まだコロナウイルスが流行する前の話です。ある住民からマンション内部にはびこる“しきたり”への強い不満の話を聞きました。
数年前の理事会で、30世帯の小さなマンションなので、総会後にバーベキューでもして懇親会をしては?という話になり、前向きに検討をはじめたといいます。これまでマンション管理に無関心な住民も多く、輪番制もひと回りしたところで、「もう少し住民同士の理解をし合えたら」という程度の気持ちでした。
バーベキュー用の道具も持ちよりも含め、なんとか実行できそうだとめどがつき、区分所有者に周知したその後、ひとりの理事から反対意見が出たのです。
理由は?これまで実績がない、管理組合の財政からは費用は出せない、参加しない人に対する不公平感などなど…。参加費用については、人数は問わず1世帯ずつ少額を徴収し、足りない分を一般会計から支出するとしていました。
しかし、なぜひとりの理事が言い出したのか。よくよく確かめていくと、自分の意見ではなく、どうやらお伺いを立てる外部に住む区分所有者がいるということがわかってきました。その得体のしれない区分所有者は時折、修繕委員となって修繕工事に関わってきたこともわかりました。節々の理事も、その人にお伺いを立てるようになり、よくわからない“しきたり”が横行、その“しきたり”によってマンション管理が行われてきたというのです。
総会後のバーベキューは結果、その年だけは理事ががんばって実施したのですが、翌年からは話にも上がらなくなってしまいました。
その後、マンション内のプレイロットの遊具が古くなったので改善する案も上がりましたが、“しきたり”を通り、「子どもはすぐに大きくなるから必要じゃない」という理由で、却下されたそうです。ママたちの交流の場、住民間のコミュニケーションにつながる場は眼中にはないということのようです。
一部住民の間では強い反発感が生まれましたが、マンション内での対立は避けられ、感情だけが残ったまま、コロナによる活動自粛も相まって、マンション内のコミュニティは分断されました。
しかし、このままでは、住みにくいマンションの体制がつづき、終の棲家にしたいとは考えられなくなってしまいます。
上手に合意形成ができているマンションというのは、やはりコミュニケーション能力が高いことが条件です。話し合いができない、コミュニティ活動が行われていないマンションは、管理組合運営に大きな影響を及ぼします。
住民同士で声をかけ合い、少しずつでも話し合いの場を持つようになることが望ましいでしょう。
マンション総合コンサルティング㈱代表取締役の廣田信子さんは、下記のような一定のルールのもとに、“ワークショップ”のような場(お茶会のようなものでも十分)をつくることを提案しています。
①みんなが平等に話すようにする
②人が話しているときは集中して聞く
③人の批判や悪口、噂話はしない
④他の人の発言を決して否定しない
⑤他の人の発言から考えるようにする
みんなが自由に意見を言えて、それを聞き合うコミュニティをつくること―それが「終の棲家」として安心して住めるマンションとなる「コツ」といえるでしょう。
(大規模修繕工事新聞 139号)