「大規模修繕工事新聞」創刊から現在に至るまで、全ての記事をアーカイブ収録していますから、マンションの大規模修繕工事に関する情報やマンション管理組合に関する情報を上の<記事検索>にキーワードを入れるだけで表示させて、必要な記事を読むことができます。

令和6年能登半島地震発生/何度も再確認!大規模災害とマンションの防災対策 その2

内閣府非常災害対策本部によると、令和6年能登半島地震に係る被害状況は2024年2月8日現在、人的被害は死者241人、負傷者1,291人。住家被害は全壊5,691棟、半壊5,957棟、一部破損29,806棟。ライフラインの復旧が長期化しているようです。大規模修繕工事新聞では前号(170号:2024年2月発行)に引き続き、マンションにおける災害対策と準備を再確認します。今号では、大規模災害後に生じるマンション復旧のための管理組合の意思決定について、どのような準備をしておけばよいのかをまとめました。
(参考引用文献:大木祐悟、伊藤朋子著『災害が来た!どうするマンション』)


 マンションを購入して居住するということは、“共有財産”の認識が必要です。しかし、この“共有財産”の課題(構造、所有、補修)に関する理解が不十分な住民は少なくありません。
 基本的な理解がないまま、被災、復旧のプロセスに突入すると、合意形成がとれず、復旧・復興が遅れることになります。
 平時から被災を想定した管理組合運営、コミュニティ活動が肝心といえるでしょう。
管理規約の災害対応条項
 国土交通省が作成するマンション標準管理規約32条には、管理組合の業務として「十二 マンションおよび周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災ならびに居住環境の維持および向上に関する業務」が定められています。「防災」はそもそも管理組合の業務と位置づけられているのです。
 そして、2016年の標準管理規約改正では、2011年東日本大震災での課題を踏まえ、災害等の緊急時の管理組合の意思決定に関する内容が盛り込まれました。

 理事会や理事長の緊急時の権限を明確化し、迅速に適切な行動をとれるよう、規約で定義したわけです。自宅マンションの管理規約を開いて、標準管理規約に準拠しているか確認しましょう。
 準拠していない場合は管理規約の見直しをお勧めします。緊急時の対応に管理規約が足かせになることはぜひとも避けたいところです。
防災委員会の構成
 防災は、①現に居住している住民の避難生活、②建物の復旧・復興の2つの面から考える必要があります。そうすると、防災組織を作る上では自治会と管理組合の連携がポイントになります。
 また、一般的なマンションでは、理事長や理事は持ち回りで担当し、任期も1~2年で交代するケースが多いといえます。
不慣れな理事長でも災害時に的確な行動ができるよう準備しておくためには、常設の防災委員会等を理事会の下部組織として設置するなどの工夫が必要です。
 あるマンションでは管理組合総会で自主防災組織である防災委員会を設置。防災委員会は自治会から数名の役員、管理組合から理事長、副理事長、防災担当理事で構成することにしました。
 総会で決めたため、予算をとることが可能となり、管理組合で防災備品を購入。管理組合は対象外だった行政の補助制度も、自主防災組織である防災委員会で申請することができるようになりました。
災害後の被災区分の確認
 マンションが被災したときは、建物の被災状態によってその後の手続きが変わるため、まずはその判断が必要です。
 「建物の価格」は、被災する直前の建物の価格で、土地(持分)と建物の(区分所有権)を合わせて判断されます。このため、小規模滅失か大規模滅失かの判断が難しい場合には、不動産鑑定士に鑑定評価してもらった額を参考に、弁護士や一級建築士等の意見も参考にして管理組合で判断することになります。
 被災度合の判断基準
 マンションの被災度合を判断する際、目的により別々の判断基準があります。
⑴被災建築物応急危険度判定
 「被災建築物応急危険度判定」は、大規模な地震が起きた際、その後に発生する余震等で建物が倒壊したり物が落下して人命に危険を及ぼす場合があることから、建物の出入り口などの見やすい場所に「危険(赤)」・「要注意(黄)」・「調査済(青)」の3種類のステッカーを表示するものです。
 「判定士」は行政職員や民間の建築士などがボランティアで行います。
⑵罹災証明
 「罹災証明書」は、地震による家屋の被害の程度等を公的に証明するもので、発行窓口は市区町村です。生活再建支援金の申請、税金の減免、各種融資の申請、共済金の支払請求等に必要となります。
 行政に各種申請を行う場合、被害状況の写真は重要となります。このため、災害で住まいが被害を受けたときには、忘れずに被害状況写真を撮っておきましょう。損害保険を請求する時にも役立ちます。
 写真は、①四方向から、②外側だけでなく内側からも撮影することがポイントです。また、被害個所の全体写真と“寄り”の写真も撮っておくとよいです。
⑶地震保険
 地震保険の目的は建物の再建ではなく、被災後の当面の生活を支えることです。
 地震保険は火災保険とセットで加入する必要があります。共用部分は管理組合、専有部分は各区分所有者が加入します。
 建物や家財の損害状況により、4区分(全損、大半損、小半損、一部損)のいずれかに認定されます。
 地震保険の契約金額は、火災保険の30%~ 50%の範囲内で、建物は5,000万円、家財は1,000万円が限度額となります(区分所有者ごとに、共用部分と専有部分をあわせて5,000万円が限度)。
 地震保険は、その保険料に比べて補償範囲が狭いということから、加入しないことを選択する管理組合もあります。
 一方、東日本大震災や熊本地震で被災した管理組合からは、地震保険によって支払われた保険金をもとに復興活動に進むことができたという声も多く聞かれました。
 加入するかどうかは管理組合の意思決定によりますが、みんなで話し合って決めたこと自体が重要で、後のトラブルの備え、総会の議事録に残しておくことが最も大切です。

復旧時の公的支援
⑴被災者生活再建支援制度
 被災者生活再建支援法に基づき、自然災害により居住する住宅が全壊するなど生活基盤に著しい被害を受けた世帯に被災者生活再建支援金を支給し、生活の再建を支援するものです。
 罹災証明の状況をもとに、各区分所有者で市区町村に申請します。管理組合が申請することはできません。
⑵被災住宅の応急修理制度
 災害のため住居が半壊の被害を受け、そのままでは居住できない場合にあって、応急的に修理すれば住むことが可能で、その所有者の資力が乏しい場合に、自治体が必要最小限度の修理を行う制度です。
 対象範囲は、屋根、壁、床等、日常生活に必要欠くことのできない部分とされています。

復興の妨げは事前に対処を
 以上のように建物の被災状況によって復旧・復興の手続きは異なります。区分所有者の中に管理組合の判断の成否や手続きに不満を持つ人が現れ、復興の妨げ・トラブルになることが考えられます。
 このため、被災時の避難生活の準備だけでなく、マンションでは復興の道のりも視野に入れ、その対処方法も事前に準備しておくことが何よりも重要だといえます。

大規模修繕工事新聞 170号2024-03