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「老いるマンション」の処方箋 国交省モデル事業の事例集が示す再生の最前線<ニュース速報10>

築40年超のマンションが今後20年で約148万戸から約483万戸へと急増する——。この現実に対応すべく国土交通省が令和2年度から推進してきた「マンションストック長寿命化等モデル事業」の事例集が、令和7年度版(第2版)として2025年4月に公開された。大規模修繕の現場に直結する先導的な工法・合意形成の工夫が凝縮された一冊だ。

事業の仕組みと事例集の位置づけ

本事業は、老朽化マンションの「長寿命化改修」または「建替え」に際して、技術的な先導性・合意形成・ライフサイクルコストの合理性などで総合的に優れたプロジェクトを公募し、国が費用の一部を補助する制度だ。令和2年度の開始以来、令和7年度第3回採択まで累計204件の応募から113件を採択(先導的再生モデルタイプ:計画支援59件・改修工事支援29件・建替え工事支援19件、管理適正化モデルタイプ:6件)。優良事例・ノウハウの全国横展開を目的として事例集が整備されてきた。

第2版は令和4〜6年度採択事業の知見を加え、初版(令和5年12月)を大幅に更新した。


事例が示す「改修」の最前線

事例集に収録された改修事例の中で、大規模修繕工事に携わる実務者が特に注目すべき取組が複数ある。

修繕周期の延長では、神奈川県のマンション(1994年竣工・116戸)が、高耐久材の採用と詳細な劣化診断の組み合わせによって修繕周期を従来の12年から18年に延長することに成功した。工事コストを分散させながら建物の長寿命化を実現したモデルとして注目される。ドローンを活用した外壁調査やEV充電設備の同時設置など、「大規模修繕を機に建物性能を底上げする」発想が実践されている。

専有部配管の共用部工事化は、業界が長年抱えてきた難題への一つの解答だ。1981年竣工・175戸のマンションは「100年マンション」を目標に掲げ、耐震型高性能ポリエチレン管への全面更新を実施。その際、管理規約を改正して専有部の配管も管理組合が発注する共用部工事として一括実施した。専有部への工事費負担と区分所有者間の合意形成という二重の壁を、規約改正という「制度的な工夫」で突破した点が評価されている。

工程設計の革新も見逃せない。1989年竣工・419戸の大規模マンションでは、配管のオール樹脂化に際して全棟を並行施工する「らせん工程」を導入。連続排水制限日数を従来の6日間から3〜4日間に短縮し、居住者の生活負担を大幅に軽減した。

防災改修との連携では、浸水リスクシミュレーション(想定浸水深85cm)に基づく止水板設置・室外機嵩上げなどを実施したマンション(1994年竣工・144戸)が、これらの対策により資産価値が約19%向上するとの評価を得た事例も報告されている。


建替え事例が示す「合意形成」の知恵

建替え事例では、費用負担の軽減と合意形成の工夫が際立つ。

1966年竣工・702戸の大規模団地では、空き住戸を建替え工事中の仮住まいとして活用し、居住者の引越し回数と負担を削減。加えて北側敷地を保留敷地として売却することで、区分所有者の持ち出し費用を圧縮した。「建替えは費用がかかりすぎる」という最大の心理的障壁を、事業スキームの工夫で乗り越えた事例だ。

郊外型団地(1969年竣工・260戸)では、現地建替え・非現地建替え・敷地分割など複数の再生手法を並行して比較検討。多様な居住ニーズ(改修を望む層・建替えを望む層・住替えを希望する層)に同時に応える手法を模索した経緯が丁寧に記録されており、「答えは一つではない」という合意形成の現実を正直に示している。


令和7年度の新潮流――「管理適正化モデルタイプ」の追加

第2版で特筆すべきは、令和6年度から新設された「管理適正化モデルタイプ」の事例が加わった点だ。これは管理水準の低いマンションが地方公共団体と連携しながら管理体制を立て直し、大規模修繕工事にこぎつけるまでのプロセスを支援するタイプで、令和7年度第3回までの採択実績は合計6件。「工事の質を高める」だけでなく「工事を実施できる管理体制を作る」ところから支援する、より川上への政策的関与を示している。


現場への示唆

事例集を横断すると、成功事例に共通するパターンが浮かぶ。①劣化診断と工法選択を連動させる、②修繕を機に規約・管理体制を同時に見直す、③居住者の生活負担を工程設計で最小化する、④防災・省エネ・EV対応など「時代の要請」を取り込む——この四つだ。

「普通の大規模修繕」から「建物の未来を変える大規模修繕」へ。事例集はその具体的な地図として、全国の管理組合・施工業者・設計コンサルが参照する価値がある。


【参考資料】

大規模修繕工事新聞・ニュース速報 2026-05-14 10