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防水・止水の基礎知識/ マンションの漏水の技術的解説(4)

マンションのエレベーターが収納されている部分はエレベーターシャフトと呼ばれますが、新築時に地下の外壁が防水されていない建物がほとんどなので築25 ~ 30年程度を経過しますと漏水がはじまります。多くはエレベーターの保守会社から報告が来て発覚します。

 エレベーターの保守会社は防水に関しては専門ではないため、補修方法の選択は管理組合などの建物所有者に委ねられ、間違った方法で補修されるケースが多く見られます。
 ここではエレベーターの漏水経路と補修方法を解説します。

 エレベーターシャフトの床(耐圧版)は地下にあり、通常の土間コンクリートとは異なる強固なコンクリートですので、これを貫通して漏水する事は滅多にありません。
 ほとんどの場合、耐圧版と壁の間の打継が接着不良を起こし、地下水がエレベーターシャフト内に流入します。
 しかし耐圧版の上にアンカーボルト等を固定するための増し打ちコンクリートが打設されているため、実際の浸水個所は目視できず、床から水が“湧いている”と報告されます。
 これを補修しようとして潤滑油で汚れた床を入念に洗浄し、塗膜防水を施す例が多く見られますが、本解説(2)

<2023年11月号6ページ>で説明した通り、背面からの水圧に対し塗膜防水は機能せず、数カ月~数年で防水層が浮き上がってしまいます。
 背面からの水圧に対しては樹脂注入が有効で、最も有効なのは裏込工法と呼ばれる工法です。
 これは躯体を貫通して穿孔し、ランスと呼ばれる逆止弁付きのプラグを通じ地下の土中へウレタン、またはアクリル樹脂と水を混合したものを注入しゲル状の防水層を形成するものです。
 非常に強固で広範囲の防水層を形成することができ、大量の漏水にも対応できますが、ウレタン樹脂は硬化前には毒性があり、環境負荷となること、工法自体大量の樹脂を必要とするため高コストという欠点があります。
 一方、高圧注入工法は漏水経路である耐圧版と壁の打継のみを狙ってウレタン樹脂を高圧で注入する工法で、使用する樹脂の量が少ないので工期が短く低コストですが、大量の漏水の補修には不向きです。
 エレベーターシャフトの壁にあるクラックからも同時に漏水している場合もありますので、高圧注入工法を採用する場合は、まず耐圧版と壁の打継に樹脂を注入し、1週間ほど放置して壁に濡れ色に変色している個所があればクラックを探し再度樹脂注入を行います。

 

大規模修繕工事新聞 169号 24-1

 

 

屋上スラブのクラック

樹脂を充填する資材