第2テーマ「大規模修繕工事のすべて」
<大規模修繕工事の進め方①~⑯>
⑧工事実施の決議
平成17年の区分所有法改正を受けて、第17条共用部分の変更(形状または効用の著しい変更を伴わない通常の大規模修繕工事)は規約で、普通決議(過半数)で可決できるようになりました。
しかし、潜在的に工事を反対する人がいます。そういう人は工事がはじまると非協力的な態度をとります。過半数を取ればいいというのではなく、限りなく多くのみなさんの合意を得ておいた方がよいと考えます。
工事の予備費の支出権限を理事会に与えておくように決議しておくと、工事がはじまってから機動的に対応ができます。
外壁補修等では足場を組まないと劣化状況がわからないところがあります。実費清算にするケースが多いですが、劣化個所
が予想以上に多かったなど想定しないことが起こる場合もあります。また、台風が来て工期が大幅に遅れてしまったという可能性もあります。
予備費は設計事務所の経験で工事金額の5~ 10%です。
この数字をあらかじめ理事会権限として決議しておくと、後に臨時総会を開いて再度決議する手間が省けます。
⑨工事の契約
分譲マンション大規模修繕工事専用の工事請負契約約款は、残念ながらありません。
現在は民間の連合協定(いわゆる旧四会連合)の工事請負契約約款の文言を一部改訂し、契約書、見積書、仕様書などを合わせて契約している例がほとんどです。
契約条件は見積もり依頼の前に十分協議して煮詰めておくことが大切です。主な契約条件は、支払い条件、性能保証、履行保証、工事保険など。
平成21年から本格施行された住宅瑕疵担保履行法に伴い、複数の保険会社で対応している「大規模修繕工事瑕疵保険」について情報を得ることも必要でしょう。
⑩着工前の工事説明会の開催
工事内容、工程、仮設物の設置、日常生活への影響、広報や連絡体制、安全防災計画などを施工する工事業者がわかりやすく説明する会を開催します。
⑪日常生活への影響を予想して対策を協議する
日照、通風、換気、臭気、騒音、震動、ごみやほこり、防犯対策についても事前にどのように日常生活に影響を与えるのかを予想して、対策を立てる必要があります。
工事説明会で住民から多い質問は以下の通りです。
a バルコニー関係…洗濯物の物干しの時間、エアコン室外機の扱い、鉢植えや物置の移動
b BSアンテナの扱い
c 駐車場関係…駐車車両の移動、ごみや塗料の飛散
d 階段や廊下の通行制限
e 設備工事の場合の断水や停電
⑫近隣への着工前挨拶
敷地が接している近隣住戸、自治会や町内会会長宅、特に協力をお願いするところに対して、発注者である管理組合と施工者が同行してあいさつに行くことが望ましいと思われます。
⑬工事中の定例打ち合わせ
管理組合、施工業者、設計監理者が工事中に工事の進行状況等を確認するため、三者で定例打ち合わせを行います。
開催スパンは2週間に1度程度が多いです。主に住民からの苦情や質問への対処、追加工事や工事内容の変更等について検討します。
⑭竣工引き渡し
工事が終わる際に竣工検査を管理組合、施工業者、設計監理者の三者で行います。
検査後は施工業者から工事の書類の引き渡しがあります。
この書類は次回の工事のために非常に重要です。どの部分を、どういう材料を使って、どういう施工を行ったのかという情報がわかるからです。
⑮定期検査
アフターサービスとして、竣工後1、2年目などにきちんと検査をしてもらいましょう。そして、性能保証期間中は不具合をきちんと手直しすることも大切です。
⑯関係書類の保存と引き継ぎ
⑭で施工業者から引き渡しを受けた工事の関係書類。具体的には、工事完了届け、性能保証書、材料出荷証明書、実施工程表、下地補修施工図、工事記録写真、使用材料リストなど。専用の保管場所(集会所や管理室など)を設定して、キャビネット等に整理して保管しておくとよいでしょう。
(大規模修繕工事新聞 2011-10 No.22)