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長寿命化のかぎは「ご近所力」が握る

22-2011-10-14 神奈川・大和市の冨士見文化会館で9月17日、『狙われるマンション』などの著書があるノンフィクション作家・山岡淳一郎氏の講演が行われました(主催:NPOかながわ県央マンション管理組合ネットワーク)。
テーマは「既存マンションの長寿命化と震災への対応―マンションを終の棲家とするために」。このページでは山岡氏の講演の中で、多岐にわたる取材を通して講演の題材にしたマンションの事例紹介を紙上採録しました。

長寿命化のかぎは、やはり普段からのお互いの顔と顔の関係であったりであるとか、何かあったときにサッと動けるか、そういうものに尽きるのかなと思います。
具体的にコミュニティーを形成していくためにどういう風な活動しているか、いくつかのマンションの事例をお話したいと思います。

ノンフィクション作家・山岡淳一郎氏 1959年愛媛県生まれ。「人と時代」「21世紀と公と私」を共通のテーマに近現代史、建築、医療、政治などの分野で旺盛な著作活動を行う。
ノンフィクション作家・山岡淳一郎氏
1959年愛媛県生まれ。「人と時代」「21世紀と公と私」を共通のテーマに近現代史、建築、医療、政治などの分野で旺盛な著作活動を行う。

1.マンションクルーズ

東京・芝浦の運河のところで舟にみなさん乗っているんですが、全部マンション住民の方々です。阪神・淡路大震災が起こった1月17日に毎年、この地域の人たちが運河をめぐって、まちの防災についてお互いに確認し合おうと、そういう風な催しをやっています。
彼らは「NPO海塾」を立ち上げ、防災を知るためには自分たちのまちにどういうものがあって、運河をわたる橋を中心としたライフラインはどういう風に通っているかということをきちんと確認することが「防災クルーズ」をはじめたきっかけだと言っています。
たくさんある橋の名前だけでも住民同士で共有しようじゃないかというのが海塾の基本的な発想なんです。
だからまず、自分たちのまちとか、マンションとか、自分たちの暮らしている場所を客観的に知ろうじゃないか。マンションでいうと、マンションクルーズですよね。機会室がどこにあるのだとか、というのを住民がみるだけでもきっかけづくりになるのかなと思います。

2.互助会「かけはし」

築後35年になる300戸くらいの団地です。もともと無関心層が多くて維持管理や経理に関してはうまくいっていませんでした。
12、3年前になりますが、2回目の大規模修繕工事で立ちあがった人たちを中心に「もっとこの環境(住民同士で大規模修繕を成し遂げた人間関係)をうまく使っていこう」ということになって、「かけはし」という互助会を作りました。
65歳以上の人たちに、お互いにできる人がしてあげるということをモットーに、例えば水道のパッキンや電球を替えてあげるだとか、1回300円というところからはじまって、「かけはし」という任意団体をマンション内に作る。で、作る時に管理組合の承認を得るなどとすると時間がかかってしょうがないので、「この指止まれ」で集まった人が60数人集まったそうです。
独居老人の方が「かけはし」でベランダに用意したパネルで、赤だったら何か用事があるだとか、緑だったら今日は大丈夫だとか出すようにして、団地の下を通るだけでどうなのかわかるなど、いろんな工夫をしはじめるんです。
最初は無関心だった人が、だんだん管理組合のことを知るようになると、もっとやろうという話になって、電気設備の改修になったとき、みんなで配電盤の工場見学をしたり、業者選定も素人にわかりやすい管理組合への「説明力」で決定するようになりました。

3.NPO「虹の会」

次は1,000戸くらいのマンションです。ここは「虹の会」を作りまして、住民がNPOとして運営しているんです。
ヘルパーさんも20人くらい実際に雇って、その中にケアマネジャーもいるんですが、オフィスは団地にあった元学童保育用の施設です。
団地ができたころは子どもが多かったのですが、時間がたって今は使われなくなってNPOが借り受け、デイケア的なサービスもできるようになっています。介護支援だけではなく、障害者支援も行っています。
なんでこんなことができるのかというと、ここもお互いの助け合いからはじまっています。助け合いをしているうちに5、6年たち、これから先は「介護」ということで行政に申請してNPO化しました。

4.「共助」を軸にした防災

4棟900戸近い大規模なマンション。お互いに防災、救護、連絡役などをフロアの中で役割を決めて、「共助(共に助け合う)を軸にした防災に取り組んでいる」とメディアに紹介されました。
元理事長は「防災の基本はコミュニティーにある」。つまり「コミュニティーで普段からいろいろお互いの顔がわかるような活動をしている、それが取り上げられた理由では」とコメントしていました。
ただ、7、8年前は住民の無関心がひどく、理事会に対する嫌がらせもあったとい言います。「いちゃもんをつけるのはだいたい専門職です。でもクレームはコミュニケーションの第一歩です。クレームをつけてきた人をむしろ専門委員会に入ってもらい、コミュニティー活動を活発化していきました」。
こういうのもこれからのマンション管理をする上での、取り組みの一つと考えます。

直 近 の 著 書

山岡淳一郎/著 筑摩書房/発行 ちくま新書・240ページ・定価798円(税込) ISBN:978-4-480-06628-2
山岡淳一郎/著
筑摩書房/発行
ちくま新書・240ページ・定価798円(税込)
ISBN:978-4-480-06628-2

『原発と権力─戦後から辿る支配者の系譜』
戦後、原子力の魅力に飛び付き、原子力をまさに「力」として今日の日本を築いた政治家たち(=中曽根康弘、正力松太郎、田中角栄)の思惑とは―。戦後から続く忘れ去られた歴史を解き明かす一冊。

山岡淳一郎/著 朝日新聞出版/発行 四六判並製・264ページ・定価1,575円(税込) ISBN:978-4-022-50680-1
山岡淳一郎/著
朝日新聞出版/発行
四六判並製・264ページ・定価1,575円(税込)
ISBN:978-4-022-50680-1

『狙われるマンション』
儲かるから建て替えを誘導する。住民が無関心だから第三者が介入する。飢えた業界にとってマンションは標的であって、無防備な狙いどころ。だからこそ、大切なコミュニティー形成、住民自治を喚起する一冊。

(大規模修繕工事新聞 2011-10 No.22)


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