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共用部の配管が古いマンションを買う前に知っておくべきこと――最高裁判決と法改正が変えるリスクの常識<ニュース速報05>

「価格が手頃だから」「立地がいいから」——そんな理由で築古マンションの購入を検討しているなら、2026年1月22日に最高裁判所が下した判決を知っておいてほしい。

その日、最高裁第1小法廷は全員一致で、「マンションの共用部分に欠陥があって損害が生じた場合、管理組合は民法上の賠償責任を負う占有者にあたる」という初判断を示した。わかりやすく言えば、「共用配管の老朽化で水漏れが起き、あなたの部屋が被害を受けたとき、管理組合を相手に損害賠償を請求できる」という道が法的に開いたのだ。

これは一見、被害者の救済を広げる朗報に聞こえる。しかし視点を変えると、「管理が機能していないマンションを購入すること」のリスクが、今後劇的に高まるという警告でもある。

最高裁判決の中身――「管理組合に賠償責任あり」の衝撃

事件の概要

 舞台は東京都内の区分所有マンション。203号室の区分所有者は、2013年10月から2015年3月にかけて4度の漏水被害を受けた。原因は外壁コンクリートの亀裂と床下スラブの劣化——いずれも共用部分の「設置または保存の瑕疵(欠陥)」だった。

 被害を受けた区分所有者は、管理組合を相手に民法717条(工作物責任)に基づく損害賠償を求めた。しかし二審は「管理組合は共用部の占有者にあたらない」として請求を退けた。

 最高裁はこれを覆した。

判決のポイント:「管理組合は占有者」

 最高裁の論旨は明快だ。区分所有法によれば、区分所有者は全員で建物管理のための団体(管理組合)を構成し、共用部分の管理に関する事項は集会(総会)の決議で決めることになっている。これは「管理組合が共用部を支配管理して安全を確保していく」ことが法律上予定された構造だ。

 さらに管理組合は、区分所有者から管理費・修繕積立金という形で共用部管理のための費用を徴収している。だとすれば、共用部の欠陥で損害が生じた場合に管理組合の財産から賠償するのが自然——というのが最高裁の論理だ。

 「特段の事情がない限り」という留保はあるが、この判断が今後あらゆる共用部トラブルに適用される先例となることは確実だ。


「管理不全マンション」を買うリスクが変わった

配管の老朽化という時限爆弾

 築30年を超えたマンションの多くで、共用部の給排水配管が更新時期を迎えている。しかし修繕積立金が不足していたり、理事会が機能していなかったりして、配管の更新が先送りされているケースは珍しくない。

 今回の最高裁判決以前は、「共用配管が原因で水漏れしても、誰に請求すればいいかわかりにくい」という状況があった。判決後は、「管理組合に請求できる」という道筋が明確になった。逆に言えば、管理が機能していない管理組合のマンションを買った場合、いざ被害が生じても管理組合の財産(修繕積立金など)が枯渇していれば、賠償を受けられないという事態が起こりうる。

 「安い築古マンション」を買ったのに、水漏れ被害を受け、管理組合に賠償を求めたら積立金がゼロだった——というリスクが、今後現実のものになるかもしれない。

購入前に確認すべき「管理の健全性」

 マンション購入の際は、価格・立地・間取りと同じくらい、以下の「管理の健全性」を確認することが不可欠だ。

① 修繕積立金の積立状況
 1戸あたりの月額積立金が極端に低かったり(1万円未満が目安)過去の大規模修繕で積立金を使い切っていたりする物件は要注意だ。将来の修繕費用を賄えるかを確認する。

② 長期修繕計画の有無と更新状況
 計画がない、あるいは10年以上更新されていないマンションは、修繕の見通しが立っていない可能性が高い。

③ 共用配管の更新履歴
 給水管・排水管の素材(鉄管かステンレス・樹脂管か)と、更新工事の実施履歴を売主や管理会社に確認する。鉄管のまま築40年超という物件は腐食・漏水リスクが高い。

④ 管理費・積立金の滞納状況
 滞納が多いマンションは財政的に不健全な証拠だ。重要事項説明で確認できる。

 

 

 


理事会トラブルの多発と「区分所有法改正」がもたらす変化

「6時間続く総会」「役員のなりすまし」の現実

 管理組合の理事会をめぐるトラブルが、近年急増している。マンション管理センターへの相談で「理事長・理事会への不満」が2023年度に332件と過去10年で最多になったという調査もある。「演説を続ける住民が総会を6時間止める」「施工会社の関係者が住民になりすまして修繕委員会に潜入し、特定業者への誘導を図る」——そんな事案が実際に起きている。

 こうしたトラブルの根本には、「管理組合の意思決定が少数の反対で止まりやすい」という構造的問題がある。

区分所有法改正(2026年4月施行)でどう変わるか

 2026年4月1日に施行された改正区分所有法は、この問題に真正面から取り組んだ。主な変化は3点だ。

① 出席者多数決の導入
 従来、集会(総会)の決議は「区分所有者全員」の頭数・議決権を分母として計算されていた。改正後は、「出席した区分所有者」の多数決が可能になった(要件を満たした場合)。無関心層・高齢者・所在不明者が欠席するだけで決議が否決されやすかった問題に対処する。

② 所在不明区分所有者の議決権除外
 長期間連絡が取れない区分所有者を、裁判所の判断で議決の分母から除外できる制度が新設された。都市部の相続未登記マンションなどで合意形成を阻んでいた「幽霊区分所有者」問題への対応だ。

③ IT総会の正式解禁
 高齢者や遠方在住の所有者もオンラインで総会に参加・議決できるようになり、出席率の向上と意思決定の円滑化が期待される。

 これらの改正により、「少数の反対派や無関心層によって管理組合の意思決定が止まる」という事態は改善に向かう。ただし一方で、改正後は「多数決で少数派が押し切られやすくなる」という懸念もあり、自分の意見を管理組合に届ける「積極的な関与」の重要性は逆に高まる。


まとめ-「安いから」だけで選んでいい時代は終わった

 最高裁判決が示したのは、「管理が機能しているかどうか」が、マンション購入後の生活リスクに直結するという現実だ。配管が老朽化し、修繕積立金が枯渇し、理事会が機能不全に陥ったマンションは、法的な責任の受け皿すら壊れている。

 区分所有法改正は、こうした「管理不全マンション」の再生を促す制度的な後押しでもある。しかし制度が変わっても、住民が無関心なままでは何も動かない。

 マンションを「買う」という行為は、その建物の過去と未来、そして管理組合という「小さな自治体」に加わることを意味する。価格の次に「管理の質」を見る習慣が、今まさに問われている。

大規模修繕工事新聞・ニュース速報 2026-04-22 05号