平成31年3月22日東京地裁
【事件の概要】
本件マンションの区分所有者2人(原告X1、X2)が、長年にわたり、管理組合理事長職を務める理事長(被告)に対して、その業務の執行および修繕工事をめぐる会計処理等に不信感を募らせて、その真相を追究するために、理事長を追いかけたり、委託契約先に対して情報開示の強要を行った。
また原告らは「適正化の会」を立ち上げて、理事長の交代と職務責任を追及する活動を行っていた。
これに対し、理事長は、原告らの一連の行動について、臨時総会を開き、ストーカー被害として警察署に相談した事実や、原告らのいやがらせ行為の内容や回数を実際より盛った内容の書面を配付、原告らを誹謗中傷する発言をした。
原告らは、名誉が著しく毀損されたとして本件本訴を提起し、また、理事長も本訴原告らの一連の行動によって名誉が毀損されたと反訴を提起した。
(マン管センター/マンション管理サポートネットより抜粋)
【当事者】
原告:区分所有者X1、区分所有者X2
被告:元理事長
【主文の要約】
元理事長(被告)の責任: 原告らに対する名誉毀損が認められ、原告X1に30万円、原告X2に20万円(計50万円)の支払いを命じる。
区分所有者(原告X2)の責任: 元理事長に対する名誉毀損(総会での発言)が認められ、元理事長へ11万円の支払いを命じる。その余の請求(高額な慰謝料請求や、元理事長が求めた謝罪文の掲示など)はすべて棄却する。
【裁判所の判断】
① 元理事長(被告)側による名誉毀損の成否元理事長が組合員に配った「被告文書」や総会での発言について
【不法行為が成立(違法)とされたもの】
・ストーカー、つきまとい行為の主張: 原告らが被告の動静を観察した事実は認められるものの、「一定時間継続して尾行した」という詳細な記録は事後的に捏造された疑いがあり、真実とは認められない。
・管理会社への暴言・嫌がらせ: 原告らが管理会社に苛立ちをぶつけた事実はあるが、記載内容は過剰に誇張されており、真実ではない。
・保険契約書の不正取得未遂: 原告X1の発言を誇張したものであり、真実ではない。
・防犯カメラ画像の公開: 原告X2が貼り紙を剥がす等の映像を組合員に公開した件。総会議題と直接関係がなく、原告らをおとしめる意図が見えるため、専ら公益目的とは言えず違法である。
【違法性が阻却(無罪)とされたもの】
・ 「200枚以上の中傷文書」という表現: 実際の枚数は80枚程度だが、多数の文書で批判された元理事長が「中傷文書が多数届いた」と信じたことには相当な理由がある。
・ 「修繕積立金の横領疑惑」への反論): 原告らが合理的な根拠なく担保設定(横領の疑い)を主張していたことは事実であるため、真実と認められる。
② 区分所有者(原告・適正化の会)側による名誉毀損の成否
【不法行為が成立(違法)とされたもの】
・原告X2の総会での発言「元理事長が警察のブラックリストに載っている」: 虚偽の事実であり、元理事長が犯罪常習者であるかのような印象を与えて社会的評価を低下させたため、名誉毀損が成立する(11万円の賠償対象)。
【違法性が阻却(無罪)とされたもの】
・ 「元理事長がストーカー被害をでっち上げた」という記載: 前述の通り、元理事長による継続的尾行の主張には虚偽(でっち上げ)の不審点があるため、この指摘は真実である。
【コメント】
本判決は、マンション管理の透明性を求めようとした区分所有者側の行動(居住実態の調査など)に一定の理解を示しつつも、双方が感情的になり、事実を誇張した文書を配布したり、総会で根拠のないレッテル貼りの発言(ストーカー、ブラックリストなど)を行ったりしたことについて、いずれも一線を越えた名誉毀損にあたると認定した事例となった。
大規模修繕工事新聞 2026年6月 198号





