
中東情勢を背景とした「ナフサ(粗製ガソリン)ショック」により、2026年現在、マンションの大規模修繕工事は全国的に深刻な停滞に見舞われています。
業界団体の調査(4月3~10日実施。会員172社のうち87社が回答)では、全国で51社594物件(未着工含む)のマンションで修繕工期に遅れが生じているという回答がありました。
実際に「入手困難や納期遅延が発生している」との回答は42社(48.3%)、356物件でした。
停滞を引き起こしている主な要因と現状は以下の通りです。
1. 資材の物理的な供給停止・出荷制限
「予算を上乗せすれば買える」という状況ではなく、物理的な供給停止が発生しています。防水材やシーリング材、シンナーなどの溶剤系塗料において、主要メーカーからの受注一時停止や出荷制限が相次いでおり、材料が手配できずに着工できない、あるいは工程表が白紙になるケースが急増しています。
2. 急激な価格高騰による修繕積立金の不足
運良く資材の供給ルートが確保できた場合でも、価格は大幅に上昇しています。
これにより、管理組合が設定していた事前の予算をオーバーしてしまい、計画の練り直しや一時金の追加徴収に関する議論が必要となることで、結果的に工事がストップする要因となっています。
3. 施工会社からの「延期・中止」打診と見積期限の短期化
着工直前になって、施工会社側から「材料が入らないため延期してほしい」といった打診がなされるケースが増加しています。
また、資材価格の変動が激しいため、見積もりの有効期限が従来より極端に短く設定される傾向にあり、管理組合での総会決議などの合意形成スピードが追いつかないことも停滞に拍車をかけています。
4. 談合問題
ナフサ由来の資材不足が「外部的・物理的要因」であるのに対し、一部の設計コンサルタントや施工会社による談合は、大規模修繕を内部から停滞させる「構造的・人為的要因」として事態をさらに深刻化させています。
5. 不信感による「合意形成の凍結とやり直し」
設計コンサルタントが業者選定を主導し、工事のチェックも行う「設計監理方式」において、コンサルタントと施工会社が水面下で結託している疑いが浮上すると、管理組合内のガバナンスが機能不全に陥ります。
「提示された見積もりは本当に適正なのか?」という疑念から、セカンドオピニオンの取得、コンサルタントの解任、さらには修繕委員会の解散や再結成へと発展し、着工までに数年単位の遅れ(プロセスの白紙撤回)が生じるケースが多発しています。
6.まとめ
現在の修繕工事の停滞は、「資材が手に入らず着工できない(物理的停滞)」と、「談合疑惑と異常な予算オーバーにより、組合内の合意が取れない(合意形成の停滞)」のダブルパンチによって引き起こされています。
ただし、「状況が落ち着くまで待とう」という安易な先延ばしは、防水機能の劣化による雨漏りやコンクリートの内部腐食を引き起こし、将来的に数百万円単位の追加費用(下地補修費など)を発生させる致命的なリスクになりかねません。
劣化状況を診断し、緊急度の高い箇所(屋上防水など)から優先的に着手するなどの戦略的な判断が求められています。
<全建センター・大規模修繕工事新聞論説委員会2026-9-02>
大規模修繕工事新聞 2026年9月 201号




