【事件の概要】
住宅部会と店舗・施設部会が対立している昭和62年建設の再開発型マンションで、理事の選任をめぐる住宅部会の会合に参加したメンバーの確認を目的に、管理組合事務所の監視カメラの映像を住宅部会の区分所有者の同意なく閲覧したとして、事務局職員2人を相手に住宅部会の委員5人が肖像権等侵害の不法行為による損害賠償を求めた事例です。
全体共用部分は管理組合による管理運営がなされていますが、別に施設共用部分等は施設部会が、住宅共用部分等は住宅部会が管理に関する業務を行っています。被告の事務局職員は当時、施設部会に雇用されていました。
マンションには48カ所に監視カメラが設置されており、中央監視室モニターで、施設部会および住宅部会とそれぞれに契約している警備会社が監視しています。
被告は警備会社社員に対し、住宅部会の会合の時の映像を住宅部会の区分所有者に無断で閲覧させるよう要請し、閲覧したとして、住宅部会の委員5人から不法行為として損害賠償を求められました。
【映像の閲覧権限】
マンションには監視カメラに関する規定・細則はありません。
数年前に警備員が区分所有者から頼まれて映像をプリントアウトしたものを交付する事件があり、それ以降「防犯VTR閲覧申請書」に記入し、理事長の承認を得て、閲覧する運用になっていました。
【大阪地裁の判断】
争点1被告の閲覧権限
①監視カメラの映像は区分所有者の肖像権やプライバシー権等の人格権ないし、人格的利益に直接関わるものであることから、管理組合に雇用されている事務局の職員にすぎない被告が区分所有者の承諾なくして自由に監視カメラの映像を閲覧する権限はない。
②日々の管理業務を行っていたとしても、事務的な補助業務にすぎず、法律上、管理を行う権限があったとはいえない。まして、映像は区分所有者の肖像権やプライバシー権に関わるものであり、監視カメラの運営管理について被告に権限があるとはいえない。
③これまで不審者や不法投棄者を発見した場合、映像を閲覧し対応してきており、原告ら理事から異議がなかったという被告の主張について、不審者や不法投棄者でなく区分所有者と認識して閲覧していることから不審者とは事案が異なる。
争点2違法性
④理事長名を利用した管理規約違反の文書を出したものが誰であるのか事実関係を確認するための正当行為であるという被告の主張について、本件は内部対立を発端とすることであり、職員が「犯人探し」をするべきではなく、防犯行為も認められないことから違法性は阻却されない。
⑤第三者に公表したわけではないとする主張について、肖像権には自己の肖像をみだりに閲覧されないという人格的利益も存在する。
⑥マンション住民は日々監視カメラに撮影される状況にあり、原告は自己の肖像が映っている映像を閲覧されたことに恐怖感を覚え、その後も不安感が継続しており、原告の精神的損害は軽微なものといえないから、損害賠償を発生させるような違法性がなかったとはいえない。
結論
以上のことから、本件映像を閲覧した行為は不法行為を構成し、被告両名が支払うべき損害賠償額は、原告1人につき5万円、弁護士費用1万円とするのが相当である。
【コメント】
被告は、施設部会に雇用された事務局職員ということですが、令和5年9月に公表されたマンション標準管理委託契約書では、個人情報の取り扱いがさらに厳しくなっています。
以前から「守秘義務」として、管理事務に関して知り得た管理組合および組合員等の秘密を漏らすことを禁じる規定は存在していましたが、見出しが「秘密保持義務」と改められ、目的以外を禁ずる旨が新たに定められました。
事案のマンションは、住宅部会と店舗・施設部会が対立による、特殊な例かもしれませんが、一般のマンションでも、監視カメラの映像はだれが、いつ、どのような理由で閲覧することができるのか、細則等で運用規定を作成しておくことが望ましいといえます。
大規模修繕工事新聞 2026-1月 193号





