一般社団法人全国建物調査診断センターが主催する管理組合オンラインセミナー。今回は『どうする外国人入居者対策』と題して、外国人居住者との親睦、交流に日々奮闘している現役理事長を招き、貴重な体験談、苦労話、上手くやっていくポイントなどをお聞きしました。外国人を受け入れ、上手に管理組合運営をしていくにはどうしたらよいでしょうか?詳しくはVimeo、YouTubeによる第73回管理組合オンラインセミナーの動画配信を視聴してください。全建センターのホームページから閲覧することができます。
私は2024年3月より東京の湯島にあるディアナコート文京本郷台というマンションの管理組合の理事長をしております。
理事長職は初めてですが、35歳頃から断続的に20年以上、数カ所のマンションの管理組合の理事をしてまいりました。その意味では長く管理組合の仕事に携わってきたと思います。
職歴としては東北電力で長らく原子力発電所に関わる住民対応の仕事をしてきました。わかりやすく言いますと、東北電力とお客様とのパイプ役です。
どのような仕事をするかといいますと、例えば東北電力の都合や考え方を一方的にお客様に押し付けてもお客様は納得しません。また、お客様のストレートな要望や意見をそのまま会社に伝えても、公共事業である電力会社ではそのまま受け入れることはできません。
そこで、相互を取り巻く状況や環境や状況事情等を整理して実現可能な対応策を模索して調整するような仕事をしておりました。
この経験は、マンション管理組合の仕事に大変役立ったと思っております。
私が理事長をしているディアナコート文京本郷台は、文教区と台東区の境、武蔵野台地の端に位置します。近くには東京大学の医学部や上野の博物館美術館、アメ横、そして上野の観楽街などが、いずれも1キロ圏内にある総戸数127戸のマンションです。
外国人の入居者も多くて数年前までは7名の管理組合役員のうち3名が外国人だったことがあります。このような背景から役員の考え方や意見が異なり、その調整に時間と手間が必要なマンションでした。
1)在留外国人の特徴
出入国在留管理庁によると、在留外国人はコロナが猛威を振った令和2年3年以外、毎年増えています。つまり、日本で暮らすいわゆる外国人が増加するということです。
日本の地域によって出身国の偏りはありますが、一般論で言うと、マンションに住む外国人は上位3国、中国、ベトナム、韓国の出身であると思ってもいいでしょう。
在留資格別外国人数をみると、「永住者」27%がダントツに多く、次いで「技能実習生」「技術・人文知識・国際業務」「留学」「特別永住者(資格者がその家族を呼び出せたもの)」となっています。
技能実習生や仕事で来られた方、留学の人たちは在留期間が長期間でないことからマンションでは「賃貸」を選択すると思います。
これに対し、永住者は資産価値を考慮して分譲マンションの購入を選択すると思います。
当然のことですが、マンションを購入した永住者は、管理組合の役員となる権利を持ちます。ですから、管理組合の役員にも、いわゆる外国人が増えていくことになります。
2)問題点の整理
ChatGPT-OpenAIでみると、トラブルには、敷金礼金トラブル、ごみ出しルールを守れない、騒音で近所迷惑になる、部屋を無断改装する、家賃を退納する、部屋を又貸しする、退去時に部屋を片付けない、無断退去するなどのトラブルがあります。
同様なことは国土交通省の「<大家さん、不動産事業者のための>外国人受入れガイド」の中でも、問題と対策として記載してあります。
管理組合として取り組まなければならない問題の整理をしていきます。
マンション管理組合の目的は、「快適なマンション生活」「マンションの資産価値」の維持と向上にあります。そしてこの2つを実現する方法がルール作り。具体的には「管理規約」や「管理・修繕計画の制定」、それと「執行状況の確認」です。
ルールや計画は管理組合が作り、そのルールや計画の執行を管理会社が行い、そしてその状況を管理組合が確認する。きつい言葉で言うと「監視する」ということです。むろんルールの違反者に対しては、理事会での決定、対象者への注意・勧告を行った後に、裁判で解決する方法もあります。
このルールと計画の策定、そして執行確認。これには管理組合と管理会社の連携が不可欠です。どちらがかけてもその効果は望めないと私は考えています。
3)当マンションの事例
ディアナコート文京本郷台でも、ごみ出しルールを守れない外国人入居者がときどき発生します。ごみ出しトラブルが発生した場合は、管理員が違反ごみ、主に粗大ごみですけれども、他言語で注意書き、違反ぎみであること、出し方の説明を貼り付けます。
この時、日本語で表記を付け加えることも忘れないでください。特定の言語だけ記載すると人種差別とクレームが出る可能性があります。
次の事例は、共用部分で、大声で話す家族です。マンションの廊下は声が響くものです。
ある部屋のオーナーは日本語が堪能ですが、同居しているオーナーの母親は日本語が全くできませんでした。その上、私的な電話を廊下で、大声で話しておりました。
当然廊下は大声が響きますので、隣接する部屋から苦情が来ました。隣の人は大声を出す母親に直接注意したんですけれども、言葉がわからず、母親もなぜ注意されたのかわからない様子だったので、状況が悪化していると思われました。
この件ではいわゆる外国人の理事もいますので、理事会の全員で知恵を出し合いました。そして、共用部廊下で大きな声を出さないよう日本語で書いた理事長名の注意文を全戸に配布することをしました。
母親は日本語がわかりませんけれども、オーナーは日本語がわかると考えたからです。
ここでのポイントも、個人を特定されないように全戸に配布することで、管理組合が住民に対し、管理規約を守っているか、監視していることを分からせることでした。
最後は、携帯トイレのサンプル配布の事例です。これは管理組合がいわゆる外国人を認識しており、配慮していることを分かってもらうようにしたものです。
東京都では、災害発生時は在宅避難する「東京ととどまるマンション」普及事業を進めております。
このため、各戸での災害用品の備蓄が不可欠です。その一つが携帯トイレの備蓄です。地震で水道が止まると水洗トイレは使えなくなります。また、水道が止まらなくても電気が止まれば水をポンプアップしているマンションでは水が出なくなります。
水がなければ汚物を流すことができませんので、汚物を携帯トイレで一時保管しておく必要があります。
では、このことをいわゆる外国の人に知らせるにはどうしたらいいでしょう?日本語のわからない中国のお母さんに知らせるにはどうしたらいいでしょう?
管理組合では文京区から配布されたサンプル(100回分20袋)を分配する機会を利用して、日本語、中国語、韓国語、ベトナム語、英語で書いた説明文と試供品のサンプルを「1世帯1個まで」と表記した段ボールに携帯トイレを入れて、共用玄関エントランスに置きました。
外国語の記載には、無料の翻訳ソフトを使っています。分かりやすいように簡単な文章をまず原案で作ります。そして日本語から外国語、外国から日本語への翻訳を繰り返し、翻訳ミスがないように配慮しました。
理事会では、日本語ができるオーナーに災害備蓄の概念を認識してもらうことを考えました。言葉は悪いですけど、どの国のお年寄りも「ただ(無料)」が大好きです。ですから試供品は手に取るでしょう。
その過程で備蓄数の説明文に目を通していただければ、ありがたいと思った次第です。
そして、このことを日本語ができる息子さんに話してくれれば、なおよろしいですね。
息子さんが携帯トイレの本体に書かれた説明文に目を通していただければさらに完璧だと考えました。
予想通り、20袋の試供品は1日でなくなったと管理員さんから聞きました。これも想定通りの効果があったらいいなと期待しています。
さて、最低限のルールさえ守っていただければ、最低限のマンション生活は維持できます。しかし、生活共同体として、大地震や災害時などで力を合わせ対応するときには、住民相互の理解や信頼関係が不可欠です。そして、相互理解と信頼関係を構築するにはマンション住民の親睦と交流が必要だと私は考えています。
当マンションでは、いわゆる外国人新規入居者の親睦や交流には子どもを活用しています。子どもが参加する場合は必ず保護者として親が参加するからです。
具体的に何をしているかというと、七夕、夏祭り、ハロウィンです。
七夕では、子どもたちに短冊で願いを書かせて、大きな笹竹に取り付けたものをマンションのエントランスに飾り付けます。短冊には日本語のほか、英語で書かれたものもありますので、いわゆる外国人の子どもも参加していると思います。
夏祭りでは、マンション近くの湯島天神の夏祭りなどに、地元町内会の一員として参加しています。
町内会の役員やお年寄りの皆様も大変優しく迎えてくださいます。これは当マンションの全世帯が町内会費を払い、有志が町内会の行事に積極的に参加していることが要因の一つであると思っております。
ハロウィンはマンション内での行事で、子どもを持つ外国の方に世話役をお願いしております。当日は、仮装した子どもたちにハロウィンの由来を説明した上で、事前に協力の申し出があったマンションの部屋を「トリック オア トリート」と言いながら訪問します。
当マンションの管理員は日本人、外国人、そして大人や子どもの区別なく、「おはようございます」「こんにちは」「いってらっしゃい」「おかえりなさい」と日本語でしっかり挨拶してくれます。挨拶はコミュニケーションの基本であり、必要不可欠なものですから、それを日頃から実施している管理員さんに心から感謝しています。
4)まとめ
快適なマンション生活やマンション管理の維持には管理会社との協調が不可欠です。
管理組合、管理会社の双方が取り巻く状況を理解して、話し合いなどの意思疎通をすることが必要であり、そしてここで培われた対等な関係が必要であると思っております。
管理組合の武器は、「団結」と「牽制」です。団結はマンション内での親睦や交流、情報の共有化でできますけれども、牽制には何が必要でしょうか。
管理会社を牽制するのには、意思疎通のほかに、管理会社と同等な知識、技術的な知識が必要です。当マンションの住民は出身も職業も多岐にわたりますが、マンションに関する技術者はいませんでした。ですので、管理会社から修繕などの提案があっても、工事の必要性や工法、経費の検証ができません。
このままでは管理組合としての検証責任や説明責任を負えないと判断いたしまして、今般、全国建物調査診断センターにカンドオピニオンをお願いすることをしました。
カンドオピニオンは技術的知識を補うだけでなく、管理組合員の管理責任や説明責任の負担を軽減させてくれるものと期待しております。
なお、カンドオピニオンがうまく機能しましたら、別の機会でお話をさせていただきます。以上で、私の話を終わりにさせていただきます。
大規模修繕工事新聞2025年4月 184号


