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全建センターのサービスメニューを徹底討論!

『大規模修繕工事新聞』はマンション改修業界における唯一の業界紙として2010年1月に第1号を創刊して以来、おかげさまで11周年目を迎えました。読者やスポンサーの皆様に感謝を申し上げます。
この記念の節目である2020年正月号において、これからのマンション大規模修繕工事、改修業界はどのような方向に向かっていくのか、一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)の佐藤理事をコーディネーターとし、管理組合代表として垰下氏、給排水設備コンサルタントの淵上理事に座談会の形式でお話を聞きました。

コンサル選び失敗で工事がとん挫/住民説明なしで進めていった結果

佐藤成幸氏:現在、改修業界では修繕工事の発注方式において、管理会社不信や不適切コンサルタントの問題に直面しているという現実があります。
改修業界は多様性の時代となり、いろいろな選択肢があって、その中から管理組合が自身で選んでいく―そこに管理組合の自主性、自立性が存在していくと考えらえます。
垰下さんの管理組合では、大規模修繕工事直前にコンサルタントや施工業者の選定を取りやめました。まずはその経緯からお話しください。
垰下雅美氏:私どものマンションは築14年目ですけれど、2年前に大規模修繕工事を予定しました。けれども管理組合、すなわち住民にですね、説明が徹底されてなかったということが原因で設計コンサルタント、内定していた施工業者を臨時総会でキャンセルしました。
なぜこういう風になったのか、設計コンサルタントに求めました。元は設計・監理方式で、設計コンサルタントに委任して工事計画を進めていたんです。
住民の間で工事費用が高いの安いのとはじまって、目安がわからないわけですよ。説明会もなし。理事会や修繕委員会は議事録とっていたんだけど、住民には回さなかったんです。だからさっぱりわからない。コンサルタントが修繕委員会に入って、どんどん進めていった結果です。
そこで「それはやはりおかしいんじゃないか」ということで臨時総会を開き、キャンセルしたほうがいいんじゃないかという話に固まったんです。
佐藤氏:全建センターへの相談でも、垰下さんがおっしゃっているケース、つまりどうも設計コンサルタント、設計・監理方式で進めていて、うまいこと行かない、途中からバトンタッチできないかという話は多いんです。
淵上和久氏:今、全建センターのトータル・マネジメント方式を採用しようと相談を受けている管理組合があって、実はそのマンションもいろいろ失敗がありました。
管理会社は突然あの工事やりましょう、この工事やりましょうと長期修繕計画をガラッと変えた工事提案をしてくる。コンサルタントに頼んでも管理組合が考えている意図を受け入れてくれない…。その中でいろいろ調べた結果、トータル・マネジメント方式にたどり着き、全建センターに問い合わせが来たという流れです。
いきなりトータル・マネジメント方式ではなく、紆余曲折があったり、失敗したりして、1回立ち止まってみて、見直した結果、全建センターに漕ぎ着けた、ひとつのパターンなのかなと感じています。
垰下氏:うちのマンションも設計コンサルタントは、一般住民からなる理事会は何も知らないから、結局管理会社が出してきた3社のプレゼンテーションで決めたということでした。
そうして選ばれたコンサルタントが住民への説明をせずにどんどん進めていく。しかし住民のみなさんがインターネットで調べて、何か少しおかしいんじゃないか、それが問題化してきた。85%以上の反対票により、一度立ち止まって再検討となり、当時の大規模修繕委員会は解散しました。
佐藤氏:垰下さんのマンションでは大規模修繕工事がとん挫していることから、トータル・マネジメント方式で工事計画を再検討されているということですが、これまでの設計コンサルタントに費用を払ってしまっているんですよね。
垰下氏:今まで払った額を取り戻すっていうわけではないんですが、今後どうしたら良いかを新しい理事会や修繕委員会で考えています。
これからどういう発注方式がよいか、私個人としてはトータル・マネジメント方式が一番ベターだと思っていますが、住民のみなさんが「自分の家のことだから真剣に考えていく」という形にならないと、お任せではやっぱり似たような問題が出て
くると思うんですね。
佐藤氏:トータル・マネジメント方式は、基本的に管理組合が施工業者に直接発注する方式であるため、管理会社や設計コンサルタントにかかる中間マージンがなくなるというメリットがあります。
しかし、それには、まず管理組合の自主性、自立性に意思があることが大前提です。それを理解してもらった上で、全建センターが最大限お手伝いしていくのがトータル・マネジメント方式の基本だと思っています。
淵上氏:全建センターとして私がお手伝いした築38年のマンションでは、過去の修繕履歴を整理し、集会所の壁に模造紙で一覧表にして、この工事って本当に適切だったのか、適切じゃなかったのかというのを洗い出しました。
私どもに相談されると、多少労力がかかる部分はあるんですが、管理組合が本当に問題意識を持つことによって、もう一度、一からやり直す形のほうが結局は得すると判断してもらっています。
佐藤氏:いろいろ検討したりあるいはとん挫や失敗した経験が、最後にこれでいけるんじゃないかと辿り着いた方式が、トータル・マネジメント方式だったという管理組合が結構あるようですね。

新方式・制度は住民の理解が難しい/現地派遣等、普及させる検討が必要

淵上氏:セミナー後の相談で、全建センターに長期修繕計画を見直してほしいという依頼がありました。
 2年前に大規模修繕工事を行った際、設計コンサルタントと管理会社との“からくり”が見えてしまったというのです。
 今後、給排水設備工事をやる場合を考え、また同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。そこで調べると全建センターのセカンド・オピニオン制度、無料調査診断サービスがあったので、給排水工事について全然違った視点でやってもらえませんかという相談でした。
 それから現地訪問し、理事、修繕委員さんが何人か集まってもらって、全建センターの役割や考え方を説明(全建センターは設計事務所ではないし、施工業者でもない)しました。その上で、実際に管理会社の報告書の妥当性の再調査をさせてもらった事例があります。
佐藤氏:世の中にはセカンド・オピニオンだと名乗って寄ってくる人がたくさんいます。しかし、そんなに簡単にセカンド・オピニオンをやる人材はそんなにいません。セカンド・オピニオン制度は、依頼している管理会社や設計コンサルタントとやり合うだけの知識と見識と実績がなければできないものです。
垰下氏:私は2回ほど全建センターのセミナーに参加しているんですよ。ただ、マンションに帰って、理事や修繕委員にトータル・マネジメント方式、セカンド・オピニオン制度を説明するというのは結構難しいんです。
 できれば全建センターで説明できる人を増やしてもらって、もっと普及してもらって、場合によっては2回3回マンションに来てほしいと思います。それが可能であれば、私はこの方式絶対いいと思うのですよ。
 だから、全建センターはメンバーを増やして、地域に派遣して、2回でも3回でも「理解していただけるのならどこでも行くよ」という形になるのが一番いいと思います。
佐藤氏:トータル・マネジメント方式、セカンド・オピニオン制など、全建センターの活動を理解してもらう過程がまだまだという話、理解してもらうことに時間がかかるというのがデメリットといえるようですね。
 我々のセミナーも回を重ねて、だいたい今100人を超える参加があり、それ以外にも随時、メールとか電話での相談があります。
 このような問題意識を持った住民の芽をできるだけ育てて、修繕計画・維持管理を住民の手に取り戻す、主体性を取り戻す、そのために仕組みとして必要であれば、トータル・マネジメント方式やセカンド・オピニオン制度など、全建センターとしても管理組合を助けていくメニューについて、もっと広く普及させることを検討していきたいと思います。
淵上氏:管理組合のみなさんのほうでもセミナーには仲間を連れだって来てほしいです。セミナー等の勉強会に1人だけ聞きに行って、それを理事会で説明するにしても言葉足らずになってしまいます。
 同じ管理組合からできれば2人以上くらいで参加して、情報を共有できれば理想です。共通の認識ができて、勉強会・説明会などを企画してもらえると、全建センターからの派遣もしやすくなります。

大切なのはみんなが共有する感覚/「自分たちの住まいを良くしていこう」

垰下氏:マンションに住んでいる人に言いたいのは、「いかに自分の家を良くするか」をみんなで考えましょうということです。いかに無駄なお金を使わず、いかにいい施工をして、いかに長持ちさせるかが管理組合の最大の仕事です。管理会社は利益相反関係にあるので、あてにしてはいけません。
 管理組合の自立ためにはいろいろ情報収集や勉強をしていかなければならない。ただし最も大切なのは住民とのコミュニケーションです。住民も終の棲家と考えているとなると、大切
なのは「仲良く、自分たちの住まいを良くしていこう」というみんなが共有する感覚です。
 昨年の大型台風のとき、理事でもないのに3回もうちのマンション内を見回った人がいたんですよ。損得とかそういうことではないんですよね。
淵上氏:マンション内のコミュニティーを設備の面から考えると、マンションの配管は実は専有部分の中に多いのですが、そのための修繕積立金はゼロです。漏水などの問題は専有部分で起こる割合が多いのに予算は共用部分だけ。いざ専有配管の経年劣化がひどく、漏水が頻発すると、管理会社の「専有部分もやりましょう、借り入れしましょう、積立金値上げしましょう」という営業攻撃に合うということなります。
 専有部分間の漏水トラブルは当事者間の問題でありますが、管理組合がタッチしないわけにはいきません。
佐藤氏:確かに設備の長期修繕計画でのサイクルは、不必要な工事が不必要な時期に入っていて、本当に必要な工事が計画に入っていないと言えます。
 専有部分の漏水は住民間のトラブルにつながります。コミュニティーを形成したいのにトラブルが起きてしまうと、垰下さんが口にする「仲良く」の真逆の話になるわけです。
淵上氏:専有部分だから管理組合がやるのは法的におかしいという人がいますが、法律にとらわれ過ぎていると、本来直さなきゃいけないところが個人任せになり、コミュニティー形成が難しくなります。

佐藤氏:本日の座談会のキーワードは「管理組合の自主性、自立性」、それからいろいろな災害やトラブルに関して求められていく「コミュニティー」という言葉だと言えます。
 垰下さんがおっしゃった「いかに家を良くするか」を全建センターがお手伝いするためには、トータル・マネジメント方式、セカンド・オピニオン制度の普及、無料建物調査診断サービス、勉強の一助となるセミナー・無料相談の実施、『大規模修繕工事新聞』やその他書籍の発行のさらなる充実です。
 2020年も「家を良く」していく、そういった観点で全建センターも頑張っていきたいと思います。

大規模修繕工事新聞(121号)


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