
【事案の関係者】
原告:区分所有者
被告:管理組合法人
【事案の概要】
共用部分の利用行為(賃料を得ることを含む)を理事会に付託する、駐車場等特別会計の剰余金を区分所有者に返還するなどの臨時総会の議案について、管理規約に違反するものであるとして総会決議は無効とされた事案。
【無効確認が争われた総会決議】
決議①:共用部分の利用を理事会に付託すること
本件マンションには、建物内の共用部分として、管理事務室、倉庫、会議室、清掃員室、コインランドリー、自動販売機設置スペースなど20室およびその他共用部分がある。この共用部分の利用について、理事会に付託すること(利用行為は、賃貸して賃料を得ることも含まれる)が承認された。
決議②:駐車場収入余剰金の返還
本件マンションの管理規約に基づき、駐車場等特別会計の剰余金を返還する方針の説明があり、その上で「返還規程」にある算出方法を変更して、当該事業年度における剰余金が各区分所有者へ返還されることが承認された。
※ なお本件総会は、出席組合員数69.94%、議決権総数66.51%であり、本件各議案はいずれも可決承認されたが、特別決議の要件は満たしていない。
【原告の主張】
決議①:本件管理規約で共用部分の有償使用は総会決議を要するとしているものの、理事会決議のみで決定すると認めることは本件管理規約に違反する。
共用部分の賃料の条件等の組合員の利害および関心事項について、総会決議を経ることなく一切を理事会で決議できることになり、本件決議の瑕疵は重大である。
決議②:各組合員の個別返還額を、各組合員の管理費および修繕積立金の総計の比により算出するものとし、特定の区分所有者に著しい不利益を被らせるものである。
本件管理規約では共有持分に応じて返還すべきと規定されているため、特別決議を要するにもかかわらず、普通決議で可決されている。
【裁判所の判断】
決議①:共用部分の利用行為について、有償使用も含めて、個別の総会決議を要さずに、包括的に理事会に付託するものであり、共用部分の管理に関する事項を集会の決議事項とした区分所有法18条の趣旨を没却するものであり、区分所有法および本件管理規約に違反するものと言わざるを得ない。
共用部分の利用に関する事項について個別の総会決議を要さないとなると、共用部分の使用方法や対価の設定等の是非について、適切な監督を及ぼすことができなくなるおそれがあり、組合員の被る不利益が大きいものと認められる。よって本件決議は無効と認めるのが相当である。
決議②:屋外駐輪場の使用料は、本件管理規約の定めに従い、「駐車場等使用料取扱い規程」が定められ、剰余金の区分所有者への返還金について規定されている。そうしたところ、返還額の算出方法を変更することは、本件管理規約に違反することは明らかである。
そして、区分所有者によっては2つ算出方法で150万円超の差が生じる場合もあったことから、組合員の重大な利害に影響するものと認められる。
本件決議は、実質的に規約変更に当たるというべきであり、特別決議を要するところ、特別決議の要件を満たしていないことから、決議無効と認められる。
【コメント】
まず、本件では、共用部分の有償使用など、本来総会で決議すべき事項を包括的に理事会に一任するのは法18条や管理規約に違反し無効であると判断されました。
標準管理規約では理事会の決議事項として「総会から付託された事項」が挙げられており、本件管理組合法人の規約にも同様の規定があることから、被告管理組合法人はこの規定を根拠に理事会への付託が許されると反論しましたが、判決では規約によって別段の定めを置くのでなければ、理事会へ付託することはできないと判示しています。
また、駐車場収入の剰余金について、本来「各所有者の共有持分に応じて返還」すべきところ、変更された新しい返還方法(管理費と修繕積立金の納付額に応じた返還)は、実質的に管理規約の変更にあたり、このような事項は総会の特別決議で議決すべきであり、その要件を満たさないことから決議が無効であると判断されました。
実務上、「柔軟な財産管理のための権限委譲」や「運用ルール変更」が求められる場面も多いですが、本判決は、そうした柔軟運用のためであっても、区分所有法や管理規約との整合性を確保することが不可欠であることが強調されています。
本判決は、管理組合の透明性・適法性確保の観点と言う視点からも重要な判断を行ったものと言えるでしょう。
大規模修繕工事新聞 2025-05(185号)

◆山村弁護士への相談は…
大空・山村法律事務所
〒100−0012
東京都千代田区日比谷公園1−3 市政会館4階
☎03−5510−2121 FAX. 03-5510-2131
E-mail:yamamura@oylaw.jp