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長寿命化の実現へー塗料の役割とは>/ 保護機能その①

 これからの大規模修繕工事は、従来の劣化や故障の修繕という考え方ではなく、さらなる高耐候性を用いた機能性材料を使用し、延命のみならず高付加価値を付与することで現在の建物をより良いものとして維持することが必要になってきます。このような取り組みが、皆様の大切な資産の価値の向上=長寿命化につながると考えます。図5.錆の膨張 塗料について、長寿命化で最も大切な役割といえるのが、コンクリートの保護・防水・中性化抑制等の「保護機能」です。資産価値の回復だけではなく、資産価値の向上、長寿命化するために、塗料に何ができるのか、どうすればよいのか―塗料という材料の観点より説明します。

第1回 劣化の仕組み コンクリートの成分と中性化  

 マンションを保護する際に最も影響を与える要因は水(水分)です。建物を保護するためには、水(水分)をどのように遮断し、コンクリートなどの建物本体に影響が出ないようにするかがとても大切なことです。
 水というと、おそらくは雨漏りや漏水などの室内の中への影響を思い浮かべるのではないでしょうか。
 実は水(水分)を遮断するのは、雨漏りや漏水といったピンポイントの不具合の対策だけではありません。マンション全体の建物を構成するコンクリートの成分を守るためにとても必要なことなのです。
 図1は建物の断面で、コンクリートの中に鉄筋が入っている正常な状態のイメージ図です。
 コンクリートというものはもともと非常に強いアルカリ性を帯びています。建物には多くの鉄筋が入っていますが、このコンクリートの強いアルカリ性が鉄筋を錆や酸化から守っているのです。図1.コンクリートの正常な状態コンクリートは「強アルカリ性」鉄筋を酸化=腐食(錆)から保護 コンクリートのアルカリ成分がいつまでも強いままであればよいのですが、どうしてもこちらのコンクリートのアルカリ成分は、大気中のCO2(二酸化炭素)や酸性雨の影響を受け、アルカリ成分が中和・中性化し、劣化が進行します(図2)。
 同じ建物でも、方角・部位によって中和・中性化の進行は異なります。全体的に見ると悪いところはなさそうに見えても調査の結果、実際は中和・中性化が進行していることもあります。 中和が鉄筋のところまで到達すると、鉄筋はアルカリ成分による保護を失うことで錆びやすくなります
図3)。
 鉄筋に錆が生じると、錆が膨張、体積を増やし、硬いコンクリートは押し出され、ひび割れが生じます。そのひび割れから水や酸素、二酸化炭素が浸入してくるのです(図4)。
 さらに錆の膨張は進行しますので、最終的には錆の押し出す圧力に負け、コンクリートが剥がれ落ちる場合があります(図5)。
 図6は天井をイメージしていますが、天井でも同じようなことが起こり得ます。この現象が天井で発生した場合など、剥がれ落ちたコンクリート片が落下し、事故につながる危険性もあります。 これら鉄筋への影響だけではなく、コンクリートのアルカリ性が失われると、コンクリート強度も低下するため、ひび割れが生じやすくなる等、マンション全体の価値を下げる結果につながるのです。 <次号は「防水の仕組み」を予定>

大規模修繕工事新聞 2024年5月 173号

図1.コンクリートの正常な状態
コンクリートは「強アルカリ性」鉄筋を酸化=腐食(錆)から保護

図2.劣化の進行 
大気中のCO2や酸性雨の影響でアルカリの中性化が進行

図3.中和・中性化が進行
アルカリの保護を失うことで、錆びやすくなり、鉄筋に錆が発生

図4、ひび割れの発生 
コンクリートに発生したひび割れからH2O、O2、C02が浸入

図5.錆の膨張錆 
錆で体積が膨張し、コンクリートが剥がれ落ちる

図6.コンクリート落下の危険 
天井は上から劣化が進行し、コンクリート落下の危険あり