一般社団法人全国建物調査診断センターが10月26日に配信開始した第77回管理組合オンライン・セミナーの要約を採録します。今回は山村行弘弁護士が講師を務めた第1部「区分所有法改正のポイントと実務対応策」を採録します。
視聴動画は下記URLよりVimeoとYouTubeで公開しています。
//zenken-center.com/77sem1026/
■2025年改正の主要ポイント
令和7年5月23日、老朽化マンションなどの管理および再生の円滑化などを図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律が成立しました。
この法律は、マンションをはじめとする区分所有建物が高経年化し、居住者も高齢化する2つの老いが進行しているという社会経済情勢などを考慮して、マンションの新築から再生までのライフサイクル全体を見通してその管理および再生を円滑化するため、区分所有法制の見直しを行うことなどを内容とするものです。
この法律は、いわゆる区分所有法をはじめ、被災マンション法、マンション管理適正化法、マンション建て替え円滑化法などを一括して改正するものとなっていますが、このうち、区分所有法および被災マンション法の改正に関する部分については、来年、令和8年の4月1日から施行されます。
管理の円滑化と再生の円滑化を2本柱に改正が行われましたが、管理の円滑化としては、集会決議の円滑化、財産管理制度の創設、専有部分の管理の円滑化があげられます。
再生の円滑化としては、建て替え要件の緩和、共用部分の変更の緩和があげられます。
■集会決議の円滑化
従来、総会における決議は、区分所有法や規約に特別の定めがない場合、普通決議事項では区分所有者および議決権の各過半数で決することとされており、すべての区分所有者およびその議決権を母数とすることとされていました。
集会に参加しない方や、議決権をあらかじめ何も行使されないような方は決議においてカウントできず、実際は反対者と同じように扱われていて、そういった方がおられるとなかなか必要な決議を円滑に行うことができないという問題がありました。
このような不都合を踏まえ、改正法では、建替え決議など区分所有権の処分を伴うような決議を除いて、決議の要件を集会出席者の過半数に変更しました。
これは無関心な区分所有者を決議の母数から除外する仕組みですので、事前に議決権を書面で行使したり、委任状を出したり、代理人を立てて議決権行使するなどといった方は、決議の母数に含めることとされています。
次に、所在不明区分所有者についてこれは区分所有者を知ることができず、またはどこにおられるのかその所在を知ることができないような場合、そのような区分所有者は集会に出席して議決権を行使することは期待できないわけですが、このような区分所有者も従来、集会の決議においては反対者と同様に扱われてしまっていました。
そこでこのように区分所有者がわからない、またはその所在がわからないという場合は、当該区分所有者以外の区分所有者や管理者が裁判所に請求して裁判所が所在等不明区分所有者と認定した場合は全ての決議の母数から除外するという仕組みが設けられました。
この所在等不明区分所有者に認定されると、集会での議決権がないということになりますので、集会の招集通知すら送らなくてよいということになります。
改正前と改正後で比較しますと、例えば区分所有者数が100人で議決権も100個だったとします。
これまでは過半数の51の賛成がなければ可決できませんでした。
例えば出席者が30人、議決権公示者15人、委任状15人、無関心欠席者35人、所在不明者5人という内訳の場合、仮に出席者や議決権行使者、委任状提出者の合計60人のうち賛成が51に達していれば可決できるのですが、出席者や議決権行使者のうち15人が反対に回ると賛成は45人となり、可決することはできません。
しかし改正後は、無関心欠席者と所在不明者が母数に入らず、出席者と議決権行使者、委任状提出者の合計60人が母数となるので、31の賛成で可決されることとなります。
出席者や議決権行使者のうち15人が反対に回ったとしても可決することができることになります。
■専有部分の管理・保存の円滑化
共用部分と専有部分の一括更新という点について、典型例でいうと、その建物全体を通っている配管を全面的に一括して更新するという場合があげられます。
法律上は建物全体を通っている給排水管について、共用部分を通っている部分については共用部分に属し、専有部分を通っている部分については専有部分に属すると考えられています。
このことから配管を全部更新するためには共用部分について、普通決議あるいは変更行為として特別決議を経て、それに加えて専有部分については、その区分所有者個々の同意が必要ということになるわけです。
しかし、専有部分についても一括して更新することが経済的にも工事の負担の手間的にもメリットが大きいということから、規約に特別の定めをすることによって、共用部分の変更と同時にする専有部分の保存改良行為については、集会の決議の多数決で行うことができるという制度が設けられました。
次に、専有部分の保存請求ですが、現行法において、他の区分所有者はその専有部分または共用部分を保存し、または改良するために必要な範囲内において、事故以外の区分所有者の専有部分の使用を請求することができるとされています。
例えば、上の階から水漏れがしてきたような場合に、上の階の住戸に立ち入ってその床を這いでみないと原因がわからない修理ができないというような時に、上の階の住戸に立ち入りの承諾を請求する権利です。
しかし、同請求権はあくまでも専有部分の使用を認める旨の規定であることから、専有部分にある給配水管の補修といった保存行為を行うことができるかは必ずしも明らかではありませんでした。
そこで、改正法では、専有部分の使用だけでなく保存を請求することができることとなりました。
■財産管理制度の創設
所有者が不明な専有部分や管理が不適当な専有部分、共用部分に対して利害関係者が裁判所に申し立てると裁判所が管理者を専任し管理を命ずる制度が創設されました。
所有者不明専有部分とは、相続放棄や住所変更見届などで区分所有者が所在不明で適切な管理がなされず、建物の管理に支障が生じているような場合です。
管理不全専有部分としては、例えばゴミ屋敷のような状態になっている部屋や専有部分の配管が腐食したまま放置されているような場合で、それによって他人の権利や法律上保護される利益が侵害されている、またはその恐れがある場合を言います。
管理不全共用部分としては、共用部分である外壁が剥落する恐れがある場合や、共用部分である廊下やテラスに危険物や悪臭を放すゴミが放置されているような場合で、それによって他人の権利や法律上保護される利益が侵害されている、またはその恐れがある場合を言います。
このような状況が生じている場合、管理組合や区分所有者、地方公共団体などの利害関係人は裁判所に管理人の選任を申し立て、裁判所が選任した管理人が適切な管理を行っていくこととなります。
管理人は弁護士や司法書士、マンション管理士などの専門家が選ばれ、修繕などの管理行為のみならず、裁判所の許可を得た上で、売却などの処分行為も行うことができます。
■国内管理人制度
近年の国際化の進展により、区分所有者がその建物に居住しておらず海外に住んでいるというようなケースも増加しているほか、外国人が投資目的で国内不動産を所有するケースも増えています。
そのため、管理組合側で必要な連絡を取ろうとしても、区分所有者の連絡先が不明であったり、通知が届かないケースが増大し、管理に支障が生じ対策が必要となりました。
そこで、改正法では、区分所有者が国内に住所または居所を有しないときは、国内に住所などを有する管理人を選任することができることとしました。
これを「国内管理人制度」と言います。なお、国内管理人の設置は法律上の義務ではありませんが、規約において義務付けることは可能とされています。
■建替え等の合意形成要件緩和
これまでマンションの建て替え決議については多数決要件が区分所有者および議決権の各5分の4以上とされていました。
そのため、改正の経緯で述べた2つの多いという状況に照らすと、要件が厳格であることにより、必要な建て替えを迅速に行うことができないなどといった不都合がありました。
そこで、改正法では、原則的な多数決割合は現行規定の5分の4を維持しつつ、一定の客観的自由がある場合には多数決割合を4分の3に引き下げています。
ここで言う一定の客観的自由とは、耐震性の不足、火災に関する安全性の不足、外壁などの剥落により周辺に危害が生じる恐れ、給排水管などの腐食などにより著しく衛生上有害となる恐れ、バリアフリー基準への不適合などを言い、基準の詳細は法施行までに法務省令で規定することとされています。
またこの決議においては裁判所が認定した所在不明。区分所有者を決議の母数から除外することができます。
このことで、これまでは反対票として扱われていた所在不明者について母数から除外できるので、必要賛成数を減らすことができるようになりました。
■共用部分の変更決議要件の緩和
共用部分の変更決議については、現行制度では所有者および議決権の4分の3以上の賛成が必要ですがこの、要件を満たすことは容易でなく、必要な工事などが迅速に行えない場合があります。
そこで、特定の事由がある場合における共用部分の変更については、3分の2以上の賛成に緩和されることになりました。
特定事由とは、バリアフリー化を進める場合や、耐震性、防犯性を向上する場合、建物の設計や施工上の欠陥箇所の構造の変更を行う場合があげられます。
なお、先ほどご説明しました所在不明区分所有者については、建て替えなどの時と同様に、裁判所の認定により決議の母数から除外することができます。
■実務への影響とまとめ
実務の影響としては、まず既存の管理組合が改正法と齟齬がある場合は管理規約を見直して必要に応じて改正作業をなされることをお勧めします。
また集会の運営方法につきましても、来年の4月からは出席者を母数とする多数決に変わっていきますし、所在不明区分所有者の認定などもありますので、賛成票がいくつあれば可決されるのかなどといった点を総会の度にしっかり確認していくことが大事だと思います。
次に、議題提案のタイミングですが、これは来年の4月1日の前後で従来だったら否決される議題が出席者の過半数で可決されたりするので、どういうタイミングで議案を提案するのかということも考えていく必要があると思います。
管理組合向けの対応としては、理事の皆様からあるいは我々のような専門家を呼んで、管理組合の皆さんに改正法の説明会を開催することをお勧めします。
また先に述べましたが、管理規約も必要に応じて改正を行う準備が必要になるものと思います。
特に法律の強行規定は管理規約に優先し、改正法と齟齬のある管理規約は無効となる場合もありますので注意が必要です。
所在不明区分所有者についても、これを裁判所に認めてもらうためには、様々な準備が必要になりますので、それを進めておくことに越したことはないと思います。
また、今後の改正に関する動向は、国土交通省や法務省のホームページ、マンション管理センターや自治体の窓口などでも伺うことができますので、新たな情報をキャッチアップできるようにしておくとよいでしょう。
大規模修繕工事新聞 2025-12月 192号












