「大規模修繕工事新聞」創刊から現在に至るまで、全ての記事をアーカイブ収録していますから、マンションの大規模修繕工事に関する情報やマンション管理組合に関する情報を上の<記事検索>にキーワードを入れるだけで表示させて、必要な記事を読むことができます。

知っておこう!理事会・総会運営豆知識③/理事会で決議した総会議案 一部理事と監事の反対は通る?

理事会で内在するトラブルが大規模修繕工事の計画段階で表面化しました。
 まだ検討がはじまったばかりにもかかわらず、理事長が早急な実施を進めています。これに対し理事5人のうち2人、さらに理事会に出席している監事が反対意見を述べているのです。
 もともと理事長の独断的な言動に不満を持っていた人々が今回、工事は「時期尚早」という理由をもって、理事長との対立をはっきりさせたわけです。
 一方、独断的な理事長は自身を含め3人の賛成票(過半数)を得て、総会議案として工事の実施案を強引に決議してしまいました。
 反対派の理事と監事は総会で理事会が提出した議案を否認する予定としています。とはいえ、理事会案に理事または監事の反対派通るのでしょうか。

 理事は総会で選任されていることから、信義則上、「信頼」を裏切らないよう、また「誠実に」行動することが求められます。
こうしたことから、理事会のメンバーとして個人的な意見にかかわらず、理事会での決議内容に拘束されると考えられます。
 しかし、独断的とされる理事長の暴走を黙認することも、信義則上の問題となり得ます。
 以下に2通りの考え方を紹介します。
⑴総会で理事の立場で反対する
 理事会案はあくまで総会への提案です。理事は総会の「決定」に従って、それを執行することが義務であって、「案」に賛成する義務はないと考えられます。
 このため、理事会で少数派であっても総会で多数になるよう訴える権利はあります。理事も1人の区分所有者として発言の自由があるのは妥当だと言えます。
⑵辞任して1人の区分所有者として反対する
 理事は管理規約により、総会決議で選任されますが、区分所有法において役員の資格に特に規定はありません。
 ただし、実際には理事会の内紛をそのまま総会に持ち込むことは、理事会不信になりかねず、当然に理事会「案」に対しても不信を招きやすいといえます。
 このため、理事は一致した態度で総会に臨むべきで、総会で反対意見を言いたいのなら理事を辞任した上で、1人の区分所有者として反対票を投じたほうがよいという意見があります。
  〈参考〉『 マンション管理の「なぜ?」がよくわかる本』
      NPO日本住宅管理組合協議会

 一方、監事は理事会のメンバーではありません。
 このため、理事会での決議内容に拘束されず、監事を辞任しなくても、総会で反対意見を言い、反対票を投じることができます。

議決権の不統一行使は×
○複数の住戸を所有する1人の区分所有者の場合
 1人の区分所有者が、ある住戸については賛成、ある住戸については反対というような議決権の行使の仕方(議決権の不統一行使)をすることは認められていません。
 議決権の行使は、区分所有者の意思に基づくものとされ、1人の区分所有者の意思は1つであるためです。
 したがって、特別決議は区分所有者数と議決権数を数えますが、区分所有者1人の議決権を賛成と反対に数えることはあり得ないことになります。
○1住戸を複数の区分所有者が共有する場合
 住戸1戸を複数人が共有している場合において、共有者それぞれから賛否の異なる議決権行使書を提出することはできません。議決権の不統一行使に当たります。
 複数の共有者の総会出席や意見陳述がある場合も、議長はこれを拒むことができます。
 住戸を共有している場合は、議決権を行使する者1人を定め(区分所有法40条)、あらかじめ理事長に届け出なければなりません。
 例えば夫婦共有の住戸で、届出をせず、夫と妻からそれぞれ議決権行使書が出されれば、その2通はともに無効票として取り扱うことになってしまいます。
 ただし共有者のうちだれを議決権行使者にするかは、区分所有法に規定はありません。
○複数の委任状がある場合
 複数の区分所有者から委任を受けた者であっても、委任状の賛否を使い分けることはできません。自分の1票と委任状すべては、賛成または反対のいずれか一方にのみ使用しなければなりません。


総会当日の予定変更OK
 委任状、議決権行使書をあらかじめ提出していても、当日の予定変更で総会に出席することも当然できます。さらに総会の場で意見が変わるかもしれないので、議決権行使書ではなく、総会での意思表示を優先します。
理事長が総会で反対した場合は?
 理事長は理事会決議に拘束されます。理事会を辞任しない限り、自身の1票および他の区分所有者からの委任状を反対票として使うことはできません。
 総会の議長を務める理事長が理事会案への反対を主張するとは考えにくいと言えますが、実際にはこうした管理組合もあるようです。
 このまま議長が委任状を含めて議決権を行使して採決を行い、議事録が作成されると、総会決議に瑕疵があって無効だと主張することは難しいと言えるでしょう。
 議長に委任した区分所有者も、議長が自ら反対するとは思っておらず、信義則違反であるということはできます。
 理事長が自らの議決権に反対を投じたいのなら、やはり理事を辞任した上で、1人の区分所有者として反対票を投じるべきだと言えます。


 議案に反対する理事長を議長としての資格を認めない場合、標準管理
規約39条「理事長に事故があるときは、その職務を代理」する副理事長が緊急事態である宣言として、議長を理事長と交代します。
 理事長または議長といった役職名あての委任状は、副理事長が代行して議長を務めるため、副理事長に委任状を集約させて、その議決権を行使することになります。


 

大規模修繕工事新聞 170号 24-02