「大規模修繕工事新聞」創刊から現在に至るまで、全ての記事をアーカイブ収録していますから、マンションの大規模修繕工事に関する情報やマンション管理組合に関する情報を上の<記事検索>にキーワードを入れるだけで表示させて、必要な記事を読むことができます。

改正マンション標準管理規約解説/マンション管理センター

 マンション管理センターに寄せられた令和2年度の相談件数は9,476件で、前年度比で109.6%でした。新型コロナウイルスの感染拡大における通常総会の開催などの相談が931件だったこともあり、平成23年度以降、もっとも多くの相談が寄せられました。
 中でも「WEB会議システム等を用いて総会や理事会を開催することはできるか」など、ITの活用に関する相談が数多くありました。WEB会議システム等を用いた総会、理事会の開催については、令和3年6月の標準管理規約改正により、必要な規定の整備が行われています。
 4月からマンション管理計画認定制度がスタートします。改めて、標準管理規約の改正部分を確認してみましょう。


単棟型、団地型、複合用途型
⑴ITを活用した総会・理事会
令和3年6月に改正された標準管理規約の47条(総会の会議及び議事)と53条(理事会の会議及び議事)に、「WEB会議システム等を用いて開催する会議を含む」という文言が追加されています。
ただし、国土交通省の発表では「この ITを活用した総会・理事会については、それを可能とすることを明確化する観点から標準管理規約の改正を行っているものであるため、この改正に伴って各管理組合の管理規約を変更しなくとも、ITを活用した総会・理事会の開催は可能」との見解が示されています。そのため、管理規約を変更しなくてもITを活用した総会・理事会を開催することは可能ということになります。
とはいえ無条件で開催できるというわけではなく、2条11号のWEB会議システムの定義「電気通信回線を介して、即時性及び双方向性を備えた映像及び音声の通信を行うことができる会議システム等をいう」をクリアする必要があります。
「総会・理事会の様子をパソコンなどで見ることができる」というだけでは、総会や理事会に出席していると言えないので、注意が必要です。
理事長は毎年1回、事務に関する報告をしなければなりませんが、理事長による事務報告は「ITを活用した総会」等でも可能であると第38条関係コメント②に記載されました。
ただし、ITを活用して実施する場合にはWEB会議システム等を用いない場合と同様、各組合員からの質疑等への応答について、適切に対応する必要があると併せてコメントされています。
ITを活用した総会・理事会の開催は管理規約を変更しなくても可能であるとの見解が示されましたが、管理規約に明確化しておかないで、組合員の理解を得られるのか、また将来トラブルにならないのかといったことは考える必要があるのではないかと思います。


・ 管理組合においては、WEB 会議システム等を用いて総会や理事会を開催できることを明確化しておくことは円滑な管理組合運営に欠かせないことから、管理規約にその旨を定めておくことが望ましい。
・ 総会等の会議の運営ルール(本人確認や議決権行使の方法、通信障害時の対応など)について検討し、細則等の規定により明確にしておくことが望ましい。


管理組合運営において、ITの活用はさらに進むと思われますが、例えばパソコンを持っていない、うまく活用できないといった組合員もいます。また、どうしても総会に出席して、発言したいといった希望を持つ組合員もいます。
このような組合員がいる場合には、管理組合としては組合員の権利を奪うことはできないので、WEB会議システムによる総会とは別に総会会場を設定して、会場への出席も選択できるような方法の併用も検討しなければならないといった注意が必要です。


⑵ マンション内における感染症の感染拡大のおそれが高い場合等の対応
18条関係コメントに「マンション内における感染症の感染拡大のおそれが高いと認められた場合において、使用細則を根拠として、居住者による共用部分等の使用を一時的に停止・制限することは可能である」といった考えが示され、共用施設の使用停止を使用細則で定めることが可能になりました。
コロナウイルスまたは今後新たな感染症などを想定し、あらかじめ共用施設の使用に関して、管理組合としてどのような対応をとるのか、使用細則に定めておくことを検討しておくことも必要です。
通常総会の開催も、感染拡大の防止等への対応として、やむを得ない場合においては総会の延期が可能であるという考えが、42条第3項関係コメントに明記されました。
標準管理規約では、通常総会は「新会計年度開始以後2カ月以内」に開催することになっていますが、災害や感染症拡大などの事情が生じた場合には、期限までの総会の開催が困難となることもあるので、必ずしも「新会計年度開始以後2カ月以内」に通常総会を開催する必要はなく、これらの状況が解消されたのち、遅滞なく招集すれば足りるとされました。
したがって、災害等の発生時には理事会において、WEB会議システム等利用の可能性について考慮しつつ、最終的には総会の延期も視野に入れて対応の検討をしてください。


⑶置き配使用細則
本来、共用廊下は共用部分であり、マンション内の通路で、他の住民も利用しているため、組合員がそれぞれ勝手な使い方をすることはできません。消防法の関連からも共用廊下に私物を放置することは禁止しているのが通例です。
標準管理規約の改正では、「専用使用部分でない共用部分に物品を置くことは原則として認められない」としつつ、「宅配ボックスがない場合など、例外的に共用部分への置き配を認める」とし、その場合には「長期間の放置や大量・乱雑な放置等により避難の支障とならないよう留意する必要がある」とコメントしています。
したがって、管理組合として置き配を認める場合には、使用細則で置き配を認めること、およびその際のルールを定めておくことが必要になります。
置き配を認める場合、事前に管理組合内で検討が必要と思われる事項(参考例)
・ 避難通路確保の観点から、荷物の長時間放置や大量・乱雑な放置を禁止する
・管理組合は荷物の紛失や破損、汚損等の責任を負わない
・ 置き配の荷物の破損や汚損等に起因する共用部分の棄損等は利用者の責任と負担により復旧する
・ 置き配の利用に起因する隣接住戸等とのトラブルは置き配利用者の責任で対応する
・ その他置き配の利用に伴うトラブル等は利用者の責任で対応する


 なお、共用部分の配管の取替えと専有部分の配管の取替えを同時に行うことにより、専有部分の配管の取替えを単独で行うよりも費用が軽減される場合には、これらについて一体的に工事を行うことも考えられる。
 その場合には、あらかじめ長期修繕計画において専有部分の配管の取替えについて記載し、その工事費用を修繕積立金から拠出することについて規約に規定するとともに、先行して工事を行った区分所有者への補償の有無等について十分留意することが必要である。


注意点としては、①専有部分の費用をあらかじめ長期修繕計画に記載する、②修繕積立金からの拠出する旨を規定する、③修繕積立金が値上げすることもある、④先行工事を行った区分所有者への補償、⑤専有部分に係る工事のうち、どこまでの範囲の工事を修繕積立金から支出することにするのかといったことについて、管理組合として事前に慎重な検討を行っておくことが必要になります。
⑸管理計画認定および要除却認定の申請
管理計画認定および要除却認定の制度はマンション管理適正化法・マンション建替円滑化法の改正により、新しく設けられた制度です。
 管理組合がこれらの申請を行う場合には総会の決議を要します。48条(総会の決議事項)の中に管理計画認定の申請と要除却認定の申請という文言が追加されました。
⑹その他所要の改正
ア 書面・押印の見直し
区分所有法42条3項では、「議事録が書面で作成されているときは、議長及び集会に出席した区分所有者の二人がこれに署名・押印しなければならない」と規定がありましたが、令和3年9月1日より「デジタル社会形成整備法」が施行されたことに伴い、区分所有の改正が行われ、令和3年9月1日より議事録への押印は不要となりました。
そのため、従前の49条(議事録の作成、保管等)の条文では、議事録に「署名・押印しなければならない」となっていましたが、押印の文言が削除され、「署名しなければならない」のみとなりました。
区分所有法上は押印しなくてもよくなりましたが、管理規約に押印の規定が残っているのであれば、管理規約に基づいて運用すべきではないのかといった弁護士見解もあります。
今後、議事録の押印を不要にしようとする管理組合は、組合員に議事録に押印しないことを説明した上で、管理規約の改正を行ってから運用をはじめた方がよいでしょう。
イ 近年の最高裁判決等に伴う改正…等
・最高裁平成29年12月18日判決文
この判決で35条3項「3 理事長、副理事長及び会計担当理事は、理事のうちから、理事会で選任する」と管理規約に定められている場合には、理事の互選により選任された理事長については、理事会の決議でその職を解くことは可能であると判断されています。
この最高裁判決に基づいて、35条に「解任する」といった文言が追加。「理事」を解任する場合には総会の決議が必要となります。


団 地 型
⑴敷地分割事業と分割請求禁止規定との関係性
 マンション建替円滑化法の改正により、団地型マンションの再生に関する合意形成を取りやすくするために「敷地分割制度」が創設されました。従来は全員合意しか認められなかった敷地分割決議を、5分の4の割合で敷地分割を可能とし、敷地分割により危険な一部の棟を含む街区を売却することができるといった制度です。

 また建替円滑化法115条(敷地分割決議)では団地総会において、「当該特定団地建物所有者の共有に属する団地内建物の敷地又はその借地権を分割する旨の決議をすることができる」と規定しております。
 一方、団地型規約11条(分割請求及び単独処分の禁止)では、「団地建物所有者又は区分所有者は、専有部分と土地及び共用部分等の共有持分とを分離して譲渡、抵当権の設定等の処分をしてはならない」となっており、相反する内容となっています。
 そのため、11条関係コメント③が新設され、「円滑化法に基づく敷地分割決議による敷地分割は、11条により禁止されるものではない」ということが確認的に明記されました。
 要除却マンションというのは、耐震性が不足していたり、外壁の剥落等により危険が生じる恐れがあったり、バリアフリー性能が確保されていないといったことが認定されたマンションのことで、適用される制度が拡充・新設されています。
⑵団地修繕積立金及び棟別修繕積立金
 敷地分割制度に関する改正になります。団地型規約28条、29条、同条関係コメント団地修繕積立金および棟別修繕積立金の使途として「敷地分割に係る合意形成に必要となる事項の調査」という文言が新たに追加されています。
⑶招集手続き
 敷地分割決議を行うための団地総会の招集手続に関する45条7項が新設され、議案の要領の通知のほかに敷地分割の必要性、マンションの除却の実施方法などを「通知しなければならない」こととされました。
⑷団地総会の会議及び議事
 団地型規約49条8項に敷地分割決議の決議要件が記載され、団地総会における決議要件として、組合員および議決権数の5分の4以上の規定が新たに設けられました。
⑸議決事項
 団地型規約50条の議決事項に「管理計画の認定の申請、除却の必要性に係る認定の申請および敷地分割の記載」が追加されました。

大規模修繕工事新聞 148号