「ルーフバルコニーのシート防水に水たまりができていて、保証期間内だから施工会社から連絡させてほしいんですけど」。住宅環境研究者の私にこんな連絡をしてくる知人がいました。前回の施工は「たぶん10年くらい前」だといいます。
「保証期間は過ぎてても、施工不良かどうかもわからないし。とりあえず、施工会社に見に来ててもらいたいんです」
知人は工務店の社長で、一級建築士の資格を持っていることから、何かのついでにマンションに携わり、管理組合理事長から「ちょっと見てくれませんか」と相談を乗っているうち、コンサルタントのマネごとをはじめてしまったというケースです。
「私を通さないで、管理組合から直接施工会社に問い合わせてみてください」と断りました。後ろに手を回し、管理組合から信用を得たかったのかもしれませんが、知人であることを利用して、自分のビジネスに生かそうとは虫のいい話です。
本人は「管理組合のため」と大まじめに思っているのかもしれませんが、業界人である私が特定の会社に、「昔の物件で施工不良かもしれないから見に行ってほしい」などとは、どの立場で言えるでしょうか?
知人の工務店は、普段は地域に根差し、戸建て住宅の建設やリフォームを手掛けている会社です。地域の工務店はおおむね、建築のことなら何でもやってくれます。
頼まれて「できない」という理由で断るという選択肢はありません。
管理組合とは小修繕や専有リフォームでつきあいがはじまり、理事長などから個人的な相談を受けて、引き受け、それでも業界のことがよくわからないので、私を頼ってきたのでしょう。
親切に相談を受けることで仕事に結びつけるのが本分ですから、「困っているならなんとかしてあげよう」と本気で取り組んでくるので、余計始末に悪い。
しかし、マンション管理は見様見真似でできることではありません。本気で取り組みたいのなら、マンション管理は別の業界だと思ってイチからちゃんと学ばないと…。
専有リフォームを受けて理事長に申請しなかったり、区分所有者の要望を聞き入れたがために管理組合の仕様を逸脱してしまったり。マンションも戸建てもリフォームは一緒だといって後にトラブルとなることはもはや周知の事実です。そのために管理規約に専有部分の修繕の規定があるのですから。
そして、読者にもおわかりのとおり、共用部分の修繕工事は専有リフォームの延長線上にあるものではありません。
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後日談。管理組合がよく調べてみると保証期間も過ぎていることがわかりました。
マンションの規模は28戸。2回目の大規模修繕工事の計画をぶら下げたそうですが、施工会社は丁重に辞退したそうです。
見積もり募集をかけ、銀行からの借り入れで2回目の大規模修繕を行うことになりました。ただ、それもうまくいくかどうか、私にはわかりません。
知人は愚痴っていました。「業界じゃ名前が通っている会社だろうに、こんなことでいいのかなあ」だって。
何度も言いますが、マンションコンサルタントをマネごとではじめたケースは多いです。そのことは管理組合のほうでも認識しておくべきです。
大規模修繕工事新聞153号