、居室に漏水が生じて損害を被ったとして、管理組合(被告)に対し,損害賠償を求めた事案です。
裁判所は、漏水について、マンションの共用部分である屋上部分の瑕疵によるものと認め、管理組合には、民法717条1項本文に基づく責任(土地工作物責任)があるものと判断しました。
その上で、当該居室の賃借人に支払った損害賠償金、賃貸不能月数の賃料相当額、電子使用料・給湯使用料、原状回復費用、更新料、弁護士費用を損害と認めました。
この事案は、投資用にマンションを購入した区分所有者が、共用部分の瑕疵を理由に管理組合を訴えたものです。
私見ではありますが、投資目的でマンションを所有している人は、自分が管理組合の一員という意識が希薄で、管理組合を管理会社等の事業者と同じように考えている傾向があると思います。
このような意識を基に区分所有者が管理組合を訴えるようなことが増えてくると、理事会の役員はトラブル対応に追われ、理事のなり手不足の問題に拍車がかかってしまうことになるでしょう。できれば、区分所有者vs管理組合という構図は避けたいものです。
とはいえ、このような共用部分の劣化等を原因とするトラブルは、築年数の古いマンションこそ起きがちです。このような問題が起きないように、管理組合はマンションの維持管理をしっかりと行っていくことが重要でしょう。
大規模修繕工事新聞 167号 23-11
山村行弘(やまむら・ゆきひろ)弁護士
2016 年、大空・山村法律事務所を開設。第一東京弁護士会刑事弁護委員、独立行政法人国民生活センター発刊『国民生活』の“ 暮らしの法律Q&A”(2010 年~ 2017 年)、日本経済新聞「ホーム法務Q&A」(2018 年1月~)の執筆担当。
◆山村弁護士への相談は…
大空・山村法律事務所
〒100 − 0012 東京都千代田区日比谷公園1−3 市政会館4階
☎ 03 − 5510 − 2121 FAX. 03-5510-2131
E-mail:yamamura@oylaw.jp