全国建物調査診断センターは9月22日、東京・秋葉原の田島ルーフィング㈱東京支店会議室で第42回管理組合セミナーを開きました。その中から全国建物調査診断センター・佐藤成幸理事が講演した「大規模修繕の周期は12年から18年へ」の2回目を紙上採録します。
「大規模修繕の周期は12年から18年へ」その2
講師:全国建物調査診断センター・佐藤成幸理事(マンション管理士)
■ 「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル」に定義されているマンションと最近のマンションの違いについて
国土交通省の『改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル』は平成16年に発表(平成22年改訂)されました。計画修繕をきちんと行うことでマンションの長寿命化を目指すための目安・ひな型として作成されたものです。
ここで計画修繕と改修の重要性の説明から「大規模修繕工事12年周期という概念」がひとり歩きしたと言えます。
とはいえ、初めての発表から15年が過ぎ、最近のマンションでは建材や金物、管材などの設備関係において、高性能のものが採用され、全体的に長寿命化が図れるよう、建物が造られています。
①外壁
マンション外壁の変遷をみると、主要な部分は塗装からタイルへ、パネルの外壁へと、より高耐久性の仕様となっています。
タイルやパネルは割れる、剥がれるといった劣化はあるものの、建物を紫外線から守ることで躯体自体の劣化や変色を軽減させています。
②手摺
手摺の変遷は、スチール製(鉄製)からアルミ、パネルへと、サビない、設置根元のコンクリートが割れにくい仕様になっています。
手摺は根元から直にコンクリートにはめ込んで設置されています。鉄製は外気の気温差などで膨張・収縮を繰り返すため、コンクリートを破壊するデメリットがありました。
③シーリング
シーリングはノンブリードタイプが使用されるようになり、可塑剤による汚れが付着しにくくなっています。
④床材
バルコニー床、開放廊下床がコンクリート・モルタル仕上げ、よくても塗装仕上げだったものから塩ビシート貼りへなど、防水機能が向上しています。
⑤超高層タワーマンションの普及
近年、高層マンションには免震構造、高強度コンクリートが採用され、タイルも現場での貼り作業から工場で製造して現場で組み立てる型枠打ち込みにより、精度が向上しています。免震構造は地震対策だけでなく、外壁面のひび割れが起きにくいという効果もあります。
⑥長期修繕計画
長期修繕計画の普及と定期的なメンテナンス、手入れをすることへの関心と習慣化により、より大がかりな修繕工事を必要とするダメージを防いでいます。
■18年周期にした場合の懸念事項
①生活上の不具合対策
事実上の改善・改修工事を実施するタイミングが長くなるため、生活に密着した不具合の改善が遅くなる可能性が出てきます。
エントランス入口の段差を解消してほしい、集会所のドアの開閉が重いなど、大規模修繕工事と同時に実施したほうがよい場合があり、住民の要望が聞き入れられるのが遅くなる懸念があります。
②法的調査と大規模修繕工事のタイミング
建築基準法上の3年ごとの建築物定期調査(自治体によりマンションが対象かどうか異なるので注意)と、大規模修繕工事の実施のタイミングがずれる期間が長くなります。
建築物定期調査は建物の全面打診調査の項目があるので、大規模修繕工事と一緒にやるほうが得策であるなど、実施時期が計画とずれることがあります。
③事故リスク
事例としてはごく少ないですが、劣化進行による事故リスクが高まります。
机上の計画だけで12年から18年に延ばすのではなく、定期的なメンテナンスや調査診断を行った上で、大規模修繕工事の実施時期を決める必要があります。
④管理組合役員の精神的負担
「何かあったら大変だ」という管理者である理事長、管理組合役員の精神的な負担が払しょくできないケースがあります。
■懸念事項の解決方法
懸念事項を少しでも解決する方法を採用することで、よりメリットを享受できるようにすることが重要です。
①高耐久性の材料を採用
塗装材料や防水材料に高耐久性のものを採用します。そのひとつにアクリル系、ウレタン系、シリコン系、フッ素系等の有機系材料から無機系材料への見直しが考えられます
無機物は高価ですが、紫外線に強く、耐候性が高いなどの特徴があります。
②下地補修の精度の向上
下地補修工事の精度の向上では、マーキング段階からの全数検査において、不良個所のプロット図(総合図)を作成するようにします。
つまり早期の段階から図面作成と写真で記録してそれから施工するという手順です。不良個所を適当な施工で隠してしまうという手抜き工事がなくなります。
③タイル工事の精度の向上
タイル貼り替え工事の精度の向上では、タイルの剥離・浮きの原因追究が大切です。モルタル貼りだけでなく接着剤貼り工法等の検討により精度向上につがなることになります。
これまでのモルタル貼りに比べ、接着剤貼り工法は接着剤層で下地の動きや温度変化による影響が少ないためタイルの剥離が発生しにくい、接着剤層に弾性があるため、タイルにひび割れが発生しにくいなどの特徴があります。
④材料の保証について
保証至上主義に陥らない冷静な判断も必要です。特に防水材料で20年保証などとアピールする業者もいますが、よくよく調べると外国製の輸入品であり、外国での実績があっても日本で20年以上の実証実績があるわけでもないものも多数あります。
材料の保証より、施工精度のほうが重要であり、20年に踊らされない冷静な判断が大事と言えます。
保証は万が一欠陥があったときのためで、施工精度の追求よりも材料の保証ありきという考え方はおかしいと言えます。
⑤発想の転換
大規模修繕工事まで何もしない発想の転換も必要です。
例えば12年を超えたら2、3年に1回程度は建物調査をして不具合個所の経過観察、保証期間が経過した部位の屋上防水等の重要個所の年次点検を行うなどして、劣化の進捗を常に把握しておきましょう。
工事を「やる」「やるまで何もしない」という考え方では、大規模修繕工事の実施周期を延期しても、単に修繕項目が増えるだけになるとも限りません。
現在の正確な建物状況を把握できるようにしておくことで、根拠のない不安を払しょくすることができます。
⑥部分補修も重要
不具合個所があればピンポイントでも部分補修する、手入れする感覚を持つことが重要です。
(大規模修繕工事新聞120号)