全国建物調査診断センターは1月24日、東京・京橋の㈱住宅あんしん保証本社会議室で「意外に難関 合意形成の秘訣」をテーマに大規模修繕工事【問題解決】セミナーを行いました。
大規模修繕工事の計画を立てる際、理事会や修繕委員会で集約した情報等を正しく住民に伝え、合意形成をする必要があります。
そこで、こうした住民の合意形成の支援をしてきた㈱KAI設計(1級建築士事務所)の菅純一郎・代表取締役の講演内容の一部を掲載します。
失敗事例 情報開示不足でつまずき
前期、現理事会が対立
物件概要
松戸市・1975年竣工・200戸
経過
相談の2年前から給排水管の漏水が頻発しており、早急な工事が必要とのことだった。
相談を受けた初回のヒアリング内容を下記にまとめた。
・ 前期の理事会の思いつくまま、複数の管更生工事業者に見積もり依頼を行い、特定の業者に決定した。
・ 頻発する漏水事故を抑制するために強引な流れで総会に議案を上げたのである。
・ 出席した区分所有者は「寝耳に水」の状態だったため、猛反発。以後、前期理事会と区分所有者間の確執が生まれた。
・ 相談に来たのは、現理事会であり、主なメンバーは前期理事会案に反対した区分所有者である。
相談対応
管理組合内部の区分所有者間の確執は明確であったため、情報公開や、区分所有者と設計コンサルタントとのコミュニケーションを図ることを目的に、業務委託期間1年間のうち、6度の説明会を実施。説明会は工事範囲、内容、金額、工法、業者選定方法など、区分所有者の理解を徐々に進めていった。
この間、前期理事会のメンバーとも意見交換を進め、コミュニケーションを図り、大切なのは工事を完了することでマンション全体の利益になることであると主張し、一定の理解を得た。
「理事会の苦労は一般の区分所有者には伝わりにくい。それをわかってもらうためには情報公開やコミュニケーションが大事。今回はそれがなくて区分所有者間の確執が生まれたため、説明会を繰り返した」と説明した。
この結果…
前期、今期理事会の感情論は一旦置いて、マンション全体の利益を優先するようにお願いしていたにも関わらず、前期理事会派の反発により工事計画が頓挫。漏水事故の洗い出し、仕様書作成、説明会実施など、設計コンサルタント費用も水泡に帰した。
何が悪かったのか
問題点はやはり、最初のつまずきだ。理事会や専門委員会の関係者には当たり前のことでも、区分所有者や居住者にとってはそうとは限らない。前期理事会の情報開示不足やコミュニケーション不足が確執の原因となり、尾を引いた。
設計コンサルタントが入り、前期理事会を諭しても現理事会との溝は埋まらなかった。
大切なのは情報開示
共用部分がメインの大規模修繕工事でもバルコニーの使用制限による不自由がある。設備工事に至っては、断水や排水制限、在宅のお願いなど生活への影響が大きくなる。
総会でそんな大事な工事を急に定義されたら、だれだって普通はびっくりするだろう。
劣化状況やこれからの方針、おカネの算段、工事計画作成などの過程や中間報告の情報開示をして、周知することは大切である。
周知の方法としては、説明会の実施や広報誌の定期的な発行、管理組合独自のWebサイトの作成など、さまざなことが考えられる。
(大規模修繕工事新聞 第75号)2016-03