一般社団法人全国建物調査診断センター(全建センター)が12月19日、You Tubeで公開した第55回管理組合セミナーの模様を紙上採録します。今回は全建センター・菅純一郎理事がコロナ禍であらわになった現実、問題点についてまとめました。なお、これまでのセミナーは、You Tubeにより動画配信を行っています。全建情報図書館でもセミナーの内容等を収録した書籍を発行しています。
新型コロナ・ウイルスによる影響がなかなか落ち着きません。みなさんのマンションでも管理組合活動にご苦労していることだと思います。この2年のウィズ・コロナの学習の中で、いろいろな形のマンション管理のあり方・考え方が作られてきたと思いますが、当セミナーもその一端になればと考えています。
それでは、今、マンション管理組合が抱える問題と新型コロナ・ウイルスの影響によって変化しているマンション管理についてお話していきましょう。
管理会社契約拒否問題
11月に経済雑誌に掲載された記事が話題を呼んでいます。
目を引いたのは「管理会社と契約できなくなる」という内容でした。
コロナ前から大手管理会社をはじめ、管理委託業務の内容と契約金額が釣り合わなくて、契約の更新をしないという傾向が出はじめていました。2018年ころからみられるようになった問題ですが、コロナ禍が輪をかけたのではないかという現実があります。
原因として以下のような要素だと推察します。
①人件費高騰と人材不足
主に管理員、清掃員の人材不足が叫ばれて久しいのですが、元々身体的にも精神的にもたいへんな仕事の上、その割に人件費として安くなりがちで募集をかけてもなり手がなかなか集まりません。
といって、人件費を理由に委託費の値上げを要請しても管理組合側の財政問題もあり、承認を得られない事情もあります。
そうすると、管理会社は自らの水準の利益を削る、まして自を切ってまで業務に当たることはそもそも経済活動としておかしな話になってしまうので、契約どおりにやることができないのであれば契約の更新ができません、つまり「撤退」という判断となるわけです。
②事業構造的な問題
今までは基幹事務、その他の日常管理に加え、小修繕から大規模修繕まで工事の施工も含め、トータルな事業展開が期待できていたことから、管理会社にもメリットがありました。
しかし、インターネットの普及により、各工事はもちろん、例えばエアコンを変える、照明器具を変えるといった話の中で、相見積もりや価格交渉が厳しくなってしまったという側面があります。
今や物を買うという行為においては、インターネットが一番安く、便利になりました。給水用のポンプですらAmazonで調べられてしまうという現実があります。
そうするとやはり、工事そのものに事業性が期待できなくなってしまっています。
③居住者の過大な要求
場合によっては、居住者同士のトラブルにまで関与を求められることから、人的負担が過大になっており、離職原因にまでなることも多々あるようです。
居住者間のコミュニケーション不足の希薄さにより、ちょっとしたことがトラブルになりやすいという傾向があります。
コロナになってから、非常に多くなっているのは音のトラブルです。在宅勤務になっているので、ちょっとした音が気になりはじめるわけです。
ただ、マンションの構造を考えると、ある程度は許容しなければ仕方ないというものでもあるので、マンションにコミュニティがあれば収められるものが収められなくなっている問題があらわになっているといえます。
問題の本質的根幹
そもそも管理委託契約のベーシックなメニューは以下のようなものになります。
①基幹事務
管理組合の会計業務、出納業務、マンション維持・修繕の調整業務
②日常管理業務
理事会・総会開催支援、日常清掃、定期清掃、設備等点検、法定検査・点検等
③その他業務
修繕工事、植栽管理等
基本的に人件費がほとんどの業務です。いわゆるマンパワーで行う仕事で、何か副産物的な経費がかかることはあまりありません。
そして、これらの業務は管理組合役員でも対応することが可能な業務です。よほど専門的なものであれば別ですが、基本的な考え方としては、マンション管理は戸建てなら自分でやることの延長にあります。ただ建物の規模が大きいものであって、特におカネの管理などはみんなのおカネですから、それをいじりたくない(責任を持ちたくない)というのが普通でしょうから、管理会社に代行してもらうことが本来の形といえます。
つまり、管理組合側が自ら対応することが可能であるのに対し、それをしない、できないので、費用を支払って代行してもらっている。これが「管理委託」というものになります。
実際に自らこれらの業務を行っている形態が「自主管理」となるのです。昔からある形ですが、組合員の人たちがしっかりしていることが前提になります。おカネの管理も自分たちで行うので、かなり神経を使うものでありますが、自主管理を行っている管理組合は昔からあります。
管理会社の肩を持つわけではないんですけれども、自分たちで管理ができないので費用を支払って代行してもらっているにも関わらず、そもそも不足している業務費用の値上げを相談し、それを拒否されれば、やりたくてもできなくなることも理解できる話です。
たとえば、建物が汚いので、週3回だった清掃を毎日清掃しましょうという話になったとします。当然、増えた分の人件費はかかるわけですが、そこすら同じ金額で何とかならないのかと、管理会社は対応が悪いという話になると、契約の更新がとん挫することになるわけです。
解決のヒント
たくさんの管理組合のご相談をお聞きする中で、よく耳にするフレーズがあります。
「管理会社を変更するリプレイスを行ったが全然変わらないどころか、かえってサービスが落ちた」
管理組合からの相談では、管理会社の文句は確かに多いです。でも、こうした話を聞いたときに受けるのに多いのが、ちょっと観点がずれているという印象です。
管理会社へのクレームの問題は、これは頼む側の問題ともいえます。
管理会社を比較検討する際、現在の契約内容と契約金額の合計だけを提示して、「これでお宅はいくらになるの?」という話をしたがる傾向があります。そもそも自分のマンションがどういう形の管理をとっているかということをわかっている管理組合のほうが少ないんです。
管理会社の業務の何に対して、いくら払っているのかがわかっていないので、高いも安いもなかったりするんです。そうすると、契約内容と表面上の額面を一緒にして、安い管理会社を選ぶということになるので、典型的な「安かろう悪かろう」パターンにはまります。
やることが同じで、金額が安ければ、何かしら落としているところがあるものなんです。頼む側がどこまでをどう頼みたいのか、分解して決めた上で頼まないと、正しい値段かどうかがでるはずがありません。
頼みたいことを明確にして依頼しないと失敗することになります。
自分たちが求める管理
一般的に想定される管理委託契約の内容は、レストランでいうと「お任せメニュー」です。その状態で管理会社のサービスが良くない、費用が高いと言っているのは、レストランで「お任せメニュー」と頼んでおいて、「これは好きじゃない」「こんなの頼んだ覚えはない」「高い」と言っているのと同じなのです。
自分たちの求める管理内容については、もっと踏み込んで検討しましょう。
たとえば、日常清掃は週何回どこからどこまで行うのか、設備点検は年何回行うのか、理事会支援では議事録まで作成してもらうのか、業務報告だけでよいのかなど、です。
あくまでも例ではありますが、このように自分たちの必要としている管理内容を明確にすることで、管理会社への依頼内容も明確化され、サービスの良し悪しもわかりやすくなります。
また、管理会社も必要以上の費用計上を回避できることから、コストに対しての利益確保がしやすくなり、契約更新も進めやすくなるはずです。
大規模修繕工事新聞 145号