国土交通省/マンション政策あり方検討会
とりまとめ公表
国土交通省が開催する「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」(座長:浅見泰司・東大大学院教授)は2023年8月10日、今後のマンション政策の方向性をとりまとめ、公表しました。
本とりまとめは、マンションを巡る現状を把握し、課題を洗い出したうえで、マンション政策全般に係る大綱として位置づけるとしています。
適切な設計コンサルの判別、性能向上工事の促進など
施策反映への検討事項をピックアップ
「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」は2022年10月にスタートし、これまでに9回開催されました。同検討会では、現在、急速に進行しているマンションの高経年化、居住者の高齢化といった「2つの老い」に対応するため、マンションの現状を把握し、法制審議会の区分所有法制の見直しの動向も踏まえながら、マンションの管理・修繕、再生のための施策について、総合的に検討を行っています。8月10日に公表されたとりまとめは、当面のマンション政策の検討・実施にあたっての基本的な認識とし、広くマンション政策全般に係る大綱として位置づけるものです。
とりまとめ概要
マンションを巡る課題と今後の施策の方向性
<マンションの管理の適正化>
① 区分所有者の責務の明確化
・ マンションの共用部分を適切に管理するためには、各区分所有者が一定の行動(総会への出席など)を取ることや、費用を負担(管理費・修繕積立金の負担)することが前提である
・ 管理不全状態の解消も、複数の区分所有者による合意形成が必要であり、一定の困難性が存在する
・ 区分所有者に対し、建物の適切な管理を行うために必要な行動をとることを促していくことが必要である
⇒ 今後のマンション施策の立案にあたり、区分所有者に果たすべき責務があることを念頭に置いた検討を加える
② マンションの長寿命化の推進
・ 長寿命化によってマンションをできるだけ長く使うことの必要性・重要性について区分所有者に認識されていない
・ マンションの寿命を意識した上でその長寿命化を進める観点からの意思決定を行うための環境が整っていない
⇒ マンション長寿命化促進税制の周知を通じ、マンション長寿命化の必要性・重要性についての普及啓発を進める
⇒ マンションの寿命を見据えた通常の長期修繕計画よりも長期の計画(超長期の修繕計画)のあり方についての検討する
③ 適切な修繕工事等の実施
⑴ 修繕積立金の安定的な確保
・ 長期修繕計画の作成の際に、本来必要となる工事が設定されていないこと等により、大規模修繕工事の実施の際に修繕積立金が不足するマンションが存在する
・「 段階増額積立方式」では、計画通りに積立金の引き上げができないおそれがある
⇒ 適切な長期修繕計画のあり方、適切な修繕積立金の引き上げ幅、安定的な修繕積立金確保策等について検討を行う
⑵ 適切な工事発注の確保
・ 工事の発注にあたり、事業者の選定に係る意思決定の透明性確保や、利益相反等へ注意する必要がある・ 発注者たる管理組合の利益と相反する立場に立つ設計コンサルタントの存在が指摘されている
・ 適切な設計コンサルタントを管理組合が判別する仕組みが存在しない
⇒ 管理組合が大規模修繕工事を発注する際の相談窓口の設置など、管理組合のサポート環境の整備を行う
⇒ 管理組合が適切な設計コンサルタントを判別しやすくする仕組みのあり方について 検討を行う
⑶ 性能向上工事の促進
・ 建築時点の性能を向上させる工事(耐震改修、省エネ改修、バリアフリー化、IT関係、EV充電器設置など)を実施しているマンションは限定的である
⇒ 性能向上工事の進め方等を示すマニュアル、検討する管理組合の相談窓口の設置、管理組合と専門家のマッチングを図る取組を進める
⇒ EV充電器の円滑な設置に向け、必要とされる管理規約等における手当て、設置後の利用面等の課題について、必要な措置を検討する
④ 管理不全マンションへの対応
・ 所在不明者の探索に要した費用を当該区分所有者に請求できる仕組みが存在しない
・ 国外に区分所有者が在住する場合、連絡先の確保が困難となるケースがある
・ 区分所有者情報・居住者情報等を管理組合が把握できない
・ 特に修繕積立金の過不足について、区分所有者が把握・理解しやすい環境となっていない
⇒ 名簿の更新や不在区分所有者等の連絡先把握が行いやすくなる環境整備について検討を行う
⇒ 所在不明者の探索費用を原因者に請求できる規約のあり方について検討を行う
⇒ 管理組合が空き住戸等を取得するために支障となる課題を整理する
⑤ 管理組合役員の担い手不足
・ 管理組合の運営を担う役員(理事等)のなり手が不足し、理事会の機能が低下した場合、マンションの管理不全化につながる可能性が懸念される
・ 管理組合役員の担い手不足などを背景として、管理業務を受託している管理業者が、当該マンションの管理者として選任されている事例が増加している
⇒ 管理業者等が管理者となる場合のガイドラインの整備や、監事の設置など望ましい体制整備について検討を行う
⇒ 管理業者が管理者となる場合の制度的措置の必要性についても検討を行う。
⑥ 定期借地権マンションの今日的評価
・ 将来の管理不全化のリスクが低い定期借地権マンションの優位性が社会的に評価されていない
・ 定期借地権の契約期間終了後の具体的な対応(除却、借地権の再設定、所有権化など)について、実務上の知見が蓄積されていない
⇒ 定期借地権マンションの特徴に対する消費者の評価や、供給にあたっての課題の把握を行う
⇒ 定期借地権の契約期間中の留意点や、管理組合の関与のあり方、契約期間終了後の具体的な対応について、実務上必要とされるノウハウの整理を行った上で、必要な施策の検討を行う
⑦ 大規模マンション特有の課題への対応
・ 大規模マンションでは、総会にあたり、委任状または議決権行使書の行使が多くなっている
・ 高層マンションでは、イベントなどの交流機会が乏しい現状がある
・ これらが管理組合における合意形成に影響を及ぼしている可能性がある
・ 大規模マンションでは取り扱う金額が大きく、業務内容も複雑化し、監査資料も膨大になるが、これに対して監査の実施体制が弱い
⇒ 超高層マンションの実態(総会における合意形成、修繕費用の積み立て、管理費の水準、交流イベントの実施状況など)についてより詳細な調査を実施し、その結果を踏まえ、必要に応じて超高層マンションの管理等に係るガイドラインの整備などを検討する
⇒ マンションにおける会計・業務監査(特に大規模マンションにおける監査)のあり方について、専門家の活用を念頭に検討を行う
⇒ 超高層マンション特有の修繕項目および工事費用の実態の把握を進め、必要に応じて長期修繕計画の作成に関するガイドラインへ反映する
⑧ マンションの管理状況が価格に反映される環境づくり
・購入希望者が把握できる管理情報が少ない
・ 不動産物件サイトでは、修繕積立金や管理費の額は表示されているが、長期修繕計画の有無や、積立方式(段階・均等)などの情報は表示されていない
⇒ マンションの購入希望者が長期修繕計画の内容(修繕積立金の値上げ予定等)など、マンションの管理状態や資産価値に大きな影響を及ぼす情報にアクセスしやすい環境整備に向け、マンション管理関係の情報提供のあり方について検討を行う。
大規模修繕工事新聞9月号(23-9)