2022年のマンション管理適正化法改正により、管理計画認定制度ができますが、この認定基準に「長期修繕計画標準様式」に準拠した長期修繕計画が必要であるという内容が含まれています。「マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」の中に長期修繕計画の作成・見直しに当たっては「長期修繕計画作成ガイドライン」を参考に適切なものとするよう配慮する必要があるといった記載があります。
そこで、国土交通省では「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び 「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しを行いました。
ここでは、10月16日にオンラインで開催された日本マンション学会2021年度秋の大会から、明海大学不動産学部・藤木亮介准教授が「長期修繕計画作成ガイドライン」の改訂について講演した内容を紙上採録します。
大規模修繕工事新聞 143号
■経年マンションを見据えた長期修繕計画
今回の改訂の印象としまして、私見ですが、経年マンション、特に高経年マンションを意識した改訂になっているという印象を受けています。
「長期修繕計画標準様式」「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」を策定した13年前(2008年)と比べて、高経年マンションのストックは格段に増えています。そうすると、例
えば給排水設備改修工事や窓交換工事など、大規模修繕工事以外の高額工事も増えることになります。
こうしたかなりおカネがかかる工事によって、修繕積立金不足を引き起こす、あるいは修繕積立金が足らないから必要な工事ができない、そういう管理組合も一定数あると推測します。
今回の改訂では、これらの時代背景に即した改訂が行われたという印象です。経年(高経年)マンションを対象とした改訂項目が多く含まれていました。では新築、あるいは築浅のマン
ションは関係ないのでしょうか。実は高経年化してから対策を行うのでは全然遅いのです。
築浅のマンションは高経年化したときを見据えて、今から対策を打つ必要があるので、当然他人事ではなく、「明日は我が身」として今回の改訂部分を見ていかなければならないといえるでしょう。
○省エネ性能の改善に関する記載
<コメント>
特に、築古のマンションは省エネ性能が低い水準にとどまっているものが多く存在していることから、大規模修繕工事の機会をとらえて、マンションの省エネ性能を向上させる改修工事(壁や屋上の外断熱改修工事や窓の断熱改修工事等)を実施することは脱炭素社会の実現のみならず、各区分所有者の光熱費負担を低下させる観点からも有意義と考えられます。
省エネ性能の記載が追加されました。なぜかというと築古の省エネ性能の低い建物がマンションを中心に増えてきてしまったことが要因です。
省エネ性能の向上は現状維持の修繕ではなく改良なので、これまでにない費用がかかることが想定されます。今までの大規模修繕工事の倍できかないような金額になってしまう。だからこそ長期修繕計画にこれを盛り込むことによって、将来、今建っているマンションと同等、あるいはこれから建つマンションと同等の性能を維持できるということに言及しています。
今後は、脱炭素社会の実現・各戸の光熱費の提言を踏まえ、築古のマンションこそ、長期修繕計画にこれらの省エネ改善を盛り込むことがますます重要になっていきます。
○専有部分の給排水管の取替えに関する記載
<コメント>
共用部分の給排水管の取替えと専有部分の給排水管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の給排水管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられます。その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の給排水管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて管理規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等についても十分留意することが必要です。
長期修繕計画というのは、共用部分の計画修繕工事について計画するものです。ところが、今回、専有部分である住戸内の給排水管の更新について言及されています。
専有部分の給排水管の工事を共用部分と一体的に行う場合は、①長期修繕計画に盛り込み、②修繕積立金からその費用を支出することについて管理規約に明示し、③先行して工事を
行ったものへの補償の有無に留意するといった内容が示されました。
なお、長期修繕計画に盛り込む場合でも、「その範囲は共用部分と構造上一体となった部分及び共用部分の管理上影響を及ぼす部分(いわゆる横引き配管など)に留め、これに連結された室内設備類は区分所有者の負担とすることが相当」としています。
○法定点検の結果に対する処置費用に関する記載
<コメント>
法定点検の結果、要是正の判定となった場合に必要となる修理や部品の交換等を速やかに行うことが重要であるため、これらの対応については、原則として長期修繕計画の推定修繕工事の対象外とすることが望ましいと考えられます。
マンションを良好に保つためには日常的または定期的な点検をすることが必要です。しかし、定期点検は前提条件であって、計画修繕として長期修繕計画に盛り込むものではありません。
このため、定期点検の結果必要となった部品の交換や修理は、「原則として長期修繕計画の推定修繕工事の対象外とすることが望ましい」と明示されています。
ただし、例えば消防点検の対象となる「連結送水管」など、定期的な法定点検で漏水が発見され、全面更新しなければならないことが多々あります。
このとき、法定点検で見つかったからといって連結送水管の全面更新は対象外でいいのでしょうか?
法定点検で見つかり、結局、全面更新しなければいけなくなるものは計画修繕として見込んでおく必要があるといえます。工事の時期を法定点検によって見定めていくと解釈したほうが正しいでしょう。
長期修繕計画作成ガイドラインで対象外としているのは部品交換や修理であって、こういった設備の全面更新は、当然、推定修繕工事として見込んでおく必要があります。
○「5年程度の見直し」の強調
三 長期修繕計画の精度
一定期間(5年程度)ごとに見直していくことを前提としています。
一定期間ごとに見直すという文言が、ガイドライン・コメントの各所で出てきますけれども、今回の改訂では一定期間の後に全部「5年程度ごと」とわざわざ書き込まれています。それくらい「5年程度ごと」の見直しを強調しているという、国土交通省の強い意思がうかがわれました。
マンション管理適正化法の管理計画認定制度では長期修繕計画の作成・見直しを「7年以内」としています。見直しは原則「5年程度ごと」、長くても「7年以内」というふうに見ていくべきとみております。
○耐震改修工事計画に関する記載
<コメント>
特に、耐震性が不足するマンションは、区分所有者のみならず周辺住民等の生命・身体が脅かされる危険性があることから、昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付(いわゆる旧耐震基準)されたマンションにおいては、耐震診断を行うとともに、その結果により耐震改修の実施について検討を行うことが必要です。なお、耐震改修工事の費用が負担できないなどの理由によりすぐに実施することが困難なときは、補助及び融資の活用を検討したり、推定修繕工事項目として設定した上で段階的に改修を進めたりすることも考えられます。
「5マンションのビジョンの検討」として、耐震性、断熱性などの性能向上を図る改修工事の実施についての検討のことが記載されています。
その中で耐震は非常に大きな話なので細かく書いてあるのですが、耐震改修工事はちょっとやそっとでできるものではありません。いろいろハードルがあります。
ガイドラインの改訂では、補助や融資を活用すること、段階的に改修を進めることが言及されています。
「段階的に」ということが重要です。一気に何億円もかけてできないのであれば、1億円ずつ3回に分けてやりましょう。
そういうことも視野に入れて、安全性を保たなければならない。
とはいっても、耐震改修はなかなか進まないのが実態です。耐震診断さえ実施できていないマンションがいまだにたくさんあるためです。診断を行わなければ、耐震改修費用はわかりません。このため、長期修繕計画に入れようがないのです。
したがって、耐震診断が実施できていないマンションでは、まず耐震診断を長期修繕計画に盛り込み、直近のうちに診断を行うことが重要な最初の一歩になると考えます。
○ガイドラインの計画期間に関する記載
5 計画期間の設定
計画期間は、30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とします。
<コメント>
外壁の塗装や屋上防水などを行う大規模修繕工事の周期は部材や工事の仕様等により異なりますが、一般的に12 ~ 15年程度ですので、見直し時には、これが2回含まれる期間以上とします。
この背景には、大規模修繕工事の長周期化があります。今まで12年程度と言われていたものが、ここのところ一般的には12年~ 15年という記載に変更されています。
もっと言えば、16年でやっている管理組合も結構あります。この背景から30年以上、大規模修繕工事が2回以上となっています。
○事前調査の重要性に関する記載
<コメント>
部材や工事仕様、設備や工法等の技術革新によっても適切な修繕周期が変わる可能性がある点にも留意する必要があります。
設備及び建物の劣化状況に関する調査・診断の結果を踏まえた上で、修繕工事の必要性や実施時期、工事内容等を検討することが重要です。
世の中にはずさんな長期修繕計画はいまだに見られるんです。どうずさんかというと、修繕項目の周期を固定して、どのマンションにも当てはめていればいいとしている例です。決まった周期を適当に当てはめればいいという長期修繕計画が散見されます。
建築士などの技術者が劣化調査をし、そのマンションに適したオリジナルな計画をきちんと、このマンションはこの理由で12年周期、15年周期というふうに、作成者が決めなければいけないんだと思ってください。ここのところは重要な話です。
○長期修繕計画見直しにかかる時間の周知に関する記載
10 長期修繕計画の見直し
見直しには一定の期間(おおむね1~2年)を要することから、見直しについても計画的に行う必要があります。
オリジナルの長期修繕計画を作るためには当然、調査をしっかりやらなければいけないし、建築士がその技術力をもってしっかり吟味しなければならない。さらには管理組合とかなり打ち合わせをして、そのオリジナルの計画を作っていかなければならない。そうなると簡単ではありません。
ですから、最低でも数カ月間はかけて、長期修繕計画を作らなければならない。そこで修繕積立金の見直しがあれば、そこからまた調整をしなければいけない。そうすると1年を超える場合もある。したがって見直しも計画的に行う必要があります。
簡単にポンと出して、ポンと承認されて、はい終わりというものではありません。総会決議を要することもきちんと認識してもらいたいと思います。