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区分所有者名簿閲覧謄写請求事件 令和5年9月19日東京地裁

組合員名簿、居住者名簿の保管、作成、閲覧
標準管理規約+コメントを参考に規定の更新を

【主文】
被告は、原告に対し、被告が保管しているYの区分所有者名簿を閲覧させよ。

【当事者】
原告:医療法人X 代表者X1
被告:Y管理組合 理事長Y1

【事件の概要】
被告Y管理組合の組合員である原告X1が、Y管理組合に対し、組合員名簿の閲覧請求権および謄写請求権を求めた事案。

【前提事実】
・Y管理組合の管理規約(本件規約)69条には、理事長は、組合員名簿を作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない旨を規定している。
・同条を受けて作成された組合員名簿には、「代表組合員氏名」「フリガナ」「居住/非居住」「備考」が存在し、他の記載はない。
・X1は、Y管理組合に対し、請求の理由欄に「管理規約の改正について、賛成者を募りたいため」と記載した閲覧および謄写請求書により、本件名簿の閲覧および謄写を請求したところ、Y管理組合は個人情報守秘、プライバシー保護の観点から同請求に応じない旨を回答した。

【被告(Y管理組合)の主張】
・管理規約には組合員名簿を閲覧させなければならない旨を規定するのみで、謄写については規定がない。
・管理規約は閲覧のみを許容する趣旨といえ、区分所有者は組合員名簿の謄写請求権を有しない。

【裁判所の判断】
・本件規約69条は、区分所有者名簿である組合員名簿の作成および保管を義務付け、また、組合員が理由を付した書面により請求した場合には、組合員名簿を閲覧させなければならない旨を規定しているところ、名簿の閲覧拒否事由について特段の規定を設けていない。
・このことからすると、組合員が理由を付した書面により組合員名簿の閲覧を請求した場合には原則として閲覧が可能とする旨を定めたものと認められる。
・他方、本件規約は謄写については特段の規定を設けていないところ、閲覧よりもプライバシー侵害の度合いが高いことから、これについては認めない旨をその自治により定めたと解するのが相当である。

【コメント】
令和6年6月の標準管理規約改正において、64条の2(組合員名簿等の作成、保管)が新設されました。条文は以下のとおり。

第64 条の2
理事長は、組合員名簿及び居住者名簿を、書面又は電磁的記録により作成して保管し、組合員の相当の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。(略)

理事長は、前項の規定により閲覧の対象とされる組合員名簿等に関する情報については、組合員の相当の理由を付した書面又は電磁的方法による請求に基づき、当該請求をした者が求める情報を記入した書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができる。
3(略)

理事長は、第19 条(専有部分の貸与)又は第31 条(組合員資格の得喪)の届出があった場合に、遅滞なく組合員名簿等を更新しなければならない

理事長は、毎年1回以上、組合員名簿等の内容の確認をしなければならない。

この条文の新設で、理事長には①組合員名簿と居住者名簿の作成・保管義務、②組合員からの理由をつけた書面による請求があれば閲覧させる義務、③任意ですが書面の交付、メール等(電磁的方法)による提供といった規定ができました。
64条の2関係コメントでは、高齢者、障害者、乳幼児など災害弱者を事前に把握しておくことが望ましいとされています。
とはいえ、閲覧等に関しては、プライバシーに留意することも添えられていて、「閲覧の請求理由に照らして不要と思われる項目については、開示しないことも可能である」とも記されています。
居住者の高齢化、賃貸化や所在不明者の増加等によってスムーズな管理運営が困難となっているマンションが多くなってきたことから、このような条文が盛り込まれたのでしょう。
コメントの冒頭では、「組合員名簿のほか、設備点検等のために専有部分への立入り等を行う際の連絡先を把握するために、賃借人を含む現にマンションに居住している者の氏名や連絡先等を記載した居住者名簿を作成、保管することも定めている」とあります。

また、「居住者名簿の作成に当たっては、災害時における避難の支援や安否の確認等の円滑化の観点から、高齢者、障害者、乳幼児など災害時に自ら避難することが困難な者を事前に把握しておくことが望ましい」とも書いてあります。

掲載した裁判例は、おそらく理事会の運営に不満を持つ区分所有者が組合員名簿の閲覧を要求したと思われるため、64条の2の規定を設けた目的と異なるかもしれません。
とはいえ、よりよい組合運営、コミュニティー形成を行っていくためにも、今後は防災面からも、社会福祉の面からも、組合員名簿、居住者名簿の作成が必須になっていくと思われます。
64条の2関係コメントには個人情報の取り扱いにも触れていますので、よく参考にして、組合員名簿、居住者名簿の作成に取り組まれたらよいのではないかと思います。

大規模修繕工事新聞 2025-10月 190号