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マンション関連判決例紹介/放置自転車の処分には慎重な対応を 「自力救済」は所有権侵害の可能性あり

【事案の関係者】
原告X: 本件マンションの区分所有者(代理人はなく、本人訴訟と考えられる)
被告Y:本件マンションの管理組合

【事案の概要】
1. 平成28年6月のYの総会において、本件マンションの駐輪場に放置された自転車の取扱いが協議され、その結果、Yは業務委託している管理会社Zに対し、上記自転車の撤去を依頼した。
2. Zは平成29年3月、本件マンションの居住者に対して、該当の自転車の所有者等は同月末までに本件管理会社に届け出るよう注意喚起をした上で、同年5月26日まで上記自転車を本件マンションの敷地内で保管し、同日、届出のなかった自転車を本件マンションの敷地から撤去して廃棄した。廃棄された自転車の中に、X所有の自転車が含まれていた。
3. その後、Xは、駐輪場に自転車を置いておくと盗まれるおそれがあるとして、新たに所有するに至った自転車を本件マンションの共用部分である通路に置いた。
4. Zは平成30年1月頃、「私物はお部屋の中で保管して頂きますようお願いいたします」などと記載された貼り紙を上記自転車に貼り、また、平成29年10月頃および令和2年4月頃、「自転車などの私物を共用廊下に置くことは緊急時の避難の妨げとなる場合があるため禁じられております」などと記載された貼り紙を本件マンション内の共用部分の通路の壁に貼った。上記の貼り紙には、いずれも、Yの名称が記載されるとともに、「管理会社」としてZの名称および電話番号が記載されていた。
5. Xは、「Zが駐輪場に置いていた自転車を盗んだ」「新たな自転車を盗まれないように通路に置いていたところ、Zが貼り紙をするなどして嫌がらせをした」―このようなZの不法行為に対してYが適切な対応を取る義務を怠ったなどと主張して、その他の事情もあわせて、Yに対して200万円を請求した。

【事案の概要】
 Xの請求を棄却。
・ 本件自転車の撤去及び廃棄は、本件マンションの敷地内に放置された自転車への対応として、Zにおいて、本件マンションの居住者に対し、該当の自転車の所有者がいる場合には届出をするよう、あらかじめ相当の期間の猶予を設けて求めた上で、その猶予された期間から更に約2カ月を経過した後に実際に撤去および廃棄をしたものである。このような手順を踏んで行われたことからすると、Zが、届出のなかった自転車について所有権が放棄されていると理解したとしても、そのことが不合理であるということはできず、Xが所有していた自転車の撤去および廃棄について、Xが了承していなかったとしても、Zが上記自転車を「盗んだ」といえないことはもとより、上記撤去および廃棄につき、過失があったという
こともできず、Zの不法行為は成立しない。
・ Xが自転車を置いた場所が本件マンションの共用部分であることからすると、Zが貼り紙をしたことは社会的相当性を欠く行為であるということはできない。

【コメント】
 敷地内の放置自転車に頭を悩ませている管理組合は少なくないと思われますが、放置自転車の処分には極めて慎重な判断が求められます。
 当該自転車の所有権が放棄されたことが明らかではない限り、自転車の持ち主による所有権が認められる以上は、法的手続によらずに自転車を処分してしまうと、法が禁止する「自力救済」に該当し、持ち主の所有権を侵害したと評価されるおそれがあるためです。
 そこで、考えられる解決法としては、まず、警察に放置自転車が盗難車ではないか照会を依頼し、盗難車であることが明らかとなれば、警察が引き取った上で、持ち主に連絡してもらえることが多いようです。
 持ち主から盗難届が出されていない場合は、管理組合が遺失物法による遺失届を提出することによって、理論上は管理組合が最終的に所有権を取得するに至ることも考えられるのですが、私自身の管理組合理事としての経験上、残念ながら警察は遺失届をまず受理しないであろうと考えられます(首尾良く受理されたのであれば、遺失物法による手続を進めればよい)。
 このように放置自転車の所有者が不明で、かつ、盗難届が出されていない場合や、所有者は明らかであるものの、当該所有者が適切な駐輪位置で駐輪しようとしない場合は、自転車の撤去・廃棄を実施するには管理組合にリスクが付きまといます。
 本裁判例では、管理会社が合計約3カ月間の猶予期間を経て、注意喚起の上で撤去・廃棄に至ったことを違法であるとは判断されていませんが、あくまでもこの事例に限っての判断に止まり、他のマンションでも同様の措置を講じた場合に常に違法な自力救済に当たらないとのお墨付きが与えられた訳ではないことにご留意ください。
 結局のところは、当該マンションでの違法駐輪による被害状況、(持ち主が判明しているのであれば)持ち主の振る舞いがどうであったのか、持ち主と管理組合との間でどのような協議が持たれたのか、管理組合による注意喚起の内容や頻度、放置自転車の保管期間、管理組合の意思決定に用いられた手続き(総会決議か、理事会決議か、何らの決議もないのか)等の事情を総合的に考慮されることになるであろうと思われます。



大規模修繕工事新聞183月号(25-3)