月刊「大規模修繕工事新聞」は、一般社団法人 全国建物調査診断センターが発行するマンションの適正な管理に役立つ管理組合向けのフリーペーパーです。コロナ過を契機に発行形態を紙媒体から全面的に電子版に移行いたしました。それにともない、これまで首都圏、関西圏のみの発行でしたが、ネット配信の強みを生かし、全国規模に拡大しました。当HPでは、「大規模修繕工事新聞」創刊から現在に至るまで、全ての記事をアーカイブ収録していますから、マンションの大規模修繕工事に関する情報やマンション管理組合に関する情報を右の<記事検索>にキーワードを入れるだけで表示させて、必要な記事を読むことができます。今後とも、マンション管理組合さまのお悩みに寄り添い適切な情報をお届けしてまいります。

大規模修繕工事の変遷/1980年代(黎明期)からトータル・マネジメント方式へ

 わが国におけるRC集合住宅の歴史は100年を超え、マンションの総ストック数は令和2年末現在、約675万戸となっています。この間、建築技術(工法・部材・部品・設備機器など)は蓄積・継承・発展され、マンションの良好な居住環境の確保、資産価値の維持・向上に寄与しています。
 このページでは、公益社団法人日本建築家協会(JIA)関東甲信越支部メンテナンス部会発行の『マンションの大規模修繕30年の軌跡』を参考に、1980年代(黎明期)からトータル・マネジメント方式に至るまでの大規模修繕工事の変遷をまとめてみました。

【1980年~85年】
 戦後から10年、1955年に旧日本住宅公団が設立しました。
1962年、区分所有法が制定され、第1次マンションブーム(1963年~64年)が到来します。次いで大衆向けに大量供給された第2次マンションブーム(1968年~69年)、1970年の住宅金融公庫の融資制度スタートとともに第3次マンションブーム(1972年~73年)が起こりました。
 このように高度成長期に大量に供給されたマンションが、1980年から経年により大規模修繕工事をやらざるを得なくなってきたのです。
 当時は改修や修繕工事という用語はなく、外壁塗装の塗り替えが主だったようです。このころの建物はモルタル塗りのものが多く、リシン仕上げが一般的で、この塗り替えが主な工事でした。外壁の塗装工事の実績もほとんどなかった中で、管理組合ごとに試行錯誤を繰り返しながらさまざまな方法で工事を行っていたのです。
 1983年より「分譲集合住宅管理組合連絡協議会(現NPO日住協)」では、一級建築士と協力体制を組みながら、壁の止水工事などの研究会、実践活動を行っていました。当時の公団分譲では雨漏りなどの欠陥問題が早い時期に起こり、どうやって改修するかが目の前の課題点でした。
 それから屋根防水改修工事の工法、仕様などを確立し、解説書を作成・発行することになります。さらにこうした実績は後のJIAの「集合住宅改修工事実践仕様書」につながっていきました。
 前ページの表1は、『マンションの大規模修繕30年の軌跡』に掲載された「大規模修繕工事の変遷」です。1980年から5年ごと5期に分けて大規模修繕工事についてまとめたもので、作者の田邉邦男氏は「1980年当時は、長期修繕計画のないものが多く、修繕積立金不足による一時金徴収があった。修繕積立金の問題はこのころからあった」と述べています。

【1986年~90年】
 1986年~88年、建設省官民連帯共同研究『外装材の補修・改修技術の開発』が発表されます。
 対象となる建物は1970年以降に供給されたのものです。建物の外壁は現場打ちコンクリート躯体の上にモルタル下地を設けて仕上げを施すものから、プレキャストコンクリート造やコンクリートの躯体に直に仕上げを施すものになっており、そうした外装材の補修、外壁改修でした。単なるお化粧直しから鉄筋コンクリートの構造躯体を改修するという考え方が普及しはじめた頃です。
 高圧水洗浄による事前処理が一般化し、塗り替え塗材は意匠性に加え、ひび割れ対策・中性化抑制・漏水防止といった機能性のある塗材が使用されるようになりました。
 また、バルコニーや共用廊下・階段にも防水施工がはじまったのもこのころとされています。
【1990年代】
 1990年代に入り、マンションにおける外壁改修の技術がほぼ確立し、長期修繕計画や修繕積立金制度の認識もだんだん浸透していきます。
 世の中の流れもスクラップアンドビルドからメンテナンス、リフォームといったストック重視への転換が指向されはじめました。
 そんな中、1995年に阪神・淡路大震災が発生しました。鉄筋コンクリートの建物がこういう状態で壊れるのかといった状況を目の当たりにし、建物の復旧についてマンション史におけるターニングポイントになりました。
【2000年代】
 ここで取り上げるのは大規模修繕工事の発注方式です。管理組合の多くは責任施工方式で管理会社に「お任せ」するケースが多く、一部、自主性のある管理組合に設計・監理方式が浸透しました。

<参考図書> 『マンションの大規模修繕30年の軌跡』 編著/ メンテナンス部会30周年記念実行委 員会 発行/ 公益社団法人日本建築家協会関東甲 信越支部メンテナンス部会

・責任施工方式
 管理業務を委託する管理会社または特定の施工会社に設計から施工、監理までを依頼する工事の発注方式。
・設計・監理方式
 工事をスムーズに進行させるための居住者視線に立った設計コンサルタントに工事計画の立案と設計、工事中の監理を依頼する方式。施工会社の選定、居住者と施工会社とのトラブルの解決、管理組合と施工会社と協議事項等への関与を設計コンサルタントが行う。


 ところが一般社団法人マンションリフォーム技術協会(marta)は2016年11月、会報誌にて「不適切コンサルタント問題への提言」を掲載しました。2017年10月にはNHKの番組『クローズアップ現代+』で、大規模修繕工事の裏側で設計コンサルタントが工事業者に巨額のバックマージンを要求しているといった内容が放映されました。
 このように設計・監理方式のあり方が問題となる中、全建センターは2019年7月、大規模修繕工事の新発注方式「トータル・マネジメント(TM)方式」について、商標登録(登録第6161132 号)を完了させました。トータル・マネジメント(TM)方式は、従来の「責任施工方式」を全建センターが管理組合と管理契約を結び、工事会社を公正に管理する、新たな「責任施工・管理運営方式」です。
 建築技術の進化により、大規模修繕工事の周期も長期化しています。管理組合としても、これまでの大規模修繕工事のやり方を踏襲するとともに、新しい着眼点で工事のあり方を選択・採用することが次世代に求められていくものといえるでしょう。

大規模修繕工事新聞 145号