国土交通省が実施した令和5年度マンション総合調査(令和6年6月21日公表)で、長期修繕計画上の積立額に対して実際の積立額が不足していると回答した管理組合が36.6%に上ることが明らかになった。そのうち不足割合が20%を超えるマンションは11.7%にのぼる。3棟に1棟超の割合で計画との乖離が生じているという深刻な実態は、建物劣化と資産価値下落に直結する問題として、改めて警鐘を鳴らしている。
「計画どおり積めている」は4割にとどまる
同調査によると、長期修繕計画上の積立額に対して実際の積立額が余剰にあると回答した管理組合は39.9%、不足は36.6%(うち20%超の不足が11.7%、10〜20%の不足が3.7%、5〜10%の不足が2.9%、5%以下の不足が18.3%)、不明は23.5%だった。
ここで注意が必要なのは、この調査は「長期修繕計画で自ら定めた計画値に対する実績の乖離」を問うものであるという点だ。長期修繕計画自体が実態より低く設定されているケースも多く、「計画どおり積めている」からといって将来の工事費を十分に賄えるとは限らない。36.6%という数字は、むしろ問題の下限を示していると見るべきだ。
不足の背景には複合的な要因がある。まず、分譲当初に設定された積立金が低く抑えられている構造的問題だ。新築販売時に月々の負担を軽くみせるために積立金を低額に設定する慣行が長年続いており、築年数の経過とともに計画との乖離が拡大しやすい。
加えて、近年の建設資材価格の高騰と職人不足による工事費の上昇も深刻だ。鉄鋼・セメント・足場材などの資材費は数年前と比べて軒並み2〜3割以上値上がりしており、10年以上前に作成された長期修繕計画の工事費単価では、実際の工事費を賄えないケースが増えている。
積立不足が招く連鎖
積立金が不足した場合、管理組合が取り得る選択肢は限られる。大規模修繕工事の先送り、区分所有者からの一時金徴収、または金融機関からの借り入れのいずれかだ。いずれの方法も住民の反発や経済的負担を招きやすく、総会での合意形成が難航する事例は少なくない。
問題はそこにとどまらない。工事を先送りした場合、外壁タイルの剥落・防水機能の低下・設備の老朽化が進行し、二次被害の補修費用が追加で発生するリスクが高まる。適切なタイミングで修繕を行っていれば数百万円で済んだ工事が、放置することで数倍のコストを要するケースは珍しくない。
さらに、修繕が滞ったマンションは中古市場での資産価値が下がりやすい。「管理を見れば物件を買え」といわれるほど、管理組合の財政状態と修繕履歴は購入判断の重要指標であり、積立不足は売却価格にも直接影響する。
見直しは「今すぐ」が原則
専門家は「積立金の見直しは、問題が表面化してからでは遅い」と口をそろえる。一般社団法人全国建物調査診断センターの資料によれば、東京都内のRC造・15階建・50戸・築15年のモデルケースで、月額1万2,000円の積立金を据え置いた場合、30年後に約9,300万円の資金不足が生じると試算されている。
同センターが提唱するのは、定期的な建物診断と長期修繕計画の見直しを一体で行う第三者主導のアプローチだ。工事項目の組み合わせを最適化し、足場の共有・関連工事の同時実施などを取り入れることで、同ケースでは30年累計の修繕支出を約2,100万円削減できるという。「積立金を上げるかどうかという二択ではなく、計画全体を最適設計し直すことが本質的な解決策だ」と同センターは指摘する。
なお、令和5年度調査では月/戸当たりの修繕積立金の平均額は1万3,054円(駐車場使用料等からの充当額を含む総額は1万3,378円)となっており、平成30年度調査(1万1,243円)から約1,800円増加している。それでも長期的な工事費上昇には追いついていないのが実態だ。
法制度の後押しも
国土交通省は長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月最終改訂)や修繕積立金ガイドラインを通じて、長期修繕計画の定期的な見直しと適切な積立金設定を管理組合に求めている。また、マンション管理計画認定制度のもとでも計画の妥当性が認定要件の一つとなっており、法制度の後押しが整いつつある中で、管理組合が主体的に動けるかどうかが問われている。
積立金の問題は「値上げを決議するかどうか」という政治的判断の問題に矮小化されがちだ。しかし本質は、このマンションを将来にわたってどう維持し、住む人の資産をどう守るかという問いである。今こそ、手元の長期修繕計画が「今も使える計画かどうか」を点検する好機だ。
参考:国土交通省「令和5年度マンション総合調査」(令和6年6月21日公表)
大規模修繕工事新聞・ニュース速報 2026-07-19 17号





