全種別が軒並み減少/分譲マンションは21%減
今回の着工減少は特定の住宅タイプに偏ったものではなく、全種別が揃って落ち込んだ点が特徴だ。
- 持家: 19万5,111戸(前年度比12.6%減)
- 貸家: 30万8,906戸(同13.5%減)
- 分譲住宅: 20万563戸(同12.6%減)
- うち分譲マンション: 8万2,881戸(同21.2%減)
- うち一戸建:11万5,200戸(同5.9%減・3年連続減少)
なかでも分譲マンションの落ち込みは際立っており、前年度比21.2%減という急落だ。前年度の回復分を一気に吐き出した格好で、首都圏を中心とした新築マンション価格の高止まりが購入者層を直撃した。
減少の主因として挙げられているのは①建築費・資材費の高騰による住宅価格の上昇、②省エネ基準適合義務化(2025年4月全面施行)に伴う建築確認手続きの長期化、③実質賃金の伸び悩みによる購買意欲の低下——の三つだ。さらに、建設業界の慢性的な人手不足が工期の長期化と建築コストの押し上げに拍車をかけている。
「予測すら下回った」着工急減の衝撃
この数字の衝撃は、業界の事前予測と比べても際立つ。野村総合研究所は2025年6月時点で「2025年度着工は87万戸(工事原価高騰の影響を考慮した場合は85万戸)」と見通していた。建設経済研究所でさえ2026年4月の改定予測で72.2万戸を想定していたが、実績はこれをさらに1.1万戸下回った。
専門家の予測を大幅に下回る急落は、建設費高騰・金利動向・脱炭素規制強化が複合的に作用した「構造的な縮小」の始まりと受け取るべきだ。2000年代以降、約90万戸(2015〜2019年度)から80万戸台(2020〜2023年度)へと段階的に縮小してきた着工戸数が、2025年度に一気に70万戸台前半まで落ち込んだ。70万戸台を記録したのはリーマン・ショック後の2009年度以来であり、それすら下回ったことになる。
「新築中心」の終焉が修繕需要を押し上げる
この着工急減は、大規模修繕工事業界にとってどのような意味を持つのか。
一言で言えば、「住宅ストックをいかに長持ちさせるか」という課題が、国家的な優先事項として浮上する転換点だ。
日本では長らく「新築して20〜30年経ったら建て替える」という「スクラップ・アンド・ビルド」型の住宅政策が主流だった。しかし新築供給が縮小し、かつ築40年超のマンションが現在の148万戸から20年後には483万戸へと急増する現実を前に、既存ストックの適切な維持管理・長寿命化こそが住宅政策の中核に位置づけられつつある。
建設経済研究所が2026年4月に公表した建設投資見通しによると、2025年度の建築補修(改装・改修)投資は17兆3,400億円(前年度比12.9%増)と高い伸びを示しており、2026年度も17兆8,100億円(同2.7%増)と拡大が続く見込みだ。新築住宅投資が縮小する一方で、リフォーム・修繕・改修投資が住宅市場を支える構造へとシフトが鮮明になっている。
大規模修繕の現場に突きつけられる課題
新築供給の縮小は、大規模修繕工事の発注・施工側双方に新たな課題を突きつけている。
発注者(管理組合)側では、新築に頼れない環境が「既存マンションの資産価値をどう守るか」という問いを一層切実にしている。適切なタイミングでの大規模修繕を怠れば、建物の市場価値が急落し、将来の売却・相続にも深刻な影響が出る。管理組合の修繕積立金不足問題がたびたび取り上げられているが、修繕を先送りするコストは先送りした年数分だけ膨らむ。
施工者(修繕工事業者)側では、人手不足と資材高騰という二重苦のなかで、修繕需要の拡大に応えきれるかどうかが問われる。新築工事が縮小すれば、建設技術者・職人が修繕・改修分野にシフトしてくる可能性もあるが、専門性の異なる工種には一定の移行期間が必要だ。加えて、今般の中東情勢によるナフサ不足(ナフサショック)が塗料・防水材・シーリング材などの調達に支障をきたしており、2026年度の施工計画にも影響が出始めている。
2026年度は回復見込み/ただし「構造的縮小」は続く
建設経済研究所の見通しでは、2026年度の新設住宅着工は77.7万戸(前年度比7.6%増)と一定の回復を予測している。省エネ基準適合義務化の反動減が一巡し、住宅ローン減税の継続など政策支援も追い風になるとみられる。
ただし、これはあくまで「反動増」であり、かつての90万戸台に戻ることを意味しない。人口減少・世帯数縮小という根本的な需要構造は変わらず、野村総合研究所は2040年度には61万戸まで着工が減少すると予測している。
「新築で供給し続ける時代」から「あるストックを丁寧に管理し続ける時代」へ——2025年度の着工統計が示した62年ぶりの低水準は、その歴史的な転換点を数字で刻んだ一枚の証拠だ。大規模修繕工事業界が担う役割は、これからますます大きくなる。
【データ出典】
- 国土交通省「建築着工統計調査報告(令和7年度計分)」(2026年4月30日公表)
- (一財)建設経済研究所「建設経済モデルによる建設投資の見通し」(2026年4月13日)
- 野村総合研究所「2040年度の新設住宅着工戸数は61万戸に減少」(2025年6月)