一般社団法人全国建物調査診断センターが提供するサービス『マンションAI』。これをメインテーマに開催した第75回管理組合オンライン・セミナーを採録します。
今回は第2部ということで、全建センター・給排水設備改修相談室の木村章一室長が『マンションの給排水設備改修のレアケース~排水用特殊継手と専有部シンダーコンクリート内排水管の改修~』について掲載します。
視聴動画は下記URLよりVimeoとYouTubeで公開しています。
//zenken-center.com/75sm
<第2部の要約>
○テーマ: 『マンションの給排水設備改修のレアケース』
~排水用特殊継手と専有部シンダーコンクリート内排水管の改修~
○講師:全建センター・給排水設備改修相談室 木村章一室長
1.事例マンションの工事概要
事例マンションは133戸の規模数ですが、住戸タイプが45タイプという、非常にバリエーションの多いマンションであり、それだけ専有部分に入って排水管を改修することが難しいマンションでした。
改修前の排水立て管システムは、排水用鋳鉄管にセクスチャー継手集合管継手を用いた単管式立て管システム(汚水・雑排水管合流)です。
このセクスチャー継手はフランスのメーカーと豊田工機のライセンス契約により国産化されたもので、昭和48年~昭和58年まで生産されました。(右図)
模式図にあるように、継手の中に排水枝管が二方向から入ってくる、そして汚水管を束ねたところで汚水雑配水の立て管がある、という特殊な継手で、これまでは台所の排水立て管、ユニットバスなどのユーティリティー系の排水立て管、そして汚水管、一部屋に3本の排水管が必要だったところを、特殊継手を使って1本にまとめているのです。
専有部分の面積を広くしたり給排水管の合理化を図ったりということで、こんなような継手が使われました。ただし、セクスチャー継手は、内部が非常に複雑で、定期的に実施されている排水管洗浄作業など、洗浄ホースが入らず十分な洗浄ができにくい構造となっています。このため、改修時に撤去したセクスチャー継手をみると、羽の部分にスケールがたまってかなり排水性能が落ちている状態のものがよくみられます。
さらに事例マンションでは、セクシャー継手という珍しい継手の使用に加え、排水枝管が部屋の床下のシンダーコンクリート(軽量コンクリート)の中に埋められているという、非常に難易度の高い工事でした。
(写真-1)
一般的なマンションは、コンクリートの床の間には空間があって、そこに給水管や給湯管、排水管、ガス管が入っているのですが、事例マンションはそれらが床下のコンクリート内に埋まっているタイプでした。
1990年前後、この時代のマンションの一部にみられる施工方法です。室内床施工の合理化、床鳴り対策、配管流水音対策などの理由で採用されていたようです。
事例マンションのシンダーコンクリート厚は20cm。工事の際は一旦コンクリートを削って配管を削り出すというような作業が必要となりました。
2.成功のカギを握る先行工事
このようなマンションで工事を成功するためには、実際の本工事をする前に、先行工事を行います。
排水管の撤去は皆さんが日常生活を営んでいる中で行わなくてはならないので、粉塵、振動、騒音の少ない工法が要求されます。
先行工事は、工具の選択、養生方法、騒音データ等の収集、改修するための専有部分の排水管の経路、配管、材料関係等を調べて、きちっと実施設計を行っていくということが目的です。
何の作業に職人さんが何人ぐらい必要だったか、何日間かかったのかを記録し、その結果を実施設計に反映していく、という作業を行っております。
この先行工事でわかったのが、床の中に埋まっている配管に触れずにコンクリートだけを壊す作業をしただけでも、埋まっている配管は老朽化が進行しているので、その振動で漏水してしまうことがあるということです。
このため、はつり工事が終わった後は試験的に水を流し、既存の配管が水漏れしていないかという、確認作業を行う必要があることがわかりました。
はつり工事の騒音については、先行工事の中で測定器を用いて騒音実測を行いました。作業地点から一番近い0.5メートル付近では88dBから95dB、リビングで80dBから82dBなど、極めてうるさい環境の中で工事を行うことを、数値をもって居住者に示しました。
先行工事の結果を受けて、『排水管改修工事基本計画』が立案しております。
3.工事の施工
実際の工事では、12階建て・133戸、45タイプという規模で、全体の工事期間は10カ月かかっております。
工事着工前には、工事全体の流れ、重要なポイント、お願い事項を含め工事内容を居住者に理解してもらうための工事説明会を開催。共用部分の着工後、専有部工事については、現場管理者が全戸対象に入室調査および工事説明を実施し、その調査結果をもとに入室工事の説明・仕上げ材の選定のために再び全戸を訪問しました。
このため、実際にお部屋で工事を行うまでに1.5カ月ぐらいの期間がかかっています。
居住者の皆さんは「私の家はどうなるの」といった不安があります。個別に訪問して、荷物が多いお部屋があったり、大きくリフォームしてある部屋があったり様々ですので、その様々に合わせた工事説明を行っておきます。
コミュニケーションを十分に取って、居住者の工事に対する不安を少しでもなくしていただいた上で、工事を進めました。(写真-2)
実際の工事写真です。コンクリートを砕いて台所排水管、洗面排水管を出した状況です。このようにコンクリートを解体して、配管を出していきます。こうしたときに気をつけなければいけないのは、間違ってガス管を傷付けないようすることで、慎重に、慎重に作業を進めていくということになります。
(写真-3)(写真-4)(写真-5)
そして、今回の事例マンションでは、セクスチャー継手がコンクリートの床の中(赤い点線)に丸々埋まっている状況でした。新築時、将来の改修工事が考えずに設計されたのかなと思います。
セクスチャー継手の撤去については、油圧ジャッキで押し上げて継手を撤去するという作業を行いました。
(写真-6)
実際のはつり作業の様子です。部屋の中は粉塵が飛び散らないように全面的に養生をして作業を行っています。
(写真-7)(写真-8)
室内の既存の排水管を撤去して新しく排水管を設置した写真です。はつり出したシンダーコンクリートの厚みは20cmでした。
(写真-9)(写真-10)(写真-11)
配管作業が終わり、床を復旧していきます。まず砂を充填し、砂を押し固めて、モルタル仕上げをしていきます。クッションフラワーを貼り直して部屋の内装工事が終わるということになります。
4.工事中の注意点・配慮点
①排水制限
工事時間中(作業開始から作業終了声掛けまで・昼休み含む)は、部屋の排水ができません。
工事を行っていない部屋も、下の階で排水立て管工事の際は排水制限が発生します。誤って排水すると、下の階へ大変な被害が発生します。
この管理組合では工事期間中は、集会室のトイレを開放して、皆さんに使っていただいていくということを行いました。
②工事範囲の片付け
工事範囲の片付けを工事当日朝までにお願いしました。片付け範囲は入室工事説明のときに荷物の量を見て判断していますけれども、クローゼットの中での作業もあったので、衣装ケースを工事会社が無償で貸しして、荷物の片付けをお願いしました。
③共用廊下の通行
作業中は作業員の出入りの際の扉開閉と、廊下に資材を置きます。このため、カラーコーンを立てたりしながら安全対策を取るなどの方法を用いました。
④簡易トイレの提供
トイレに行きたいときに遠い仮設のトイレまでいけないという方もいます。そうしたことも考えられるので、震災時などで使われる簡易トイレを希望者に購入していただくという対応もしました。
⑤各戸工事内容説明の実施
それぞれの住戸に適した工事内容説明書を全建センターと工事会社とが一緒に作って配布しました。
⑥その他
集会室は、騒音に対する避難所としても利用しました。
新たにソファーを購入したり、お茶菓子を用意したり、なんとなく居住者の皆さんが工事時間中、コンクリートを壊している騒音の中を避難するために集会室を利用していただいて、皆さんがくつろいでいただけるように、ということで、管理組合さんも一緒になって協力しながら工事を進めていきました。
仮設の洗濯機も設置し、居住者の皆さんにご利用いただきました。
(写真-12)(写真-13)
トイレの汚水管や台所の排水がへばりついた配管を撤去するので、マンション全体を汚さないようにするために、撤去配管箱を用意しました。
なお、撤去した配管の管口は撤去した時点ですぐガムテープで蓋して、汚泥が部屋の中やマンションの開放、廊下に漏れないよう配慮しました。
5.まとめ
シンダーコンクリート内にある配管は、どこからが共用部分で、どこからが専有部分なの、というのが非常に難しい問題だと思います。
個人で発注するレベルのリフォーム屋さんでは対応できないと思いますので、やはり管理規約を変更するなどの対策をして、管理組合として取り組むべきです。
また、今回の工事の成功は、先行工事や工事方針説明会などの細やかな配慮によるものが大きかったといえます。
実際にこのマンションでは、更新工事に反対する方もいて、実際には排水管の劣化診断をしてから本工事が終わるまで、7年間かかってます。
2年目が終わった時点で基本計画はできていたのですが、総会で否決されました。
それでも、管理組合のみなさんが根気よく、一生懸命やられた結果でようやく工事が実施され、成功されました。
大規模修繕工事新聞 2025-8月 188号




















