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知っておこう!理事会・総会運営豆知識④/滞納督促に反応ない区分所有者 所在確認、どうすればいい?

 区分所有者Aさんは以前より管理費等滞納者リストに上がっていたものの、輪番制の理事会では毎年、督促を後送りしていました。そんなとき、管理組合で窓サッシの一斉交換工事の計画が浮上。しかし、Aさんからは、アンケートの回答がなく、連絡もとれません。
 そこではじめて理事会は、Aさんが管理費等滞納者リストに名前が載っていることを把握したのでした。
 理事会では、滞納管理費について改めて督促を開始し、訪問も繰り返しました。
 しかし、反応はまったくありません。
 Aさんは単身高齢者。引っ越したか、入院先または施設で亡くなったか、それとも…まさか住戸内で倒れている?―。
 所在不明な区分所有者について、理事会では所在の確認、亡くなっていた場合の相続人調査を行うことになりました。でも、どうやって――?

<一般的な解決までの流れ>
司法書士 行政書士 マンション管理士事務所 eリーガル司法書士・行政書士・マンション管理士・民事信託士
浦町謙太郎氏
 事例の場合、同マンションの登記名義人はAさんから変わっておらず、またAさんの登記簿上の住所も同マンションのままだったので、区役所に行き、理事長名義で本籍入り住民票を取りました。管理組合は管理費等の債権者(=利害関係人)であるため、利害関係人であり、請求が正当であることを明らか(疎明)にしてAさんの住民票を取ることができます。
 住民票をとると、今度はAさんの戸籍を取得します。ここでまず配偶者や子についての情報を得ます。事例では、戸籍謄本に死亡記載があり、亡くなっていることがわかりました。
 そうなると今度は、相続人調査です。Aさんの戸籍を死亡から出生まで遡ると、婚姻歴がなく子どもはありません。なので取得した戸籍ではわからない、親兄弟が載っている古い戸籍(改製原戸籍)等を取ります。
 それをみるとAさんの親、兄弟は亡くなっていました。そのため、戸籍から甥姪を追いかけました。
 辿り着いた甥姪がAさんの相続人であり、管理組合が滞納管理費を支払ってほしい旨の手紙を出したところ、その人たちからは「Aさんとは会ったこともなく、知らないから」という返答があり、最終的に全員が家庭裁判所で相続放棄しました。
 相続人不存在になったことから、家庭裁判所に相続財産清算人選任を申し立てることになりました(※ワンポイント参照)。
 この時、予納金が発生します。清算人の報酬、裁判所の費用等に充てられます。事例の場合は約100万円が必要でした。
 この予納金は、清算人によって住戸が任意売却または競売で現金化されたあと、売買代金から戻ってくる可能性があります。
 事例のケースは、不動産会社を通して任意売却が行われ、抵当権はついていなかったので、予納金、滞納管理費は全額回収することができました。

 ちなみに登記簿取得などの手続きについて、標準管理規約では、滞納管理費等の請求に関する訴訟や法的措置は理事会の議決事項となっています(54条)。ただし、相続財産清算人の申し立て時に予納金が発生するなど、総会の承認決議をとっておいたほうがよい場合もあります。
 手続きは理事会で行うこともできますが、実務はたいへんな労力がかかります。必要書類を作る場合などはマンションに詳しい弁護士、司法書士に相談することも一考でしょう。当該マンションに詳しいことから、相談した弁護士、司法書士が相続財産清算人に選ばれることも想定されます。

「所有者不明専有部分管理制度」の創設
 現在、区分所有法制改正において、「所有者不明専有部分管理制度」の創設が検討されています。
 現行制度は、所有者の死亡後、相続人が存在しない場合に限り、相続財産清算人を選任し、所有者の財産を清算します。一方、新たな制度では、所有者が不明な場合に所有者不明専有部分管理人を選任し、専有部分の管理・処分を行うことができるようになります。
 改正案は現在行われている国会に提出される予定です。

参考図書
マンションにおける高齢居住者
支援のための民事信託活用手引き』
編者/一般社団法人民事信託推進センター
発行/日本加除出版㈱
定価/ 4,290円(本体3,900円+税)

大規模修繕工事新聞 172号 24-04