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第67回管理組合オンラインセミナー採録(前編)/第三者管理時代、リスクマネジメントは大丈夫ですか!?

一般社団法人全国建物調査診断センターが随時開催している管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は12月24日にVimeoで公開した第67回セミナー「第三者管理時代、リスクマネジメントは大丈夫ですか!?」の前編です。今号で管理者の権限、利益相反、人材不足等について取り上げます。
 過去のセミナーはVimeoにより動画配信を行っています。全建センターホームページからご視聴ください。

はじめに
佐藤 本日テーマの「第三者管理方式」ですけれども、国土交通省におきましては、建物の高経年化や居住者の高齢化の「2つの老い」に伴う様々な課題について、今後進めるべき政策を検討する「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」が8月にとりまとめを公表しました。
 このとりまとめに示された施策の方向性にもとづき、10月よりマンション管理における「外部専門家の活用ガイドライン」の整備等について検討する 「外部専門家等の活用のあり方に関するワーキンググループ」を立ち上げ、議論を行いつつあるという状況であります。
 実際のところ、理事のなり手不足等から第三者管理方式を委ねようというようなケースは潜在的にも多いと言われており、修繕工事の受発注を一手に行うというところから、いわゆる利益相反をはじめとした管理組合側の不必要な負担が増えるのではないかと、こうした懸念等についてもクローズアップされて報じられている事実があります。
 一方、マンションの投資目的所有につきましては、区分所有者が居住するという実態がありませんので、いわゆる理事会活動に対して後ろ向きであることも予想されており、様々な問題を解決すると言われているのが、第三者管理方式です。
 いずれにしても第三者管理方式は様々な問題が指摘されています。本日はこうした内容等について解説を加えて参ります。

「第三者管理方式」とは?
佐藤 それでは、本日は管理組合の立場で現場に徹して活動をされている全国建物調査診断センターの水島理事とともに、「第三者管理時代、リスクマネジメントは大丈夫ですか!?」ということでディスカッションしてまいりたいと思います。
水島 私自身は元々、管理会社の勤務経験がありまして、今回のテーマである第三者管理制度について積極的に取り組んだ会社にも属しておりました。
 現在はマンション管理士の立場で管理組合様にコンサルティングを行ったり、こういったセミナーを通じて様々な情報発信をさせていただいております。
 本日は、私なりに第三者管理制度について調べたこと、過去の経験等から説明させていただきたいと思います
佐藤 「第三者管理方式」ですが、そもそもどのような制度なのか、改めてその定義などをご説明お願いできますか。
水島 第三者管理、簡単に言えば第三者が管理することということですが、区分所有法上の管理者を第三者がするということは、簡単に言うと、区分所有者以外の人が管理者になるということです。
 マンション標準管理規約では、この第三者管理とも取れる3つのパターンが示されています。
 この中で今回、様々な問題を指摘されているのが③外部管理者総会監督型です。
 こちらが①②と比べて違うのが、そもそも理事会を置かないというもので、基本的に管理者がすべてのものを決定し、区分所有者が意見発信できるのは総会のみということになります。このため、区分所有者の権利が損なわれているんじゃないのかということなのですが、この形態が実は一番今、世の中に出ているものであります。
佐藤 ご視聴のみなさまもびっくりなされたかと思いますが、理事長を置かない、理事会そのものを廃止する。その代わりに区分所有者ではない第三者~個人であっても法人であってもよいのですが、そのようなものが管理組合に入ってくるという仕組みですね。
 ただ、理事長という言葉は聞くけど、管理者って、あれ何だろう?と思う方がいるかもしれません。
 管理者とは、そこの団体の管理の責任者です。マンションでは理事長が管理者に当たるケースが一般的で、民法上の善管注意義務を伴う役割と団体(管理組合)の長であるという二つの性格があるとお考えください。
 すなわち、この管理者の役割だけをまったく第三者のプロに持っていっちゃうという仕組みです。

管理者の権限が大きくなる
水島 佐藤理事の言うとおり、管理者には善管注意義務が発生するということで、権限がかなり大きくなります。
 例えば、工事の発注であったり、印鑑・通帳の保管などですね。各種契約の締結が、管理者の決裁で決まりますから、第三者管理方式を用いた場合、管理者がどこまで何をしていいのかというところがまだまだ曖昧な部分となっています。
 今は、実際に受けている管理者の判断であって、どちらかというと法律よりは実務上の運用、慣習の方が勝っているんじゃないかなとなってます。
佐藤 法律や仕組みの中で管理者の形態が新しく出てきたのではなく、現場でのいろいろな管理不全を背景にして、管理会社がこのような管理の方式を取ったのがはじまりであって、実務上の運用・慣習ということは以前からこの第三者管理方式は実態としてあったということですね。
水島 例えば実際には住んでいない投資用マンション、リゾートマンションであったりとかですね、なかなか自分たちで運営するのが難しいので、管理会社が実務上の運用、慣習でこのケースを取ってきています。正直、歴史としては結構長いんですが、ルールも非常に曖昧な中でやっていたという感じです。
佐藤 そうすると、話題になったのはこの数年ですが、現場の中ではずっと前から実態としてあったわけですか?
水島 当時私が勤めた会社は、比較的に、第三者管理を積極的にやっていましたが、元々の発端は投資用のワンルームマンションでした。
 第三者管理の良さは、理事会がないので、集まらなくていいんですよね。理事会で集まらなくていいということはフロント担当者の事務手間が非常に減るということで、理事会のあるファミリータイプのマンションと比べると、安価な管理委託費の設定にしていました。
 ただし現場に行かなくてよい分、フロント担当者は物件数をより多く持たされまして、逆に電話での問い合わせなどが多くなって、第三者管理専門のフロントは机にへばりついて電話対応をしていました。
 フロント担当者の物件を増やせるという管理会社の考えには少し合致したと思っています。
佐藤 マンション管理の現場で理事のなり手不足や、あるいは管理不全ということがあって、管理会社としては実務的にも第三者管理にしたほうが実務を取り仕切ることができる。法律や国の指針によって「この方式をやるべし」としたものではないところが重要なところですね。

一番の問題点は「利益相反」
佐藤 さて、ここからは現在の第三者管理の実情について、さらに深掘りをしていきます。この第三者管理については、何が一番の問題点だと思われますか?
水島 やはり利益相反のところだと思います。
 管理会社が管理者になるということは、契約における甲乙が一緒。発注者と受注者が一緒ということになりますよね。
 私は相談会などでもよく言っているのですけど、管理会社は管理組合の懐事情を知ってるんです。また、長期修繕計画の作成を行いますので、いつどのタイミングで工事をする、いつどのタイミングでこれぐらい貯まっているというのが、すべてわかってしまう立場なんです。
 なので、やっぱり印鑑その他あれば、いくらでも決済ができます。
佐藤 マンションの修繕というものは、予防保全を第一とする考え方を持っています。
 例えば、水が漏れてから直すのでは、ひとつ屋根の下に住む者同士で被害者と加害者が生じかねません。だから一定の経過年数が来れば、早めに防水をしたほうが好ましい、予防保全的に直そうと。
 とは言いながら、じゃ予防保全の範囲がどこまで善意に解釈できるのか―今やらなければならないものなのか、実は先延ばしでもいいのではないかという保全を一緒くたにやってしまっているのではないかというところは、非常に難しいです。
 管理をする上で早めに手を打ちましたといえば、それはそれで正しい行為だと主張できますし、一方お金を使われた側の視点から見れば早いんじゃないか、あるいはその業者じゃなくても工事ができたんじゃないかというお話も出てきます。
 契約上、利益相反が疑わしいとなったとして、しかしそれは民々の契約なんで当事者同士の話し合いの中で立証が必要だったり、契約違反じゃないかという話になれば管理組合と管理会社の中で争って解決せざるを得ない話になってきます。
 これはこれで非常に管理組合さんとしてエネルギーを使うことで、そもそも使えるエネルギーがあれば第三者管理ではしてないよという話に返っちゃう。
 ちなみに、こうしたトラブルを未然に予防するような管理契約のひな型みたいなものはあるのですか?
水島 国のほうで今、ガイドラインを作成するという話になっていますが、現状は契約をしている管理会社の、いわゆる社内規定によるもので、トラブル予防などは正直ないですね。

管理会社の人材不足、組合側の世代交代
佐藤 これまで第三者管理方式について管理組合側の立場で話をしてきましたが、逆に管理会社側のメリットについては、どのようにお考えでしょうか。
水島 どこの業界も人材不足です。マンション管理業は人の手による仕事量が多い、まさに労働集約型産業ですから、もろに人材不足のあおりを受けています。
 マンション数が増えていくものの人は減っているということになると、一人のフロント担当者をどう効率的に働かせるかということになってきます。
 では、経営者からみると、フロントの仕事の何が問題なのか。
 それは、集ま(め)ること、行くことなんです。理事会がある、総会がある、各種打ち合わせがある、じゃ現場に行かないといけない。電車に乗って1時間移動だ。
 管理会社が管理者となって管理をすれば、管理会社のジャッジで物事が動いていくということになり、管理会社も非常に動きやすくなるわけです。
佐藤 マンション管理適正化法ができて、これまで管理会社は何でも言うことを聞かなければいけない。「管理組合はお客様です」とやってきた。
 その感覚で来られると、そろそろミスマッチが生じてきたということでしょうか。
水島  管理契約のひな型となる「マンション標準管理委託契約書」が改訂され、カスタマーハラスメント(カスハラ)対応ではどんな行為が対象となるかを例示されました。
 管理会社側もあまりに過度な要求だったり、中にはクレームと取れるようなものに関しては対応をお断りするケースも出てきています。あとは、やはりマンションの築年が古くなればなるほど、規模が大きくなればなるほど、このジャッジ、判断に専門性が求められます。
 私はこれを管理の高度化・複雑化と申していますけれど、そうしたところで、プロの力を借りるということがどんどん必要になってくる側面もあると思います。
佐藤 管理組合のほうでも人材不足~理事のなり手不足と言われていますね。ただ「できるんだけどやりたくない」人が増えているという実態があるとみえるのですが、現場を見ている立場の水島理事からはどうみえますか。
水島  高齢化ということで、住んでいる人が現役世代より上の世代が多く、そちらの意見が勝ってしまうんですね。
 私の知る大きなマンションの事例ですが、総会でいつも過去の役員たちからいろいろクレームをつけられるんです。
 輪番だからといって役員やりたくないですよね。そういう現役世代が潜在的に非常に多くいらっしゃるかと思います。
佐藤 この隙をつく、という言い回しも適当ではないかもしれませんけれども、この中で第三者管理方式という仕組みがあった場合に、それをうまく使うことによって建物の維持管理の分断は途切れ目なく進めることができるんじゃないかという見方もあるのかなと思います。
水島  管理会社も正直できないものはできないと断る、逆に管理組合も管理会社はこうやってお金儲けしているんだなど、管理の質が見えてきています。
 このまま10年先、20年先、今のビジネスモデルが通用するとは思えません。私としてはですね、双方の意見をうまく取り入れながら新しい管理のモデルを作り上げていけたらな、という風には思っています。
  〈 編集部=次号「後編」では、統計上の数字から管理組合や区分所有者の意識、さらには求められる管理方式のあり方などについて掲載する予定です〉
第三者管理方式に関するお問い合わせはマンション総研 まで
全国建物調査診断センター マンション総研
TEL:03-6304-0278 eFAX:050-3142-9761
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大規模修繕工事新聞169号(2024-1)