マンション管理における素人と専門家
NPO日本住宅管理組合協議会/『マンション管理の「なぜ?」がよくわかる本―管理組合運営読本―』より
先日、ある管理組合役員を対象にした講習会で、マンション管理士が「管理組合の役員は素人なので、マンション管理士などの専門家の助けを得る必要がある」との発言をしていた。確か、マンション管理適正化指針でも同様なことが書かれている。
だが、こうした主張は「素人」と「専門家」をまったく対立する概念のように捉えすぎているように思われる。そこでは、「素人」もまた、一人の「専門家」であることが忘れられているのではないか。
何らかの分野で「専門家」である人も、専門分野以外では「素人」なのである。管理組合をみても組合員の中には一級建築士やマンション管理士も存在するであろう。しかし、彼らとて管理組合運営においては「素人」なのである。
そもそも管理組合運営における「専門家」なるものが存在するであろうか。なるほど、マンション管理会社というものが存在する。だが、それは管理業務を受託する専門的業者であって、管理組合運営の専門家とは言えない。
マンション管理士と言えば、それはマンション管理士資格に合格した者というだけである。その位置づけも、管理組合等への助言・アドバイザーというものであり、組合運営の専門家というわけでもない。
かくて、マンション管理組合運営は「素人」である組合員が担うしかない。しかし、「素人」という言葉を私たちは何も否定的にのみ受け取るべきではないだろう。素人には素人としての「常識」において、専門家とは独立した原理があり、その上に適切な「叡智(えいち)」が働くと考えることができる。それこそが管理組合運営を公正・合理・民主的に運営させていくものである。
組合運営における素人の「(健全な)常識」を洗練させ、「良識」としていくためには、他の管理組合をも含めた組合運営の諸経験を学び、それを共有・蓄積していくことが大事である。
そこに管理組合団体の存在意義がある。管理組合団体の活動はすでに40年超の歴史を持っている。そこには、「素人」として管理組合運営に長年携わってきたものがいる。仮に、管理組合運営の「専門家」というものがあるとしたら、あるいは彼らこそがそうなのではないか。素人の管理組合が「専門家」の専門知識を活用するというのであれば、そこに相談するのが適切であろう。
(NPO日住協論説委員会)
(大規模修繕工事新聞95号)