【事案の概要】
平成14年5月ころより、被告が飼育もしくは餌やりをしていた猫に関し、糞による悪臭、専用庭の植栽の破損、洗濯物の汚れ、ゴミ集積所漁りの被害が増えたため、餌やりの停止等の対策を求めたものの、被告による改善がみられなかったため、差し止め請求訴訟に発展した事案。
総会決議による管理組合から被告への是正勧告は平成14年から20年まで7回行われ、餌やり行為の中止等を求める民事調停も不調に終わっていた。
【争点】
⑴ 被告の餌やり行為が、動物飼育禁止条項又は迷惑行為禁止条項に違反するか
⑵ 被告の餌やり行為が、区分所有者の共同利益背反行為に当たるか
⑶ 被告の餌やり行為が、受忍限度を超え、個人原告らの人格権を侵害するか。不法行為を構成するか
【裁判所の判断】
管理組合が写真による記録化を開始した平成19年12月以後においても、通路や専用庭に、被告が餌やりをしている猫によって数多くの糞がされている状況にある。
餌やりに集まってきた猫が、収集時間外に出されたゴミ集積所のゴミ袋を荒らし、生ゴミを散乱させていた。
駐車場に駐車してある自動車の屋根やボンネット、バイクに上がることによって、自動車等に傷が付くなどの被害が生じている。
猫の抜け毛が玄関先等の吹きだまりに集まり、不衛生な状態となる被害が生じている。
餌やりを続けたいのであれば、一戸建てへ転居の上で行うべきであるという解決案は示している。
よって、管理組合および個人原告らの差止請求は認容すべきである。被告は個人原告らに対し、不法行為によって生じた損害を賠償する義務がある。
【コメント】
被告は、平成5年ころに猫の餌やりを開始し、10匹近くの猫が集まって餌を食べるようになりました。そして平成14年には、被告の自宅庭で野良猫が子猫を6匹出産し、18匹ほどが集まってくるようになりました。
このような状況となり、当タウンハウスの管理組合は、総会において、猫への餌やり行為を止めるように決議して被告に伝えましたが、被告はこれを守りませんでした。その後、管理組合は定時総会や臨時総会での同内容の決議を繰り返し、その都度、その内容を被告に伝えました。
また、それに加え、管理組合は、被告に対し、訴訟に至るまで7回にわたって是正勧告書を送付しましたが、被告はこれらを無視し続けまた。このことから、管理組合は、被告に対し調停を申し立てましたが、調停は不調となり、本訴訟が提起されました。
本件の争点は、上記のとおりですが、本判決は、全ての争点について原告側の主張を認めた上で、餌やりの禁止と原告全員に総額204万円の慰謝料(弁護士費用も含む)の支払を命じました。なお、餌やりの差し止めについては、動物愛護の観点から、全面的な禁止ではなく、タウンハウス敷地内での禁止とされました。
人格権侵害や不法行為の有無に関して、判決では「個人原告らとの話し合いの最大の機会である原告管理組合の総会のほとんどを欠席」し、地域で糞のパトロール、猫用のトイレの設置を開始したものの、「被告北側玄関に現れることの多い猫2匹についてのトイレの配慮が十分でなく、糞のパトロールの回数も不十分である」、さらに餌やりの点でも「受忍限度を超え、
個人原告らの人格権を侵害するものと認められる」と判断されました。
結果として被告が管理組合の決議や是正勧告を無視し続けて餌やりを続けたことが、不法行為を構成したのだと考えられます。
本件は、猫の餌やり行為が問題となりましたが、例えば、住戸のゴミ屋敷化も同様の問題が生じるでしょう。管理組合の決議や是正勧告を無視し続けてゴミを放置し続けるような場合は、不法行為が成立しうると思われます。
大規模修繕工事新聞2023-01-157号