一般社団法人全国建物調査診断センターが2カ月ごとに主催している恒例管理組合オンラインセミナーの一部を紙上採録します。今回は8月27日にvimeoで公開した第65回セミナー「マンションは100年持つ!」前編です。なお、これまでのセミナーは全建Libraryで閲覧できます。
■100年住宅の実現に向けて
マンションの長寿命化は、「次の世代に住み継がれるマンション」の仕組みづくりが不可欠です。
耐震工事が完了し、建物の骨格が安全であれば、これからさき30年、50年後の100年長期ビジョンが実現することが可能になります。長期修繕計画の見直しを行い、修繕費用の無駄を検証し、超長期修繕計画の立案も視野に入ってきます。
高経年マンションで求められる機能性の向上、いわゆる改良・改善・グレートアップの計画立案または実施も可能になります。
建物を使い続けるためには、計画的な修繕、法定点検、設備改修、快適な生活を送るための機能改善機能を維持することが必要ですが、当然のことながら安全性(耐震性)についても確保が必要になります。
耐震補強か?建替えか?と議論されることがありますが、建替え前のマンションで大地震が起きたとき、耐震対策をしていなければ、大事な命を守ることができません。
建物の長寿命化を目指す上でも、建物の耐震化は重要なテーマの一つといえます。
■70%が補強不要や軽微補強で済む
弊社が耐震診断をしたときの耐震性の結果を簡単に分類しました。
一番左が「危険性が低い建物」で約10%。耐震診断で現状の耐震性が確認できたものです。
耐震性は、ISという数値で評価します。0.6以上あれば耐震性が高いという判断がありますので、この10%は診断で耐震性が高いという結果になりました。
一番右の約30%は、IS値0.4ぐらいの建物です。地震が来た時の被害の影響が大きいゾーンがIS値0.4以下の建物に集中していますので、危険性が高いというランク分けにしています。
それ以外の約60%の建物はIS値0.4から0.6で、比較的軽微な補強で済む場合が多くありました。
つまり、補強不要や軽微補強で済む建物が70%ほどあるというふうになりますので、耐震診断は恐れずにチャレンジしてほしいと思います。
【ケース1】
年代:昭和43年(築後53年=補強工事当時)
規模:5階建て・30戸
構造:鉄筋コンクリート造
延面積:約1990㎡
工期:約4カ月(大規模修繕同時施工)
補強工事費:2700万円(1住戸3750円/月・20年)
階段室型の団地の1棟です。耐震診断の結果、1、2、3階のIS値が0.3 ~ 0.6と基準に足りなかったので、3階まで補強をした結果、0.9の数値が出たところもありました。
補強方法について、塗り壁補強で既存の壁に鉄筋を組んでモルタルを左官で塗る補強をしているものになります。8cmぐらい外側に壁が厚くなっていますが、近くで見ても分からない補強方法になっているかと思います。
補強工事費は総額2700万円。20年で1住戸あたり1カ月3750円という計算になります。実際には補助金を活用したので、自己負担はもっと小さくなりました。
【ケース2】
年代:昭和48年(築後58年=補強工事当時)
規模:5階建て・43戸
構造:鉄筋コンクリート造
延面積:約1500㎡
工期:約4カ月
補強工事費:2150万円(1住戸2500円/月・20年)
こちらの建物も1階2階3階が耐震性不足で、数値が足りなかった3階までの部分に袖壁増し打ち補強をしています。
補強方法は、鉄筋型枠を組んでコンクリートを流し込んで増し打ちをしています。柱の隣の袖壁コンクリートに、約15cm増し打ちして、耐震性を上げました。北側の補強ということで、外観の変化もほとんどありません 補強工事費は総額2150万円。20年で1住戸あたり1カ月2500円です。こちらも補助金を活用して工事を行いましたので、実際の金額はもう少し低くなります。
【ケース3】
年代:昭和47年(築後49年=補強工事当時)
規模:14階建て・120戸
構造:鉄骨鉄筋コンクリート造
鉄骨形状(1~7階)充腹型、(8~ 14階)非充腹型
延面積:約7600㎡
工期:約5カ月(大規模修繕同時施工)
費用目安:6050万円(1住戸2100円/月・20年)
耐震診断の結果によると、実際に8階9階10階のみ耐震性不足という結果になりました。
補強方法は、鉄筋コンクリートのフレームをバルコニー内に外付けでつけた事例です。ただし、実際にはバルコニーの一部を拡幅した事でバルコニーの有効面積は減っていません。
外側だけの工事になりますので、特に仮移転はせず、居住しながらの工事になっております。
費用目安は6050万円で、20年で1住戸あたり1カ月2100円です。こちらのマンションについても補助金を活用しております。
大規模修繕工事新聞9月号(23-9)
ケース1
ケース2
ケース3