昨今、管理業界では管理員や清掃員の人件費、メンテナンスにおける原材料価格や物流費の高騰を受け、管理組合に対する委託料の値上げ要求がトレンドになっています。また、自然災害による保険金支払いの急増を背景に、マンション総合保険の大幅値上げも毎年のように行われています。
管理組合としては、できる限り支出を抑えたい。でなければ、最終的には管理費の値上げにつながってしまうからです。
そこで、マンション保険を数多く手がける保険代理店・㈱グッド保険サービスの伊藤昌弘専務取締役に「保険料をできるだけ節減するためにはどうすればよいか」を聞いてみました。
伊藤専務によると「保険料の節減ステップは4つ」と言います。では、このステップをひとつずつ見てみましょう。
<取材協力>㈱グッド保険サービス
●取扱い保険会社:損保大手5社
●契約管理組合数:490件(棟数:760棟)
●事故処理件数:300件
《ステップ1》
同じ補償水準で複数の損保会社へ見積もりを依頼
→各社の保険料を比較して、内容を検討
東京都所在のマンションを事例にした損保各社の共用部火災保険各損害保険の保険料比較です。同じ補償で横に並べただけでも損保各社によって保険料が大幅に異なるのがわかります。
保険料だけでなく免責事項、事故件数、管理状況による割引など、他にも比較検討ポイントがあります。
割引制度を含め、①各社で保険事故成績の判定期間が異なる、②各社で割引が適用されないマンションもある、③判定期間にカウントされるのは事故日のあとの保険金受取日になることなど、損保各社商品の内容を確認して比較することが必要です。
《ステップ2》
「マンションドクター火災保険」の無料診断を実施
→診断結果でメンテナンス状況が良好な場合は割安な保険料に
N社の「マンションドクター火災保険」の診断は無料で、マンション管理士が現地にて約1時間半程度のヒアリングを中心として実施します。
診断後提出される診断レポートは①管理運営状況、②修繕計画状況、③法定点検・修繕工事、④防犯対策、防火管理、保険事故履歴のほか、全18項目から作成します。
管理状況において、メンテナンスが良好だったマンションの「マンションドクター火災保険」の保険料は、各社との比較で20 ~ 60%安くなる可能性があります。
また、診断レポートは、マンション管理計画認定制度の認定取得の目安にも利用することができます。
《ステップ3》
施設賠償特約はセットから外して別途契約
→ 高経年マンション(概ね築30年超)の場合、施設賠償保険の単独加入で大幅節減が可能に
施設賠償責任保険については、保険会社によってはマンション総合保険の特約から外し、別に単独契約とすることも可能です。総合保険の損保会社とは別会社の施設賠償責任保険とすることもできるため、保険料の減額にも期待ができます。
ただし、単独の施設賠償責任保険について、引き受けられる保険会社が限られているため、注意が必要です。
《ステップ4》
「事故件数」の免責内容で損保会社の商品を比較
→マンションの規模によって事故件数を問わないケースあり 20戸未満で事故件数が複数回の場合、T社は事故件数を問いません。このため、上記のとおり、T社の保険料が圧倒的に安くなります。
逆にS社は事故件数が2件であるため、同条件引受不可です。
事故をカウントする判定期間も、過去1年または2年遡るなど、各社で異なります。新規契約の際、過去2年のうちに事故があったため、事故件数をみるまでは他社より安かった保険料が逆に上がってしまったというケースがあります。
保険料の数字だけで判断できず、補償内容の理解が大切になってくる理由がここにもあるわけです。
管理組合主導で取り組む
伊藤専務は、「まずは損保各社の保険料比較をしたり、保険料体系や補償内容を理解して、問題意識を持って行動を起こすことが必要」と強調します。
管理会社が保険代理店になっている場合、保険契約がどこにあるのかさえ知らない管理組合は少なくありません。契約内容もわからず、事故があれば管理会社にお任せしているだけでは、保険料を抑えることは難しいといえるでしょう。
マンション保険に詳しい代理店やマンション管理士等の専門家を招き入れて検討するなど、「保険契約の見直しは、管理組合が主導して早めに問題に取り組むことをおススメします」と話してくれました。
最後に、下表に保険料節減ステップをまとめました。参考にしてください。
大規模修繕工事新聞 171号2024-03