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日本マンション学会 名古屋大会報告 /区分所有法の改正でどうなる マンション再生

【基調講演1】
 区分所有法改正要綱の概要
日本マンション学会前会長 鎌野邦樹

 法制審議会区分所有法部会では16回の会議が開かれ、法務省は今年1月に区分所有法改正要綱案を公表しました。
 残念ながら、今国会での法案提出は見送りということで、おそらく秋の臨時国会では審議がされると思います。
 法務大臣の諮問の内容として、一番は区分所有建物の管理の円滑化、二番目は建替えの実施をはじめとする区分所有建物の再生の円滑化、それから何といっても日本は地震大国ですので、被災区分所有法も含めて検討しろ、というような宿題が法務大臣からなされました。
 区分所有法の改正はだいたい20年に1度ぐらいでありまして、前回は2002年に改正されています。
 国土交通省でもそれと並行して、今後のマンション政策のあり方に関する検討会を開催し、標準管理規約、管理認定制度、第三者管理者方式などの議論を進めてきました。
 本日のテーマは「再生」ということで、どちらかというと、「建替え以外の再生の手法」がメインです。
 建替えというのは非常に難しい。建替え要件が5分の4とか4分の3とかはどっちでもよくて、あまりそれに意味はないんじゃないかと思います。
 結局、このマンション学会でも多くの人々が言っているように、長寿命化、延命化を図って、できるだけ長持ちをさせるということを主眼に添えるべきではないか、ということです。
 その建替えのためにどのぐらいの費用がかかるかというと、2021年では戸当たり1,941万円の費用負担。また、二度の引越しをしなくちゃいけない。高齢者にとって建替えという制度は非常に難しいということが統計からも導き出せるわけです。
しかしながら、今回の改正要綱では、現行法の建替え要件「5分の4以上」を、客観的な事由(耐震不足その他)がある場合、「4分の3以上」に緩和しようということです。
 それ以外に、建物敷地売却制度という区分所有関係の解消制度ができ、さらに一棟リノベーションという制度ができることになります。
 こういう再生の新たな手法が区分所有法改正要綱で取り上げられましたけれども、実際にはどれだけ普及するか。どれもお金がかかり、解消の場合にはお金を配分する問題にもなるので、こういう制度ができたことは非常に望ましいんですけれども、そういう問題があるわけです。
 そうすると、やはり「管理」をしっかりやる、と。その目玉の一つは、所在不明あるいは所有者不明の区分所有者について、裁判所の決定を受けて母数から除外するという制度。とにかく出席者の多数で、しっかりとした改修あるいは管理を決められるようにしようというものです。
 その他、区分所有者の責務を定めたり、所有者不明・管理不全専有部分を裁判所に請求・選任した管理人が管理することを可能としたり。特に所有者不明などの場合、利害関係人が管理人を選任して裁判所が許可をすれば、その住戸を売却することができるようになります。
 やはり今ある建物をできるだけ長持ちさせる、マンションの事情が違いますけれども、そういうことを目指すということが大事かなと思います。


【基調講演2】
今後のマンション政策の方向性について
国土交通省住宅局参事官 下村哲也

 まずマンションにおける現状です。全国で700万戸のマンションストックがあり、新規供給戸数は年単位10万戸前後で推移しています。
 建替えはなかなか進んでいません。容積の余裕がなくて同規模以上の建て替えができないということが大きな要因として指摘されています。
 東京都のデータによると、区分所有者の方々が1,900万円ぐらい負担をしなければ建替えができないという状況です。
 実際、建替え決議の状況をみると、数人の区分所有者の意向で結果が変わり得た決議が一定割合あって、特に小規模なマンションでそういった傾向が強いということです。
 また、大規模なマンションになると、建替え決議まで相当期間を要するので、今回の区分所有法改正で、この決議要件が一定緩和されたことで、建替え決議も少し円滑に進んでいく部分があるのではないかと期待していま
す。
 団地型では、一括建て替えの場合の、いわゆる棟別決議がネックになってなかなか団地再生が進まないようですが、今回の改正で要件が一定程度緩和されましたので、効果があるんじゃないかと考えています。
 しかし、老朽化したマンションをすべて建替えなどの再生で解消していくというのはなかなか難しいというのが現実です。
 先ほど鎌野先生からもご指摘ございましたけれども、やはり、今あるマンションをしっかりと長持ちをさせていく、長寿命化させていくということも大変大事であり、
そういった観点から、「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」の中でも管理・修繕について施策の方向性をかなり重点的にご議論いただきました。
 最後に最近の動きを簡単に紹介します。2023年10月から今年3月にかけて、国交省の方でワーキンググループを2つ設けて、開催してきました。
 一つが外部専門家等の活用のあり方に関するワーキング。理事会の役員の担い手が不足する中で一つの選択肢として、管理業者が管理者になる方式が考えられるわけですが、管理業者が割高な工事を自社やグループ会社に
発注する、いわゆる利益相反行為が想定されます。そういった留意事項をガイドラインという形でまとめていくのが、このワーキングです。
 もう一つのワーキングでは、標準管理規約の見直しと管理計画認定制度のあり方についてご議論をいただきました。
 標準管理規約の見直しでは、一つは所有不明対応で、組合員名簿の更新を規定する。あるいは修繕積立金の変更予定を区分所有者、購入希望者に見える化していく。
また、EV用の充電設備、宅配ボックスを設置する場合の要件を規約の中に明確化することもしていきます。
 管理計画認定制度は、さらに普及推進の観点から支援措置の充実、基準の見直しなどの議論をしてもらいました。
 外部管理者方式等に関するガイドライン、標準管理規約については、近々公表される予定になっております。


【趣旨説明】
 マンション大規模改修工事技術開発研究委員会では、経年マンションにおける給排水設備改修工事の現状に着目し、技術者視点により工事内容や工事費の傾向を整理し、併せて超高層マンションへの対応を踏まえた検討と考察を行います。

給排水設備改修工事の専有部分実施状況と工事費の傾向
株式会社エムズラボ 橋本真一
 給排水設備改修工事では、やはり専有部分がかなり費用的にも高額になることがわかったと思うのですけれども、私の方では、どのくらいお金が高くなるのか、安くなるのか、それが一体どういう原因でそうなるのか、そのあたりの情報構築に向けて統計的な分析を行いました。
表は、施工範囲別の戸当たり単価の傾向です。四分位(25%~75%値)をとって、中央値と平均値を出しました。
 この四分位…25%~75%の“真ん中よりの半分”をみると、仮設工事や共用部分工事では比較的まとまりがみられますが、その他は非常にばらつきがあります。
このばらつきの原因は何だ?というのは、専有部分や諸経費は施工範囲より単価が大きく乖離していることにあります。
 工事対象となる施工部位の組み合わせが多様であることが要因と考えられ、一括施工でも専有部分のある工事、ない工事で値段が違うわけです。
今回のように学会でデータをしっかり集めて分析し、その結果を分かりやすく管理組合に示すことは、シミュレーションの足がかりになるし、管理組合の支援に向けた情報提供にもなります。
 例えば、自分のマンションの給排水工事にいくらかかるのか、といったときに、棟数、戸数、エレベーターの条件などを入れるだけで費用が出るとか、そういうシミュレーションするにも役立つと思います。
 今後も施工範囲や部位に応じたわかりやすい工事費評価情報の構築に向けて、実態調査等を取り組んでいく所存です。


超高層マンションの長期修繕計画―建築と設備の比率に関して
有限会社日欧設計事務所 岸崎孝弘

 

 

 

 マンションリフォーム技術協会で行った新築時から築60年目までの長期修繕計画シミュレーションと実例データから、建築工事費と設備工事費の比率を検証します。

 14年周期と18年周期では、設備費はどうなるでしょうか。大規模修繕工事は14年周期で4回、18年周期では3回。ただ設備工事は、周期を長くするというのは難しいため、全部同じになっています。
 ただし、大規模修繕工事を1回減らせるというのは、仕様レベルを高耐久性に上げたとしても、仮設の費用が1回まるまる減らせるんです。超高層マンションは仮設の費用が1回の大規模修繕工事の中の40%近くを占めるので、大規模修繕工事の回数が減るということは、工事仕様のグレードが上がり、費用と単価が上がったとしても、累計工事費が安くなるという結果が出ました。
 築18年目で第1回大規模修繕工事終了後、長計を改定した実例です。
 建築工事は周期を18年で設定し、40年の間に大規模修繕2回で約25億円。設備は約55億円で、エレベーター6基のリニューアル2回、給排水衛生設備、防災設備、機械式駐車場2回更新などを含んでいます。

 築4年目に管理会社が作成した長期修繕計画をみると、大規模修繕は10年周期とし、工事費の累計が約28億円、建築が19億、設備が8億円。現在、この長計を見直しているのですが、どうみても設備の内容・費用ともに不足しています。
 前述した長計で60年目まで作っている理由に、エレベーター改修2回入ることがあります。超高層マンションの場合、エレベーターの更新工事費は1基1億円くらいする。
さらに給排水など、設備の大物は、40年目以降に出てくるのです。
 そうすると、超高層においては築33年目までの長計は意味がない。私が今見直しているところでは60年目まで計画すると大体戸当たり3万5,000円ぐらいかかります。
現在の修繕積立金は6,000円なので、5倍以上にしないと足らなくなるのです。
 超高層マンションは設備改修の比率が高く、適切に設備改修を積算しておく必要があります。速やかに長計の見直しを行い、適切な積立金額に改定することが望まれます。


大規模修繕工事新聞 174号2024-06

日本棟マンション学会の大会会場となった椙山女学園大学・生活科学部

メインシンポジウム会場の様子