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マンションストック長寿命化等モデル事業成果報告 その2/次世代に応える設備の導入、超高層マンションの室内排水管工事、 小規模マンション建替え、賃貸・分譲併存団地の建替えetc.

国土交通省が2月13日に実施した、マンションストック長寿命化等モデル事業成果報告会の後編です。今回は、先導的な10マンションの取組事例のうち、6~ 10を紹介します。
 マンションストック長寿命化等モデル事業は、マンションの長寿命化等を実現する先導的なマンションの改修や建替えプロジェクトに対する支援制度で、事業前の計画段階で年500万円(上限、最大3年)、工事の実施段階で1/3の補助が受けられるものです。


【報告】
管理組合では、「安心して暮らしやすいために」「次の世代への継承」―この大きな2つのテーマに沿って、それぞれ3つの工事の取り組みを行いました。
⑴「安心して暮らしやすいために」
①長寿命化に資する、新しい高耐久材料や工法の導入
 こちらは大規模修繕の周期を、今までの12年から18年に延長するという工事です。シーリング材、塗装材、防水材、ひび割れ補修材で高耐久材料を採用しました。
 タイルの浮きの補修はPDピンニング注入工法(特殊コンクリートビスによる機械固定)を採用。今後の修繕でも使えるよう、1枚単位でしっかり分かる補修図面(タイル割付図)作りも行っております。
②高齢化や多様な居住ニーズに対応する住戸改善
 照明器具のLED化、直結増圧給水方式への変更、エレベーターのロープ式への変更など、過去に電力需要削減から、高圧受電方式から低圧への切り替えを実施しました。
 バリアフリー改修では、自主管理歩道や屋外階段出入口段差部をスロープ化、エントランスホールと共用廊下間の扉の自動ドア化、ゴミ置場引き戸の改良、玄関ドアの更新などを行いました。
③防災性を向上するための改修
 「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を参考に、低圧化によるキュービクルの撤去、電気室の中に電気関係の設備の集約、電気室の防水扉化を行いました。

⑵「次の世代への継承」
④長期優良住宅認定への対応
 まだアルミサッシ改修を行っていないため、省エネルギー性の要件を満たすかどうかを検証した。
⑤長期修繕計画の見直し
 大規模修繕を18年周期に延長したので、実際には大規模修繕が3回入る54年間という計画を作成しています。
⑥合意形成が円滑に進む環境づくり
 マンションみらいネットの活用、改修に関する管理規約変更、駐車場料金の全額修繕積立金に繰り入れ。2023年5月、さいたま市の管理計画認定取得、管理業協会の管理適性評価制度で星5つの評価を取得しました。


【報告】

排水管はアルファコーティング鋼管が使われていましたが、穴が開いてしまう事象が発生。特殊変化ビニール樹脂の被膜が剥がれている状況が確認できました。工事を行うと、上階で排水制限が生じます。
 更新工事の全体工期は3年。専有部内にも縦管が配置されており、上階では最大で約45日間排水制限が生じる予定でした。
排水管工事の検討にあたっては全40種類の部屋タイプの調査を実施し、管理組合と協議を重ね、4項目を提示しています。
① 超高層用の樹脂製排水継手を採用し、オール樹脂化による長寿命化
 スラブ貫通部分に使用できる超高層用の塩ビ製の集合管が開発されていることから、集合管も含めてオール樹脂化による排水管の長寿命化、部分更新性、遮音性の向上を図ることとしました。
②省スペースコア抜き機専用治具の開発
 省スペースでもセットできるコア抜き器の専用治具を開発し、はつり作業で発生する大きな騒音や粉じんなどの負担の軽減を図りました。専用治具については特許出願中です。
③ 排水制限を居住者間の協力体制構築や災害訓練の機会にする検討
 排水管工事を行うことを災害訓練と位置づけて、管理組合としても前向きに取り組もうと、携帯式簡易トイレ、開発中のポータブル水洗トイレ、仮設のトイレの試験使用を行いました。
④配管・内装材プレカットによる専有部での工事量軽減
 建物まわりにプレハブ建物を設置し、そこを加工やストップヤードとして活用しました。共用廊下や専用部内での作業量を減らし、居住者の負担軽減を図りました。


 【報告】

2023年に一括建替え決議を可決、建替組合が認可されまして、現在も建替え事業の推進中です。
 検討内容としては、大きく2筆に分かれている土地の東側を再建マンションの敷地と設定し、保留敷地に設定した西側敷地を既存建物の仮住まいとして利用するという計画です。
 西側仮住まい事業のメリットは、再建マンションの再取得者と転出者の両者にとって利益がかなうこととすることです。再取得者は、建替組合に家賃を支払うことで、その賃料収入を原資として仮住まいの支援金等となります。転出者も再取得者が西側で仮住まいを確保することから、転出候補先が探しやすくなり、より希望に近い転出先探しが可能となります。
 また、保留地において、再建マンションの取得者の利便性を考慮し、医療モール、提供公園の位置を地域に貢献できるよう、真ん中に移転しました。共用棟については集会室やカフェなどコミュニティ機能を設けました。
 さらに都市ガスで電気をつくるガスコージェネレーションシステムの導入、再建マンションの完成後のコミュニティ形成活動(イベント等)の検討もしています。


 【報告】

もとRC 5階建て・15戸+店舗3区画のマンションをRC10階建て・24戸に建替えたという事例です。
 エレベーターのないマンションで、4、5階に住む方が年々高齢化し、漏水事故もかなり起きていて、小規模マンションであるがゆえ、修繕積立金も積み上がっていかない中で、改修か建て替えかという検討が進められていました。
 建替え事業の仕組みは、任意の建替え(全員同意)と自主再建方式で進めることを確認しました。
 事業主体は、自分たちでつくる「建設組合」です。民法上の法人格はありません。円滑化法の「建替組合」とはそこが大きく違います。
 建設工事に着手する際、解体費、新築工事費、転出補償金に大きな費用がかかるけれど、金融機関の多くからは「つなぎ融資」の貸し出しは難しいと断られました。「法人格をなんとかできませんか」というのが理由です。最終的には地元の銀行に協力していただけたのですが、自主債権を展開していくにあたっては事業期間中の資金繰りが大きな課題でした。
 建替え事業の経過はスピーディで、検討開始は2014年くらいからで、都市まち研が入ったのが2019年。建替え決議を経て、2020年度モデル事業を採択していただいて、建設組合を立ち上げ、2022年3月に解体着工。翌2023年10月、再建マンションが竣工しました。
 こういった形でモデル事業で支援をいただきましたが、こうした小規模マンションへの支援を引き続き、広げていただけると本当にありがたいなと思っております。


 【報告】

建替え検討を進めるにあたり、大きく5点の課題がありました。
① 一団地の中で、分譲住宅の敷地は奥に位置すること。接道していないため、一団地認定の基準を満たさず、現状では建替えられない。
② 賃貸・分譲全体で一団地認定を受けているので、双方の建物の配置等に影響を受ける。
③ 雨水管や汚水管といったインフラ管も賃貸住宅と共有されている。
④ 建替えの合意形成として、区分所有者の要望が高い南向き中心の配棟計画の実現や高齢者70%超の区分所有者の負担軽減のため床面積を最大限確保する。
⑤ 一方、郊外団地であるため都心部と比べ保留床の処分性が高くない。


 以上の課題に対し、計画支援型のモデル事業として各種検討、関係者との協議を進めてきました。
① 未接道の状態は、新設道路を整備する計画を立て、隣接小中学校の未接道状態の解消を図る。
② 将来的な運営や管理の面からURとも協議を行った中で、現在の一団認定を分割して進めていく方法を取った。
③ 共用のインフラ管は分割して廃止する。
      具体的には賃貸住宅に入っている汚水管や給水管について、分譲住宅との接続部分で閉塞処理し共用関係を廃止する方法、分譲住宅側に入っている汚水管は、公共汚水管の本管新設により、切り回した上で、撤去する方法をとる。
④ 建替え計画は約1,350戸。
 アンケートや個別面談で、約8割が再建マンションを取得することを確認。保留床の価格がダウンすると、権利者の経済的負担の増大が課題になるため、保留敷地を設定して敷地分割を行った。分譲マンションの事業用地を建替え事業から切り離して創出し、段階的施工を行って保留床の処分性を補完する。
⑤ 建替え敷地部分と保留敷地部分全体で総合設計制度と一団地認定制度を活用し、高さ制限、容積率の緩和を受けることで、南向き主体の配棟計画と床面積の最大化(権利者の経済的負担の軽減)を図った。


大規模修繕工事新聞 172号2024-04