上階に住む幼児(当時3 ~ 4歳)の走り回る音が受忍限度を超えるとして階下住民(原告)が提訴していた件で東京地裁(中村也寸志裁判官)は10月3日、被告である幼児の父親の不誠実な対応や、騒音が「かなり大きく聞こえるレベル」であることから、「一般社会生活上原告が受忍すべき限度を超えるもの」とし、被告に36万円(慰謝料30万円、弁護士費用6万円)の支払いを命じた。請求は慰謝料200万円、弁護士費用40万円。被告家族は住戸を賃借して04年2月に入居、翌年11月に退去している。
【事件の要点】
● マンションは、88年竣工。床構造は、150mm厚のコンクリートスラブ。LH60程度であり、日本建築学会の建築物の遮音性能基準によれば、集合住宅3級、遮音性能上やや劣る水準にある。
当時、原告住戸の暗騒音※1は27 ~ 29dB(デシベル)だった
● 被告家族が2階住戸を賃借して入居した04年から、幼児がいるときには、住戸内を走り回ったり、跳んだり跳ねたりすることが多くなり、階下への騒音を及ぼすようになった
● 被告家族は入居する際、原告に挨拶をしておらず、近所づきあいはなかった
● 原告が管理組合に訴え、子供の走り回る音などに注意を呼びかける内容の書面を各戸に配布。この後も管理組合では、日常の生活音について配慮することを求める書面を掲示し、各戸にも配布した。原告は管理会社や警察にも相談したが、解決には至らなかった
● 原告が被告あてに、幼児の足音に配慮をお願いする手紙を投函。被告から謝罪文言を記した返信が来たが、内容の大半は天井を棒で突くな!などという、原告への非難で占めた。原告が訪ねた際には、被告は「これ以上静かにすることはできない。文句があるなら建物に言ってくれ」と乱暴な口調で突っぱねた
● 原告は、客観的なデータを得るために騒音計を入手し、記録を開始。結果は、子供の走り回る騒音50dB ~ 65dB程度※2がほぼ毎日原
● 原告の妻が、精神的ストレスから来る、咽喉頭異常感、不眠等のため、通院加療を受けた
● 原告は被告に対し、騒音差止めと損害賠償による調停を求めたが、被告が応じなかったため、調停不成立となった
※1 暗騒音とは、対象とする騒音を除いた場合の、その環境における騒音のこと
※2 平成12年東京都条例第215号では、第1種中高層住居専用地域において、音源の存在する敷地と隣地との間の音量を45 ~ 50dBと規制している
【東京地裁の判断】
○ 子供が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりする音は、かなり大きく聞こえるレベルである50 ~ 60dB程度のものが多く、深夜にも及んだ
○ 被告が幼児をしつけるなど住まい方を工夫し、階下住民である原告に対し、誠意ある対応を行うことは当然である
○ 被告は、床にマットを敷いたものの、その効果は明らかではなく、原告に対して乱暴な口調で突っぱねるなど、その対応は極めて不誠実なものであった
○ 原告は、最後の手段である訴訟等に備えて騒音計を購入し、精神的にも悩み、原告の妻は、咽喉頭異常感、不眠等の症状も生じた
以上の点から、中村裁判官は、被告の住まい方や対応の不誠実さを考慮し、子供が廊下を走ったり、跳んだり跳ねたりする音は、一般社会生活上、原告が受忍すべき限度を超えるものであった、と結んでいる。
【解説】
これまでマンションの生活騒音に関する問題は、感じ方に個人差があるため、多くは騒音に悩まされる被害者が折れる形の和解解決が促されてきた。
ところが、今回の判例は被害者=(原告・階下住民)への賠償を認めている。
判決の決め手は何より原告のとった対応にある。騒音計を入手してデシベル数を計る、管理組合を通して全戸に生活騒音に関する書面を配布する、被告住民に個人的にも手紙を投函する、調停を申し
立てたが被告に拒否された…訴訟しなければ解決しないだろう状態にあったことがうかがえた。あらゆる手段を講じても解決できなかったという判断につながったのではないか。
(大規模修繕工事新聞 第08号)