迷惑居住者への使用禁止請求
相当の期間ってどれくらい?
この何年もの間、騒音、異臭を発生させ、周囲の住戸から苦情が上がっている区分所有者がいます。再三注意をしたが、聞き入れられません。
そこで管理組合では区分所有法第58条による使用禁止の請求をすることにしました。
この場合、条文には相当の期間、専有部分の使用を禁止することを請求できるとありますが、相当の期間とはどのくらいなのでしょうか?
また、専有部分の使用禁止とは、実際にどのようなことをいうのですか?
「短期間禁止も趣旨に沿わない」として暴力団事務所3年、ゴミ放置3カ月の事例あり
共同利益背反行為(建物の保存に有害な行為その他建物の管理または使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為)をした者またはその行為をするおそれのある者に対しては、他の区分所有者の全員または管理組合法人は、区分所有法57条の規定により、その行為の停止等を請求することができます。
しかし、この請求が認められても、請求を受けた側が再度同様の行為を繰り返すなどして、問題の解決が実現されない場合もあります。
そのため、共同利益背反行為をした区分所有者またはこれをするおそれがある区分所有者を強制的に立ち退かせるための措置が必要となります。
このような趣旨から、区分所有法58条は、共同利益背反行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、57条1項に規定する請求によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難である場合に、当該行為に係る区分所有者による専有部分の使用の禁止を請求することができることを定めています。
この訴えが認められると、当該区分所有者は他の区分所有者の全員または管理組合法人に対して、相当の期間自己の専有部分を自ら使用しないという義務を負うことになります。
では、相当の期間とはどれくらいの期間なのでしょうか。
この期間は、共同生活の維持を図るため当該区分所有者による専有部分の使用を禁止することが必要かつ相当と客観的に認められる期間であると考えられています。
立法担当者によると、本条は、その性質上、あまりに長期間の使用禁止を命ずることは不適当であるが、逆に単なる制裁措置ではないのであるから、あまりに短期間の使用禁止を命ずることも制度の趣旨に沿わないとして、数か月程度を下限とし数年間程度を一応の上限と解すべきとされています。
この期間は、原告の請求の範囲内において裁判所が判決によって定めます。過去の事例としては、専有部分を暴力団事務所として使用していた区分所有者に対して3年間の使用禁止を命じた判決や、居室等でゴミを放置していた区分所有者に対して3カ月間の使用禁止を命じた判決、多量の物品を放置していた区分所有に対して1年間の使用禁止を命じた判決等があります。
専有部分の使用禁止が認められると、当該区分所有者は、専有部分の使用に付随する共用部分、附属施設、敷地の使用も当然に禁止されます。また、使用禁止の判決を受けても、区分所有権は失いませんので、使用が禁止されている間も、管理費の負担など区分所有者としての義務を免れることはできません。
なお、使用禁止中でも、たとえば、空気を入れ替えたり、防カビ・防虫の措置を講じるなど専有部分の維持・管理のために必要な範囲での専有部分への立ち入りは「使用」に当たらず、許されると考えられています。
大規模修繕工事新聞2023-02-158号