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区分所有者による適正な建物管理に関する規律の設置へ

区分所有法制研究会が令和4年9月にまとめた研究報告書「第2 区分所有建物の管理の円滑化を図る方策」から、「4 共用部分に係る損害賠償請求権等の行使の円滑化」「5 区分所有者の責務」を紹介します。

【問題の所在等】

●現行法
管理者の権限(第26条)
① 損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金および不当利得による返還金の請求および受領に関し、区分所有者を代理する。
② 規約または集会の決議により、区分所有者のために原告または被告となることができる。

●問題の所在
 共用部分等について損害賠償請求等が生じた場合、管理者が代理し、訴訟を追行するまでには原因・損害の確認、調査などに一定の期間を要することが多く、その間に区分所有権の譲渡がされるケースがある。
 そこで、区分所有権の譲渡があっても、管理者が区分所有者全体を代理し、訴訟担当者として訴訟を追行することができるようにする規律を設けることについて、引き続き検討することを提案している。

【A案】損害賠償請求権等の発生後に区分所有権が譲渡された場合には、管理者は、譲渡人(元区分所有者)に帰属する損害賠償請求権等も代理して行使することができ、規約または集会の決議により、損害賠償請求権等を有する現在の区分所有者および元区分所有者のために原告または被告となることができるものとする。

【B案】損害賠償請求権等の発生後に区分所有権が譲渡された場合には、管理者は、損害賠償請求権等を有する現区分所有者に帰属する損害賠償請求権等を代理して行使することができ、規約または集会の決議により、請求権を有する現区分所有者のために原告または被告となることができるものとする。

【問題の所在等】

●現行法における区分所有者の義務
 第6条1項(共同の利益に反する行為の禁止)は、区分所有者の共同の利益に反する建物の管理・使用行為を禁ずるものであり、集会の決議に参加するなど、建物を適切に管理する義務まで含むものではない。
 今後、老朽化マンションが増加していくことが見込まれる中で管理を適切に行うためには、各区分所有者が建物の管理に常に関心を持ち、管理組合の意思決定に積極的に参加することが重要である。
 そこで、区分所有者が建物を適切に管理する責務を負う旨の規律を設けることについて、検討する。

⑴区分所有者の責務は誰に対するものであるか
・ 区分所有者は相互に適切な管理に協力すべきであることが責務の基礎となると考えられることからすれば、区分所有者同士が相互に負う責務として構成することが考えられる。

⑵規律を設けるべきでないとする考え方
・ 区分所有者はさまざまな事情を抱えており、管理の責務を課すことは不当である。
・ 区分所有者が建物を適切に管理すべきことは当然であり、責務を課したとしても、責務違反について具体的な効果を発生させる規律を設けることは困難である。

⑶まとめ
・ 以上を踏まえ、区分所有者の責務について規律を設けることの是非について、責務の相手方や性質、責務を課すことの実効性も勘案しつつ、引き続き検討することを提案している。

大規模修繕工事新聞2023-02-158号