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管理費が「上げても足りない」時代へ 値上げでは解決しない三つの危機<ニュース速報08>

「管理費を上げても、もう間に合わない」――全国のマンション管理組合でそんな声が漏れ始めている。問題は単純な値上げで解消できる類いのものではない。施工会社の消滅、建設業界の構造変容、そしてAI導入を阻むデジタルの壁。管理費をめぐる危機の正体は、複数の構造問題が連鎖する複合不全だ。

第一の物語:「値上げしても足りない」管理費の構造崩壊

 ある首都圏郊外の築28年・80戸のマンションで、2025年秋の定期総会が紛糾した。管理会社から届いた通知は「委託費を現行比32%値上げ、さもなくば2026年3月で契約終了」というものだった。理事会は苦渋の選択を迫られたが、問題はそれだけではなかった。受け入れを決めた後も「次の更新時にまた同じことが起きる」という不安が消えない。

 マンション管理業者の登録数は2025年3月末時点で1,776社。前年比28社減で、13年連続の減少だ(*1)。供給側の縮小が値上げを可能にしている構図だが、それは「値上げが可能なうちはまだいい」という皮肉な話でもある。管理会社が撤退し、次の受け手が見つからない事態が現実化しつつある。

 特に深刻なのが50戸以下の小規模マンションだ。大手管理会社は採算が取れないと判断して小規模物件の新規受託を断るケースが増えており、「管理難民」という言葉が業界内で定着した。管理費を値上げしても、その先に「引き受ける会社がない」という壁がある。

 

(*1):国交省2025年6月公表


第二の物語:施工会社が消えていく

2026年3月、大阪市内のあるマンションで修繕工事が突然止まった(*2)。中東情勢の悪化で防水材・塗料の原材料(ナフサ不足)となる石油化学製品の供給が滞ったからだ。施工中のシーリング工事で使う材料が入手できなくなり、足場を組んだまま工事が「凍結」状態に入った。

 これは中東情勢という外因だけの問題ではない。その背後には、建設業界そのものの縮小という構造がある。2025年12月12日に全面施行された改正建設業法は、「著しく低い労務費の禁止」「原価割れ契約の禁止」「工期ダンピングの規制」という三本柱で業界の取引慣行を是正しようとした。正しい方向の改革だが、その「副作用」として、コスト競争に依存してきた小規模施工会社の経営を直撃した。帝国データバンク調査(2026年1月13日発表)によると、2025年の建設業倒産件数は、2013年以来、12年ぶりに2,000件を超え、人手不足による倒産も多発した。

 長年、地域の管理組合と顔なじみだった「かかりつけ施工会社」が消えていく。その穴を埋める後継業者もいない。保険制度の整備や瑕疵担保の強化は「症状の手当て」にはなるが、供給サイドの崩壊という根本問題には処方箋がない。国土交通省が工事費の高騰抑制策に取り組む傍らで、工事を「請け負う側」自体が減っているという逆説が進行している。

 

(*2):日経クロステック


第三の物語:AIは準備完了、人間の側が追いつかない

 2026年2月、東京で開催された「マンション管理DXフォーラム2026」(*3)には、行政・企業・専門家が一堂に会した。議論の中心にあったのは「AI管理人」の本格普及だ。24時間対応のAIチャットボット、IoTセンサーによる設備異常の自動検知、長期修繕計画のAI自動更新――技術の準備は整った。

 しかし現場の反応は複雑だ。「うちの組合にはそういうのがわかる人間がいない」。関西のある70代理事長はため息をつく。

 問題は「デジタルデバイド」、すなわちデジタル技術を使いこなせる人と使えない人の格差が、マンション管理の世界にも深く入り込んでいることだ。区分所有者の高齢化が進む中、オンライン理事会・電子投票・クラウド管理といった新技術を導入しようとしても、一定数の住民がついてこられない。「スマホを持っていない」「パソコンは苦手」という声が、DX推進の足かせになっている。

 管理会社側も同様だ。大手は積極的にシステム投資を進めるが、中小管理会社では人材もコストも追いつかない。AI導入による人件費削減効果が期待されながら、その「恩恵」が届くのは体力のある大手に偏る。デジタル化が業界の二極化をさらに加速させるという皮肉な構造が生まれている。

(*3):2026年2月26日、一般社団法人不動産テック協会主催で開催


三つの危機が交差する場所

 値上げしても施工会社が消え、AIは使いこなせない。三つの物語は別々の問題に見えて、実は一本の根でつながっている。それは「高度成長期に大量供給されたマンションのストックを、縮小する産業・高齢化した担い手で維持し続ける」という構造的矛盾だ。

 欧米では管理組合が長期にわたって財政を自律運営し、施工会社と直接対話する仕組みが成熟している。日本の管理組合はなお「管理会社に任せる」という受身の構造から抜け出せていない。

値上げは必要条件だが十分条件ではない。施工業者の育成・維持、DX適応支援、そして管理組合の自律化――三つが同時に動かなければ、「管理費危機」の本当の出口は見えてこない。管理組合という小さな民主主義が、時代の激流にさらされている。

大規模修繕工事新聞・ニュース速報 2026-05-03 07号