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教えて!弁護士相談/ 2年前に第三者管理者方式を採用 もう一度理事会方式に戻せますか?

2年前に第三者管理者方式を採用。もう一度理事会方式に戻せますか?

当マンションは築30年のマンションですが、住民の高齢化が進み、理事のなり手が少なくなったことから、2年前よりいわゆる第三者管理者方式が採用されることになり、理事会が廃止されて、管理会社が管理者となり、当マンションの管理全般について管理会社に委ねられることになりました。その結果、老朽化した共用施設の修繕や更新なども管理会社の判断で進められるようになり、管理コストが非常に割高になってしまいました。
 住民たちの間では、以前の理事会方式に戻して、自分たちで話し合いながら、共用施設の修繕などを決定していきたいという思いが強くなっています。もう一度理事会方式を採用するためにはどうすればいいでしょうか?

 

 

総会開催、管理規約の改正等、理事会廃止からの復活は容易ではない

1 第三者管理者方式とは
 今回は、「第三者管理者方式」に関するご質問ですが、管理業者(管理会社)に管理業務を委託している既存マンションは少なくありません。
 そこで、第三者管理者方式と管理業者に管理業務を委託する場合とではどのように異なるかを理解するためには、前提として「管理者」について理解する必要があります。
 区分所有法において「管理者」とは、管理組合の業務執行者であり、対外的には区分所有者を代表する者という位置づけになります。管理者の権限として、共用部分等の保存、集会決議の実行等が定められています(同法25条以下)。標準管理規約では「理事」に相当します。
 従来型の理事(理事会)が存在する管理組合では、総会において予算や基本事項が決定され、これに基づき理事(理事会)が業務執行を行うことになります。管理業者はこのサポートにあたります。
 他方で、第三者管理者方式では、その形態に複数のバリエーションがありますが、理事会を存続させながら理事や理事長に外部専門家をして就任させるパターン(外部専門家が「役員」に就任)や、理事会そのものを外部専門家に委託するパターン(外部専門家が「管理者」に就任)があり、ご質問のケースは、理事会そのものを管理業者に委託するパターンに該当します。
 近年では、投資用マンションやリゾートマンション、さらには高級新築マンションなどで管理業者を管理者とする第三者管理者方式が採用されつつあります。
 他方、ご質問のように、いわゆる実需向けの既存マンションの中からも、理事のなり手不足などを背景に、第三者管理者方式を採用する動きが進みつつあると言われています。

2 第三者管理者方式における問題点
 理事会を廃止した第三者管理者方式(外部専門家が「管理者」に就任するパターン)においては、管理業者の意思が強く反映され、結果として、利益相反につながるおそれがある(大規模修繕工事等の発注を管理業者自身に発注する、管理者が組合の保管口座の印鑑と通帳の両方を保管する等)等の弊害が指摘されています。
 また、組合員が管理者としての業務に不満を持ち解任しようとする場合、管理規約に管理者の固有名詞が記載されている場合にはその変更には特別決議(組合員総数の4分の3以上かつ議決権総数の4分の3以上の賛成)が必要となり、解任について決議するための総会(臨時総会)を招集するためにも、組合員自身が組合員総数の5分の1以上で議決権総数の5分の1以上の同意を集めなければならず(区分所有法34条3項)、組合員による理事会機能がない中では決して容易なことではありません。
 ご質問のケースでも、総会の開催や管理規約の改正等に向けて、多数の組合員の賛同を得る活動を行うところからはじめる必要があります。
 このように、一旦理事会を廃止した第三者管理者方式(外部専門家が「管理者」に就任するパターン)が採用されますと、元の組合員自身によって理事会を復活させることは容易ではありません。そのため、その採用には慎重な判断が求められます。

3 第三者管理者方式に関する今後の動き
 第三者管理者方式に関しては、2023年10月、国土交通省に「外部専門家等の活用のあり方に関するワーキンググループ」が設置され、2024年3月には「外部専門家の活用ガイドライン」改正案の取りまとめが予定されています。
 そこでは、第三者管理者方式における管理組合の運営のあり方、財産の分別管理のあり方、管理業者が管理者の地位を離れる場合のプロセス、日常の管理での利益相反取引や大規模修繕工事等におけるプロセスや情報開示のあり方について一定の指針が示される見込みです。
 第三者管理者方式に関心をお持ちのマンションは、この動きに注視いただきたいと思います。

 

大規模修繕工事新聞 170号2024-02


東妻陽一(あづま・よういち)弁護士
2009年(平成21年)弁護士登録。親和法律事務所所属。第一東京弁護士会常議員、日本弁護士連合会代議員など歴任。共著に㈱日本法令発行『標準実用契約書式全書』3訂版、4訂版(寺本吉男・三浦繁樹編)など。

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