●ごはんの国に生まれた私たち
私たちの国、日本は、古事記や日本書紀にも「瑞穂国(みずほのくに)」と記されているように、「みずみずしい稲穂の国」と書かれるほど、コメを神聖視してきた国です。
そんな国なのに、昨年からコメの値段がどんどん上がり、政府は大量の備蓄米を放出して、なんとかコメの値段を下げようとしています。
そしてもう一つ忘れてはいけないのは、2015年には約95.2万戸あったコメ農家が、10年後の2025年には約6割減の37.7万戸になり、さらに5年後の2030年にはわずか約10.7万戸にまで減少すると予想されていることです。
そして現在における、コメ農家の平均年齢は70歳前後。もしかしたら5年後のコメは、いま以上の超高級食材になっているかもしれません。
●白いごはんはいつから当たり前に?
そもそも、日本人が白く精米されたコメを当たり前に食べられるようになったのは、意外と最近のことです。
江戸時代、白米は江戸や大坂など都市部の武士や裕福な町人のもので、農村では玄米や雑穀が中心でした。明治以降、精米技術が発達し、大正から昭和初期にかけてようやく庶民の食卓にも白いごはんが広がっていったのです。
しかし戦中・戦後の混乱期には再び雑穀やイモ、カボチャが主食に。本格的に「どこでも白米が当たり前」になったのは、高度経済成長期以降のことです。つまり、全国民が毎日当たり前のように白ごはんを食べるようになったのは、ここ50〜60年の話なのです。
それ以前は、多くの日本人にとって「白いごはんを腹いっぱい食べること」が憧れであり、最高のご馳走だったのです。
●日本の食文化はごはんが中心
今さら言うまでもなく、日本の食文化はコメを中心に発達してきました。欧米ではバターを美味しく食べるためにパンがあるが、日本ではごはんを美味しく食べるためにおかずがあると言われるほどです。
これは伝統的な食べ物だけでなく、明治以降に海外から入ってきて日本で改良されたカレー、とんかつ、唐揚げなどの「洋食」と言われる食べ物たちも、ごはんに合うものばかりです。
ほかにもコメからできるものとしては、味噌、酢、米麹をはじめ、せんべい、あられ、団子、大福、おはぎ、柏餅などのお菓子があります。
●これから5年、どうなる?
小泉進次郎農水相によると、100万トンあった備蓄米の残りはあと30万トンで、放出した分は5年かけて買い戻すそうです。
ただ、この5年間がずっと平年並みにコメがとれるとは限りません。もし今年、来年、再来年に不作の年があったら、備蓄米がたちまち底をつき、輸入米に頼らざるを得なくなる可能性があります。
さらに前述したように、5年後にはコメ農家が大激減すると予測されています。
今後5年間、日本のコメ事情はどうなっていくのでしょうか。
ひとつは、天候リスクとの闘いです。温暖化の影響で猛暑や豪雨の頻度が増す中、従来の品種では安定した収穫が難しくなりつつあります。そのため、耐暑性のある新品種の導入や、水の管理を工夫した農法が模索されています。
ふたつめは、米の消費スタイルの多様化です。パンやパスタ、冷凍食品も主食になりつつある現代において、「毎日3食お米」ではなく、「たまに美味しいお米を」という方向にシフトしていくかもしれません。これは価格にも影響します。
また、コロナ禍を経てテレワークや中食(なかしょく:家で食べるが外で買う)が増えたことも、消費量の波を生みやすくしています。
農業政策の観点では、若手就農者支援やスマート農業の導入が鍵を握るでしょう。政府も「食料安全保障」の視点から、米作りの支援を強化していくと見られます。
●ごはんがくれる安心
コメは単なる食料ではありません。日本の景色、文化、季節の行事の中に、いつもお米があります。
食料自給率が低いと言われる日本ですが、主食のコメはほぼ自給率100%でした。「米が足りない」というニュースには、単なる物価の問題以上の、どこか不安を感じてしまうのは、そんな日本の食文化とコメという背景があるからかもしれません。
もしかしたら私たちは、日本の食文化が大きく変化する時代を生きているのかもしれませんね。
(巨椋修(おぐらおさむ):食文化研究所)2025-08 おもしろコラム//omosiro-column.com/
大規模修繕工事新聞 2025-8月 188号





